梅雨空の魚野川と切明の露天風呂

日  時:2000年6月17日(土)〜18日(日)
天  気:6/17 くもりのち雨。気温低く風弱し。6/18 快晴、気温高く風弱し。
行  程:6/17 850湯沢IC−940,1040 姥島橋−1230,1300第2堰堤−1400,1405塩沢付近の河原−1430,1435 坂戸橋−1455,1529 六日町駅−1545石打駅−1610,1615 姥島橋−1635,1655 坂戸橋−1730十日町
6/18 855十日町−1015,1130切明温泉−1410石打IC
漕行距離:約10km
漕行時間:約4時間

【1日目】
uono2000 大泉JCで若干渋滞したが関越道は全く順調に湯沢IC到着。4月の中央道と違って山はくっきりとは見えず、渋川辺りから左に榛名山がやや霞んで見えたくらい。赤城山は雲の中。水上からは正面に谷川連峰が間近に見え、雪を冠った谷川本峰のオキの耳、トマの耳から万太郎、仙ノ倉の長大な稜線が巨大な壁のように立ちはだかっていた。車が1台なので犀川のようにタクシーを使うか、並行する上越線の電車にするか思案どころである。

空はどんより曇っている。予報では今日は晴れのち曇り、明日は曇りのち雨なので、今日は降らないはず。途中のコンビニで昼食を仕入れ、石打に近い姥島橋に到着。魚野川は谷川岳を源流とし、上越線沿いに北上して小出から西に向かい、越後川口で信濃川と合流している。ルートを検討の結果、車はここに残し、下れる所まで下って電車で戻ることにする。天気次第だが、ゴールは浦佐ぐらいか。「調子良かったら小出まで行きましょう」と張り切りボーイのF氏。

魚野川 魚野川
 
橋の近くは激しい瀬が続いていてエントリー出来ないので、数百m下って車をデポ。この川は岩が多く、瀬も激しそうなのでファルト艇では不安になり、ダンサーを借りることにする。うまくバランスが取れるか自信がないがともかく乗艇。谷川岳の雪融け水はすこぶる冷たく透明度は抜群。今までで一番きれいではなかろうか。すぐに激しい瀬があり、いきなり頭から波をかぶったが、何とか沈せずに乗り切る。水量が多くて迫力満点。次々に瀬が現われるので緊張の連続でカメラを出す余裕は全くない。

所々釣り人が流れに立ち込んでいる。この川のアユ解禁は他の川と違って7月だから、まだ釣りをしてはいけないはずなのにけしからん奴等だ。なるべく離れて通過。前方にやばそうな瀬を発見。下りて確認すると、結構厳しそうだ。一寸びびってポーテージ(艇を持ってまたはかついで歩くこと)しようと思ったらFさんが果敢に漕ぎ出した。大丈夫かなと心配しつつ、迫力あるシーンを河原から撮影する。無事通過。続いてT氏も挑戦。ゴム艇は安定しているので簡単にクリア。

魚野川 魚野川 魚野川 魚野川
 
二人が行ったからには自分も行くしかない。覚悟を決めてドキドキしながら漕ぎ出す。上下左右に大きく揺られたが岩にもぶつからず何とかクリア出来た。ここで左からの流れと合流しており、川幅がぐっと広がる。しばらく下ると大きな堰堤が現われた。下りて偵察するが3m位の階段状で、ポーテージするしかない。堰堤の直下は激しく渦を巻いている。「ここから行きましょう」とFさんが言い出す。確かに面白そうだが、乗った直後が激流なので「止めた方がいい」と言ったのに漕ぎ出してしまった。恰好良く流れに乗った所をつかまえようとカメラを構えたが、あっという間に沈。複雑な渦があったらしい。助けようとしたが護岸のテトラポットが邪魔で行けない。幸い100m程下流で河原に上がることが出来た。

魚野川 魚野川 魚野川
 
少し下流にまた大堰堤あり。ポーテージして小さな中州に上がり昼食にする。堰堤のお陰でほとんど進んでいない。まだ先は長いなと思っているとパラパラと降り出してしまった。今日は降らないはずだったのに、これでは意気が上がらない。雨の中漕ぎ出すとまたもや堰堤。冷たく早い流れに腰まで浸かってのライニングダウン(水に浮かべたカヌーを引っ張って歩くこと)や長いポーテージにうんざり。堰堤一つで30分位のロスになる。

堰堤のかなり手前でカヌーを岸や中州に上げておき、堰堤の下流を偵察してカヌーを運ぶルートと漕ぎ出す場所を確認し、再び戻ってポーテージまたはライニングダウンする。急な流れの中や急斜面の護岸や土手の藪をカヌーを持って延々と歩くのは結構しんどい。今回は3回あった。沢登りの際、滝の高巻きでえらい藪こきをする時の気分に近い。「何のための堰堤なのか判らないですよー」と水道局に勤めるT氏が怒る。取水口はないから農業用水や飲料用ではないし、発電にも関係ない。水勢を抑える為かもしれないが、とてもこんなもので洪水を防げるとも思えない。ただ自然を破壊しているだけだ。

魚野川
 
いくつかの橋をくぐり、益々川幅が大きくなった頃、雨は本降りになり、川面から霧が沸き上がり始めた。生暖かい風が頬をなでる。冷たい水面に南風が吹き込んだようだ。湿度100%近く、眼鏡が曇って仕方ない。山やスキーではしょっちゅうだが、川下りでこんなことは初めてである。右手には白い曇天をバックに巻機山から越後三山の稜線がグレーのシルエットを為している。「水墨画の世界だねー」とFさんが感嘆の声を上げる。

河原で少し休んで地図を見る。時間の割にほとんど進んでいないが、皆堰堤越えでくたびれたので「天気も悪いし、もう止めようよ」ということになり、六日町の坂戸橋をゴールと決める。しばらくしてそれらしい橋があった。左岸に「六日町小学校」の建設現場があるので間違いない。本日のツーリングはここまで。それにしてもえらく大きくて立派なビルのような小学校である。さすが「公共事業の本場」新潟県。カヌーを土手にデポし、雨の中を駅へと向かう。

アーケードのある商店街だが、土曜の午後だというのに閑散としている。シャッターが降りたままの店も多く、うら寂しい。しかし、六日町の駅は新しくて立派な橋上駅だった。30分程待って、2両編成の電車に乗り込み、3つ目の石打で降りる。雨はほとんど止んでいる。この駅は駅舎もスキー帰りに長い行列をした小さな駅前広場も昔のままだ。街並みも当時のままだが、廃業した旅館や店が多くてすっかりさびれている。

昨日立ち寄ったコンビニの横を通り、国道17号を北上するとスタート地点の姥島橋である。車に乗込み坂戸橋へ。再び本降りになった中でカヌーを回収し、山向こうの十日町へと車を走らせる。Fさんのお兄さん宅へはまだ明るいうちに到着。

【2日目】
翌日は予報に反して素晴らしい快晴。家の裏手に広がる緑豊かな田園風景が清々しい。その向こうに信濃川が流れているそうだ。皆に見送られ、お兄さん宅を後にする。今日は苗場と鳥甲山の間の中津川渓谷を目指し、カヌーで下れそうなら少しパドリングするし、駄目なら切明の河原の露天風呂に浸かろうという趣向だ。国道117号を津南で左折して県道へ入ると急な登りとなる。谷が深くて降りられないので早々にカヌーはあきらめ、露天風呂に目標変更。鳥甲山の壮絶な断崖絶壁を右手に見上げながら、秋山郷のアップダウンの激しい狭い道を延々とたどってようやく切明(きりあけ)温泉に着いた。

旅館のような温泉センターのような大きくて地味な建物がある。駐車場は随分広い。早速、タオルを持って川原へ下りてみる。少し林を進むと温泉が湧き出ている場所に出た。川の流れのすぐ脇に湯気が立っており、男性が一人湯に浸かっている。脱衣所などないので、岩の上に脱いだ服を置く。そこら中の砂に穴が掘ってあり、それぞれが湯船になっているので適当なのを選んで入ってみる。

「うわー熱い!」足を付けられないくらいに熱いので、砂を掘って川の水を引き込んでぬるくしないといけない。湯には枯れ葉や苔などが浮いているが、雲一つない青空の下で全身を湯に沈め、ゆったりと足を伸ばすと極楽である。すぐ目の前を苗場山の雪融けの清らかな水がとうとうと流れ、周りの山々は新緑にあふれ、エゾハルゼミが山全体を揺るがすように「ジャーン、ジャーン、ジャーン」と大合唱。こんなに豪華で贅沢な露天風呂は初めてだ。しかも、無料。その割に人がいないのがいい。サウナのように熱い温泉の後、冷たい川に入って足を冷やしてまた熱い湯に入る。最後は大きな岩の上で素裸のまま、とかげ。しばらく大の字になって青空を見つめる。

渓谷に エゾハルゼミが こだまする

新緑も 目に鮮やかな 清流の湯

青空を 裸で見上げる 岩の上

追記:前回の犀川に続き、今回も極めて印象に残る素敵な川旅だった。今回はF氏のダンサー(ポリ艇)を貸してもらったが、少々岩にぶつかっても平気だし、浅瀬で底がつかえても乗ったままで、ガリガリと強引に前進させられるので快適だった。それに椅子が硬いせいか最後まで腰が痛くならなかった。ファルト艇より安定は良くないので、激しい瀬を抜けてほっとした時に反転流にあおられて何度かグラッときたが、何とか立て直すことが出来た。川下りはこの方がいいようである。