林檎が実る千曲川

日  時:2001年10月7日(土)〜8日(日)
天  気:10/7 晴れ。気温高く風弱し。10/8 晴れのち曇り、気温高く風弱し。
行  程:10/7 豊田飯山IC―1200飯山―1230,1320立ヶ花−1500,1510古牧橋手前−1600飯山カヌーポート(幕営)
10/8 840飯山カヌーポート−1015,1130上境―1300豊田飯山IC
漕行距離:約30km
漕行時間:約5時間

【1日目】
「全然瀬がないねー」「話が違うじゃない」漕ぎ出して30分になるというのに瀬は全く現れず、水量豊かな川はりんご園の間をゆったりと流れて行く。両側の山並みが雄大で景色はいいのだが、水はお世辞にもきれいとは言えず、生活廃水で緑色に濁っており、おまけにドブ臭い。ただ、水深があるので釣り師が立ち込んでおらず、気を使わずのんびり下れるのはいい。もっともこの水では鮎などいる筈もないが。川幅は広い所では100m以上ある。

千曲川 千曲川 千曲川 千曲川
 
ここは信州平野の北端を流れる千曲川。長野市のやや下流の立ヶ花橋からスタートした所だ。今回はインターネットでアメリカから個人輸入したダッキー(スターンズのタンデム艇)の川下りデビュー戦である。大きな波にどれ位安定しているか試せると張り切って来たのに、ガイドと違って鏡のような静水が続いて拍子抜けである。ダンサーのF氏もグモテックスのT氏もダレている。

事前に調べたサイトでは「突撃立ヶ花」とか「1mの大波」とか「沈したら1km流される」とか刺激的な表現が多かったので、さぞかしすごい瀬の連続だろうと多少緊張し期待もしたのだが。余り単調な流れに飽きた頃、ようやく左右の山が迫ってきて渓谷の様相となり、ザーッという波の音が近付いて瀬が現れた。「キャッホー」「イェーイ」待ちわびた瀬の登場に歓声が上がる。しかし、水量は多いし隠れ岩もなくストレートなので、多少波が高くても全く緊張することはなく、快適な波乗りを楽しみながら難なく通過。5ヶ所ほど瀬があり、ごく一部に1m近い波はあったが、それもほんの一瞬で、我々軟弱カヌー隊には丁度いい刺激だった。難易度が那珂川と気田川の中間位というのは、まあ当たっている。

大波に 突っ込むカヌーの 楽しさよ

新艇はすこぶる安定しており、浮力が大きいので波に乗り上げて上下に揺さぶられるものの、身体まで波をかぶることはない。少々の横波は問題なかった。これならかなり厳しい川でも下れそうだし、瀬の中で写真を撮れるかも。再び、平野の中のゆったりした流れとなる。那珂川を一回り大きくした位の川幅である。晴れた空にはとんびが悠然と舞い、河原には点々と白鷺が羽を休めている。「ゴイサギ」だろうか、見慣れない大きな鳥が棒のように突っ立っていた。両岸には相変わらずりんご園が続いており、水際にかなり実が落ちている。今回は見なかったが、増水すると川面をりんごが流れることがあるそうだ。

右手には高井富士とも云われる高社山が大きくそびえ、左手には斑尾山など北信の山々が連なっている。山の斜面には木島平を始めスキー場が並んでいるが、無雪期は伐採跡が痛々しい。右手奥には志賀高原も近いはずだ。たまに岸辺で釣り糸を垂れる人以外は人の気配がない。カヌーも先程の瀬の途中で見掛けたファルトの一組だけ。オレンジ色の古牧橋の手前で右岸に上陸して休憩。岸辺はヘドロが溜まっていて靴が潜るので気持ち悪い。那珂川でもこんなことはないので、かなり汚染がひどいということだ。もう千曲川の清流を取り戻すことは出来ないのだろうか。

古牧橋からは1時間も掛からず荷物をデポした飯山カヌーポート到着。もっともカヌーポートと言っても看板も設備もなく、ただの河原である。釣り人が水際ギリギリにテントを張っているが、ここは石ころだらけなので我々は少し上の河川敷の草原にする。T氏には立ヶ花まで汽車で車回送に行ってもらい、F氏と荷物をえっちらおっちら運び上げてテントを設営し、夕食の支度を始める。切った鱈と野菜をペットボトルの水で簡単に洗い、鰹節でだしを取った鍋にぶち込む。後はコンロで煮るだけ。秋の陽は落ちるのが早く、5時というのにもう辺りは暗くなった。

千曲川 千曲川 千曲川
 
芋が煮えた頃、T氏が運転するイプサムがライトを点けて帰って来た。いいタイミングである。早速ビールで乾杯して、鍋を囲む。5人でも十分な量の鍋を何とか3人で空け、うどんで仕上げる。もう、腹一杯で動けない。腹ごなしに河原や土手をウロウロ散歩する。風もなく静かな夜だ。星は多少見えているものの、街の明りで山が白く浮かび上がり、満天の星とはいかない。広い河川敷に虫の声が響く。土手の上のバイパスを通る車が夜更けまで途切れず、テントで寝てみると地面を伝わる走行音がいつまでも耳障りだった。

【2日目】
2日目は薄曇り。起きてすぐ飯山駅まで時刻表を見に行く。昼は本数が少ないので、朝のうちに車をゴール地点に置いてくる方が効率良さそうだ。早速、T氏に上境へ向けて出発してもらう。待つ間にテントを撤収しながら、朝食の準備をする。丁度用意が出来た頃、電車で戻ったT氏が土手の上に現れた。またまた、腹一杯食べて荷物をまとめ、シートをかぶせる。カヌーの空気を入れ直して出発。緩い追い風。川幅50〜150mだが、昨日より流れは速い。漕がなくても両岸の景色がどんどん流れて行くので気持ちいい。水量多く瀬はありそうにない。出発してすぐの中央橋には「日本海まで187km」の標識あり。秋の里を縫って、千曲川は悠然と流れて行く。

信越の 山波遥か 千曲川

悠々と 流れる大河に 身を任せ

りんごの木に赤い実がびっしり付いている。鳥をおどすバンバンという音が周囲の山々にこだまする。10月というのにまだ稲刈りしてないのだろうか?それとも熟れたりんごを守る為か?

林檎生る 土手の景色が 流れ去り

この川は水が汚いものの、堰やコンクリート護岸やテトラポットなどの人工物がほとんどなくて、自然の川の景観を残しているのがいい。しかし、両岸の木々には増水時の名残のゴミが点々とへばりついていて目障りだ。途中の橋桁には流木が数メートルの高さに積もっている。右岸沿いにある柿の木の脇を、飯山線の気動車が1両長野へ向かって走って行く。のどかな里の秋である。湯滝橋の手前が今日最初で最後の瀬になっており、快適に乗り切って橋をくぐるとゴール地点の上境である。古牧橋の辺りと違ってここはきれいな砂浜になっている。

目の前には日帰りの湯滝温泉がある。新しい露天風呂からはすぐ下に千曲川の瀬が見える。これで300円は安い。さっぱりした後、カヌーを積み込んで飯山へ向かい、無事荷物を回収。蕎麦屋に寄って、本場の戸隠そばと飯山名物という謙信ずしを食べてみた。謙信ずしは熊笹の葉にしゃりを薄くはりつけて錦糸玉子やしいたけを乗せたすし。それが5枚も入っていてざるそばとセットで満腹になった。紅葉はなかったが、赤く実ったりんごに秋を感じたツアーだった。