アルプスの山旅2

《2.モアヌ針峰[AIGUILLE DU MOINE]南壁登攀》

7/23 600起床―835キャンプ場出発―920シャモニー945,1010モンタンベール―1135,1200メール・ド・グラス―1300,1320エグラレ岩壁基部―1440,1520小屋直下―1530クーベルクルヒュッテ(泊)―2130消灯

モンタンベールからのドリュ 氷河へ降りる メールドグラス氷河 メールドグラス氷河
ど快晴。9時過ぎ、モンタンベール行き登山電車に乗ると、2両連結の車内は満員だ。いくつかのトンネルを抜けると、目の前にドリュからグランシャルモまで大展望が広がった。25分でモンタンベール[MONTENVERS 標高1909m]に到着。緩やかな道をメールドグラス氷河[MER DE GLACE]へ向けて下って行く。鉄梯子を降りて、初めて氷河を踏む。いよいよ本番である。真夏なので氷は灰色に汚れており、ヒドンクレバスもなく、傾斜も緩いのでアイゼンもスパッツも要らず緊張感はない。

氷の上なのにかなり暑く、半袖でも汗びっしょり。広い氷河の真ん中に幅1m弱の川があって、きれいな水が豊かに流れており、手を浸けるとしびれるように冷たい。ひとかけらの雲もない群青色の空と雪を被った大迫力の岩峰、そしてその下に広がる大氷河。絵葉書そのままの光景が目の前に展開している。
     蒼空を 区切る雪峰 迫り来る
     清流が 氷河削りて 涛々と
エグラレの岩壁 ビキニの女性 クーベルクルヒュッテ グランドジョラスの夕焼け
氷河のガレは結構上り下りがあり、クレバスを避けながら登るのはきつい。4km程メールドグラスをたどり、左から合流して来るレショ氷河に入ると、垂直にそそり立つエグラレ岩壁の基部に着いた。岩壁には鉄梯子が延々と付けられており、かなり高度感がある。岩壁を越え、モアヌの山腹を巻き気味に残雪の道を行くと、二人の若い女性パーティーが楽しそうに談笑しながら降りて来た。なんと先頭の女性がビキニ姿で度肝を抜かれる。もう一人はタンクトップに短パン、もちろん足元は山靴で固めているが、何故か空身だ。
     雪山を ビキニ姿で 闊歩する
小屋の直下で3本目。南東のグランドジョラス北壁を双眼鏡で覗くと、ウォーカーバットレス左側の氷壁に二人パーティーが取り付いている。腹が減ってバテた。日本人のN氏と一緒になる。東雲山岳会だそうだ。15時半、クーベルクルヒュッテ[REFUGE DU COUVERCLE 2698m]着。フランス山岳会経営ということだが、小屋番は英語を全く解さない。頭にくるが仕方ない。

「予約なしだと19時まで待て」ということで小屋の外で日向ぼっこ。南向きの見晴らしのよい台地に建てられた石造りの立派な小屋の周囲はきれいに整地されており、周囲の高峰の格好の展望台である。モンブラン、プラン、ダンデジュアン、グランドジョラスそして眼下にはレショ氷河、右手にタキュル氷河、その奥にはジェアン氷河が広がっており、心ゆくまで豪快な景観を楽しむ。18時頃ようやく日差しが弱くなってサングラスを外す。

19時になり無事部屋を割り当てられた。素泊まり一人24FF。ゴム靴と整理箱を貸してくれるのは便利。部屋は大き目のスキーヤーズベッドと思えばよい。毛布と枕とマットレスが置いてあり、部屋ナンバーのみ指定される。明日に備えて21時半に床に就く。夜中に部屋の窓が開いていて粉雪が吹き込むので閉めたら、すぐ誰かがまた開けてしまった。昼間の水着の女性といい、肉食の人々は寒さの感じ方がまるで違うようだ。


7/24 340起床―440クーベルクルヒュッテ出発―540,730取付き点―1150,1210大テラス―1400下降開始―1730,1800クーベルクルヒュッテ―1840,1845エグラレの下―2000,2005メールドグラス―2040モンタンベール(駅泊)―2210消灯

モアヌ針峰取付き点 グランドジョラスをバックに登攀 モアヌ針峰の大岩壁 明け方近く気温はかなり下がっているはずだが、石造りのせいで小屋の中はすごく暖かい。今日は第1目標のモアヌ針峰を目指す。ヘッドライトを点けて出発し、雪渓を詰めて大岩壁中央の取付き直下で明るくなるのを待つ。雪が多く、ルートを間違えたり、先行パーティーの時間待ちなどでえらく遅くなる。今日も快晴でカンカン照りだ。階段状のクーロアール2P,コンテ200m、凹角、クーロアール、クラックなど5P。一般ルートに雪が詰まっていたので右のクラックを採る。10m左へ下って合流。大テラスで一息つく。

モアヌ針峰は3412mとこの辺りでは一番小柄だし、グレードも低いので楽勝のつもりだったが、剣のチンネや北岳バットレスなどとは桁違いにスケールがでかい。14時になったのに、大岩壁はまだ遥か上まで続いており、この調子では今日中に登れそうにない。あきらめて下山と決定。N氏と一緒に下る。
     	登れども 尽きぬ岩壁 どこまでも
取付きの雪渓を下るのは非常にやばかった。若干雲が出て来た。小屋には17時半に着き、少し休んで出発。エグラレ、メールドグラスをたどる。ヨレヨレ、バテバテなのでクレバスに落ちないよう気を遣う。ようやくモンタンベールの駅に着いたのは20時40分。駅への登りはきつかった。今日の行動時間は16時間。終電はもう出た後なので駅で仮眠する。標高2000m近いが、ツェルトがあるのでそれ程寒くない。


7/25 700起床―805モンタンベール―830シャモニー―1000キャンプ場

ツェルトから顔を出すと空はすっかり曇っている。一番電車でシャモニーに戻り、スーパーで買い物してとぼとぼキャンプ場へ向かう。頭がフラフラして気分が悪く食欲がない。風邪を引いたようで、熱が7度8分あり苦しい。雨が降り出したので天幕で休養。早くシャワーを浴びたい。頭が痛いので、工事のブルドーザがうるさい。一晩中、風雨激しく外へ出られない。

[シャモニー―モンタンベール(登山電車往復)19FF]


7/26 830起床―風邪のため静養―2200消灯

今日も朝からどんよりと曇っており、ちらっと見えたドリュからシャモニー針峰群まで雪で白くなっている。1日違いで危ないところだった。熱は6度7分まで下がって気分は少し良くなったが、本調子ではなく何をする気力もない。また雨が降り出した。買い物も洗い物も全部Gにやってもらう。今日の夕食は、レタスとピーマンのサラダ、トマトスープ、ビーフシチュー、ヨーグルト、すもも、日本茶、パン。周りのテントが夜遅くまで騒いでいるので中々眠れない。


7/27 640起床―久し振りに晴れたのでのんびり休養

目が覚めたときは曇っていたが、みるみる雲が切れて8時頃からど快晴。2日間降った雨もようやく上がった。山は当然吹雪いたはずで、ドリュ、グランシャルモ、グレポン、プラン、ミディ皆べったり雪化粧。これでは当分登れそうにない。熱は6度1分。ようやく気分すっきり。日本を発って9日目にして初めてシャワーを浴び、洗濯、海パンで甲羅干しなどのんびり過ごす。午後はモンブラン山行のための食糧買出し。

キャンプ場 キャンプ場 キャンプ場 キャンプ場 こちらへ来て驚いたのは、日が当たっている所は暑くて半袖で丁度いいが、日陰に入ると寒くてセーターが欲しい位温度差があることだ。湿度が低いとこんなに違うものか?ところで、このキャンプ場のシャワーは1.5FFと書いてあるのにコインを入れても「チャラン」と落ちてしまう。フランス語の説明はサッパリ判らず、何度やってもお湯が出なかった。壊れていると思い込んでいたが、結局、人に聞いて「1.5FFコインを入れるのではなく、シャワー用コインを事務所で買えばいいんですよ」と教えてもらった。馬鹿みたい。

   フランス語 シャワー操作も ままならず