アルプスの山旅5

《5.モンテローザ[MONTE ROSA 4634m]嬢との出会い》

モンテローザとリスカム

モンテローザ(左)とリスカム(クリックすると拡大します)
この写真は承諾を得て雄大なアルプスの山並みから転載させていただいています


モンテローザの地図

モンテローザの地図(クリックすると拡大します)

8/5 700起床―1000ツェルマット―1035,1050ローテンボーデン―1150,1210ゴルナー氷河中間点―1250モンテローザヒュッテ(泊)

ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて
この数日天候はすっかり安定して今日も快晴である。ゴルナーグラート行きの登山電車からマッターホルンが良く見える。終点の一つ手前のローテンボーデン[ROTENBODEN]で下車。ここは標高2815m。ゴルナー氷河へ向かって緩やかな道を200m程下る。

雪もなく写真を撮りながらのんびりハイキング気分である。目の前にはマッターホルン(4478m)から左へブライトホルン(4164m)、リスカム(4527m)そして目指すモンテローザ(4634m)と4000m級の巨大な山塊が白い壁をなして連なっている。このヴァリス山群はモンブラン山群と違って針峰はなく、一つ一つの山が独立して大きい。幅広いゴルナー氷河(約2580m)を横切るように進む。氷河に取り残された大きな岩に陣取って昼食を摂る。少し曇って来たのが気懸り。

 広大な ゴルナー氷河を 渡り行く

ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて
13時前にモンテローザヒュッテ[MONTE ROSA HUTTE]到着。標高2795m。素泊まり一人16SF。小屋の周囲に人は大勢いるが、日帰りで氷河をハイキングするカップルや家族連れがほとんどで、泊まる人は少ない。この小屋は今までで一番静か。皆、小屋のテラスのベンチに腰を下ろし、夕日を見るともなく食後の一時を過ごしている。

今日もT氏と一緒になった。ひげのN氏もいる。静かな黄昏時、目の前にはゴルナー氷河が大きく広がり、その向こうに背中から夕陽を浴びてシルエットになったマッターホルンが紅く燃えているようだ。ブライトホルンは半分雲の中、リスカムのピークはガスっているが、真に雄大で贅沢な夕焼けだ。こちらの人達はこんな景観を手軽に味わえるのだから実にうらやましい。
     黄昏の マッターホルン 紅々と


8/6 200起床―300モンテローザヒュッテ出発―400,410 3300m地点―600,610 4200m地点―820,835 4499m峰―940,1015モンテローザ山頂―1055,1100 4400m地点―1120,1140 4300m分岐点―1245,1300 7本目―1330,1400モンテローザヒュッテ―1500,1515ゴルナー氷河末端―1610,1615ローテンボーデン―1850ツェルマット―ホテルバンホフ(泊)

ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて
 スイスとイタリアの国境線上に位置するヨーロッパ第2峰のモンテローザは3つのピークを持つ。最高峰のデュフールシュピッツェ(4634m)、その北にノルトエント(4609m)そして南にジグナルクッペ(4556m)。我々はデュフールシュピッツェを目指す。

3時に出発。風はほとんどなく快晴。それ程寒くない。小屋の裏手のガレ場から階段状の岩場をたどる。1ピッチで台地上の雪原に出て、アイゼンを付ける。3300m地点だ。徐々に傾斜を増す大雪原をゆっくりと進む。トレースがあるのでラッセルはしなくてすむ。真っ暗な空が少しずつ明るくなり、西にマッターホルン、南にブライトホルンとリスカム、北面にはチナールロートホルン(4221m)、オーバーガーベルホルン(4063m)等周囲の山々がほの白く浮かび上がってくる。東には目指すモンテローザへと続く雪稜が大きく迫る。

6時頃、黎明の空を横切る飛行機雲が紅に輝いた。続いてブライトホルンやリスカムもピンクに染まった。全くの静寂の中、何という荘厳さだろう。二人とも声も出ない。モンテローザとは「バラ色の山」という意味だが、朝一番で朱に染まるからこの名が付けられたという。「ダーン」かすかに鈍い音がした方向を見ると、リスカムの山肌を大雪崩が雪煙を上げて落ちていく。氷河の段差で露出した岩が左手に現れた。この岩を左に見ながらさらに登り、大きく右へ方向を変えデュフールシュピッツェから右に落ちる稜を目指す。クレバスを迂回しながら氷雪面を左上して行くと細い稜線に出た。4499m峰である。ここから氷雪のナイフリッジを慎重に下って最後の登りに掛かる。両サイドが鋭く切れ落ちているので緊張させられる。

ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて ローテンボーデンにて

急な雪稜を喘ぎながら乗越すとその先はなかった。9時40分、デュフールシュピッツェに到達。数人立つだけがやっとの、針の先のような狭いピークで、ザイルで確保したまま写真を撮り合う。モンブランでたっぷり高度馴化したお陰で、今日は二人とも余裕がある。

ザイル付け モンテローザの 針に立つ

周囲の巨人達を眼下に出来る緊張感あふれるピークのたたずまいは、高峰に登ったという大きな達成感を与えてくれる。十分に本場アルプスの迫力を堪能して慎重に下り始める。トレースがはっきりしているので登りより楽だ。4300m分岐点辺りまで下るとカンカン照りとなり、強烈に暑い。左のグレンツ氷河と右のモンテローザ氷河に挟まれた広大な雪原を延々と下る。3km程でようやく雪原が終わり、アイゼンを外してガレ場をしばらく下ると、モンテローザヒュッテに帰着。1時間で氷河を渡り、緩やかな道をローテンボーデンまで登る。16時を過ぎているが、「電車で下るのもったいないから、ツェルマットまで歩こうよ」

あちこちにベルをぶら下げた牛や羊が草を食べていて、今にもハイジが現れそうな草原をマッターホルンを見ながらゆったりと下って行く。牛はもちろんだが、羊でもすぐ近くまで寄ってくると噛み付きそうで怖い。19時前、ようやくツェルマットに帰り着いた。面白かったがもうクタクタ。今日は行動16時間。再びホテルバンホフに泊まる。雪の状態が悪いマッターホルンをあきらめて、余り期待せずに向かったモンテローザだったが、実に大きくて素晴らしい山だった。

[ツエルマット―ローテンボーデン(登山電車片道)17.6SF]