桜の川旅 万水川〜犀川、梓川

日  時:2000年4月29日(土)〜30日(日)
天  気:4/29 快晴、気温高く弱い北風。4/30 高曇り、気温高く風弱し
行  程:4/29 豊科IC−1010,1220 中村(テント設営)−1245,1315万水川スタート地点−1400,1420 犀川合流点−1515中村(幕営)
4/30 830中村−1030,1100 梓川橋−1230,1430倭橋−1455松本IC
漕行距離:4/29約10km。4/30約5km
漕行時間:4/29 2時間。4/30 1.5時間
*参 考:高速料金(高井戸−豊科、片道)      4950円
   タクシー(中村−万水川)           3520円
     〃 (新村−波多)            1630円

【1日目】
初めての信州の川下りである。安曇野のワサビ田の脇を流れる万水川(よろずいがわ)からスタートして犀川へ合流するコースが中々良さそうである。中央道は快晴で見通しも良く、周囲の山がすっきり見える。真っ白な富士山が何度も顔を出す。

南アルプスや北アルプスの大展望を楽しみながら豊科IC到着。あちこちに満開の染井吉野を眺めながら明科(あかしな)駅の横を通り、篠ノ井線に沿って北上すると間もなく、ガイドブックにあった「中村マレットゴルフ場」の小さな看板を見つけた。

右折して細い道をたどると、すぐに犀川の河川敷にあるグラウンドのような広場に出た。今日のゴール地点であり、幕営地でもある。有料キャンプ場ではなくレクリエーションの場所のようで、地元の人が「マレットゴルフ」というゲートボールとパターゴルフの合いの子みたいなゲームをしている。有難いことに簡易トイレや水道もある。ここからは近くの山が見えるだけで、北アルプスは見えない。車が数台止っているが、まだ駐車の余裕は十分あるし、テントも沢山張れそうだ。

1台の1BOX車の横にスキンヘッドでサングラスの男性が一人、椅子を出して悠然と座っている。車の中にはロデオ用の短いカヌーも見える。広場の隅に車を止めてテントを張ろうとしたら、スキンヘッド氏が近づいてきて「その辺はトイレと水道に近いから、皆がうろうろして夜寝られないよ。反対側の方がいいよ」「今日はゴールデンウィークだから車も一杯になるし、テントも一杯になるよ」とのアドバイスに従って場所を移動する。「どこへ行くの?」と聞くので、ガイドブックを見せながら「万水川〜犀川」と答えると、なんと「この本を見て来たの。これ僕だよ」と写真を指した。一同唖然。カヌー雑誌のモデルになるなんて、やはり地元の主のようだ。カヌーの経験は相当なものらしい。カヌー教室を主宰しているらしく、しばらくすると生徒のような、仲間のようなパドラーが集まって来た。

T氏と二人でテントの設営を終えると、F氏がもう昼食を作り終えている。メニューはキムチ焼きそば。デザートにグレープフルーツを食べ、少し休憩してからカヌーの作戦を立てる。何しろ車1台での川下りは皆初めてなのだ。「タクシー会社の電話番号を調べてから、万水川のスタート地点まで車で行って、車はそこに置き、ここまでカヌーで下る。携帯電話でタクシーを呼び、スタート地点まで戻って車を回収する」ことにして出発。もちろん携帯電話が通じることはテストした。1BOX車はもういない。

梓川 梓川 梓川 梓川
 
明科駅に寄り、客待ちのタクシーに聞いてみると、同じように頼む人が多いらしく、「中村マレットゴルフ場」も「万水川のスタート地点」も良く知っているとのことで、着いたら電話するようにと名刺をくれた。これで安心。万水川のスタート地点からは雪の北アルプスが良く見える。予想通り、スキンヘッド氏の1BOX車が置いてあるが、他に車はない。ファルト艇、ゴム艇、ポリ艇と3人バラバラのカヌーで用水路のような万水川へ漕ぎ出す。

幅10m位で両側のコンクリート護岸が邪魔であまり周囲の景色が見えない。水も濁っていて一寸期待外れだ。水深は深く流れは遅いので、写真を撮りながらのんびりと下る。しばらく進むと護岸が低くなって北アルプスも良く見えるようになり、右に大きくカーブすると、いつのまにか随分水が透明になり流れも速くなって来た。雪解け水が地下から湧き出ているのだろうか?「大王わさび農場」に近づいた。雑木林の新緑の間に茅葺きの水車小屋が並んでおり、いい雰囲気だ。信州随一の観光スポットらしく大勢の観光客がこちらを見ている。カメラを向ける人もおり、一寸、動物園の猿状態である。我々も盛んにシャッターを切る。雑木林を抜けるとまもなく犀川との合流点である。

3本の支流が合流する場所なので、水量が多い時は大きな波が立ちそうだ。川幅はぐっと広くなり、北アルプスの大展望が広がる。犀川橋の手前で右岸の広い河原へ上陸。心ゆくまで雪山を眺める。一番左に大天井岳(と思っていたが、本当は常念岳)の大きな三角のピークが見え、そこから右に白い山並みが続いている。河原を後ろに下がると更に右の方の山も見えて来る。一番右に鹿島槍の双耳峰がちらっと見えた。初夏の陽射しが照り付ける。青空に白い雲が流れて気分爽快。

梓川 梓川 梓川
 
鮮やかな黄色のラフトボートが1艇やって来た。女性も交えて7〜8人乗っている。ラフティングするような激流はないはずだが、どこまで行くのだろう。雄大な景色をバックに何度も写真を撮って出発。すぐに犀川橋をくぐる。水量は豊かで流れはかなり速い。数箇所ストレートの瀬があり、結構波は高く面白い。大きな三角波にぶつかると艇が大きく上下に揺られ、迫力がある。ゴアの雨具の上から何度も波をかぶる。

左に大きくカーブする所で左岸に大岩があって、その裏側がホワイトウォーターになっており、数艇のロデオ艇が練習をしていた。スキンヘッド氏のカヌー教室である。艇の舳先を波に突っ込んで艫(とも)を高く上げたり、ロデオの技をやっている。先程のラフトボートも岩に横付けして上陸し、何やら講義している様子。しばらく下ってまた大きな瀬があった。1m位ありそうな一段と大きな三角波に艇が大きく持ちあげられ、続いて舳先がドーンと落ちる。頭から波をかぶってスリル満点。この瀬の途中で左岸にマレットゴルフ場が見えた。今日はここまで。二度ほど底を擦ったが、景色はいいし、面白い川だった。

カヌーをテントの横まで運び、着替えてからタクシーを呼ぶ。万水川のスタート地点に戻って車を回収し、下流のコースを下見してみることにする。国道19号を北上して5km程行くとダム湖になっており、ずっと両側が垂直の護岸で余り面白そうではない。幕営地に戻るともう夕方だがテントは全く増えていない。「あれ、テントで一杯になるはずじゃなかったの?」今夜のメニューは「キャベツとナスとベーコンとソーセージの白ワイン煮」と「揚げぎょうざ」。名前の恰好良さの割に簡単に出来た。明日の健闘を祈ってビールで乾杯。

昨夜は3時間しか寝てないので、食べ終わるとすぐ眠くなる。8時前に寝ようとしたが、二人が河原でたき火を始めた。外は誰もおらず、今夜はテント場も河原も貸切である。でっかい流木を突っ込むと、オレンジ色の火が大きく燃え上がった。火の粉が散る。暗い空には北斗七星が輝いている。とてもゴールデンウィークとは思えない、静かで贅沢な時間が過ぎて行く。シュラフに潜り込んだのは9時頃だったろうか。

【2日目】
二日目の朝は爽やかに冷え込んで霜が降り、テントもカヌーも真っ白だ。空は高層雲に覆われて高曇りである。朝食をしっかり食べてから土手のゴミ焼き場でたき火をする。「朝風呂」ならぬ「朝たき火」である。豪勢な火の横でデザートのグレープフルーツを食べる。今日のコースをどうするか色々考えたが、梓川を目指すことにする。今年は雪解けが遅くて水が少ないらしいが、新島々辺りから何とか下れるだろう。全部撤収してマレットゴルフ場を後にしたのは8時半頃。国道19号を南下。犀川と梓川の合流点から右に折れて、梓川右岸の見晴らしの良い土手道を新島々へ向かう。

この辺り染井吉野が満開で見事だ。ぼたん桜も一緒に満開である。二十数年振りの新島々の駅を右に折れて、土手の上から梓川をのぞいてみる。この土手の桜並木も満開で見事だ。丁度、田植えの時期で大量に水が取られているので、やはり川はすっからかんだ。これではカヌーは出来ない。「ここで花見して帰ろうか」「上高地へドライブでもいいな」と皆半分あきらめている。憎らしいことに平行する用水路はあふれんばかりの激流になっている。少し下って様子を見ることにする。

梓川 梓川 梓川
 
梓川橋まで来ると何とかなりそうだ。ここからスタートしてゴールは倭橋(やまとばし)とする。車をデポして河原に下り、ビールで景気付けをして11時頃出発。山合いに入っているので昨日のように展望は良くない。漕ぎ出してすぐに厳しいポイントがあった。瀬に杭が沢山あって抜けられない。右岸に寄って止めようとしたが、杭に吸い寄せられて乗り上げてしまった。何とか沈せず、上陸する。続く二人も上陸しようとしたが、ダンサー(ポリ艇)のF氏が止めきれず杭の間に吸い込まれ、あっという間に、逆巻く流れに飲み込まれてしまった。

T氏と二人で追う。波避けの構造物の為に落差のある危険な瀬が出来ており、F氏は為すすべもなく流されて行く。ここは瀬がずっと続いており、流れが強く水はしびれるように冷たいので身体が思うように動かせないらしく、中々岸にたどり着けない。かなり流されてから、ようやく岸に這い上がった。足が痛そうだ。二人でF氏を抱え上げようとした時、一旦岸に付けたダンサーがまた流されてしまった。あわてて追いかける。大きな石がゴロゴロしている川岸を石から石へ飛びながら、こけないように必死で走る。一瞬カヌーのスピードが落ちた。「今だ!」飛びついてカヌーを抑える。最初の杭から200m位は走ったようだ。

F氏は杭とカヌーに足を挟まれて強打したらしく、びっこを引いている。心配したが骨折はしていないようで、何とか漕いで下れそうだ。すっかり戦意を喪失してもう止めたくなったが、気を取り直して再び漕ぎ出す。人工物で危険な瀬がありそうなので慎重に下る。昨日の犀川よりかなり水が少ないので、浅瀬で艇の底がつっかえて何度も引っ張って歩く。やばそうな場所は早目に下りてウオッチする。3ヶ所程コンクリートの護岸と大岩で激流が作られている瀬があり、全てポーテージ(カヌーをかついで歩くこと)する。

特に、最後の瀬は一段と厳しかった。S字状に左カーブから右に曲る激しい瀬が左岸の護岸にぶち当たり、そこに左から別の流れが合流している所に更に大岩があるので、落差も大きく、複雑で険悪な渦を巻いている。ものすごい速さである。こんな所を波に乗ってジェットコースターのようにすり抜けたら最高に気分いいだろうが、我々の技量では到底無理だ。下手に突っ込んで岩に吸い込まれたら、沈だけでは済まず、カヌーがへし折れてしまうだろう。見るだけで勘弁してもらう。遠くに倭橋が見える辺りから、直線の長い瀬になったが、ここは水量多く岩にぶつかる心配もないので豪快に波乗りを楽しめた。倭橋の手前で右岸に上陸。スリルに満ちた二日間のツアーは終わった。梓川は傾斜がきつく、流れが速い。これで水量が多かったら、すさまじい激流になるだろう。

T氏一人で車回収に行ってもらう。松本電鉄が川沿いに走っているので、電車でも行けるはずだ。荷物を土手に上げようとしたが、河原の幅が広くて土手まで100m位ある。大きな石がゴロゴロして歩きにくいし、途中には小さな流れもある。5回位往復して何とか運び終えたが、40分も掛かってしまった。丁度1時間でT氏が戻って来た。電車は1時間に1本しかないので、タクシーを使ったそうだ。二人がカヌーを片付ける間に、F氏が手早く昼飯の支度をしてくれる。最後のメニューは「カレー風味のキャベツとソーセージとご飯のごった煮」。土手の外側を豊かに流れる用水路の前で味わう。残り物だが結構いける。皆、お代わりをして鍋を空にしてしまった。

日焼けした顔をお土産に、2時半に出発。帰りの中央高速も若干の渋滞で済み、初の信州ツアーは大満足の結果となった。タクシーを利用すれば車1台でも川下り出来ることが判ったので、これから計画を立て易い。次はどこの川へ行こうか?