春浅き徳並山(1117m)
 
日 時:2006年3月21日(火)
行程: 844高尾−945,955甲斐大和−1035,1045登山口−1205,1235徳並山−1408,1540林道−1633,1642甲斐大和−1750高尾

ルート断面図とルート図
徳並山断面図 徳並山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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徳並山はJR中央本線甲斐大和駅の北方2kmに位置し、勝沼町と大和村の境界を成す稜線上の小さな山である。YACの山行は専ら人の来ない山を志向しているが、この山もその例にもれず地理院の25000図や昭文社エアリアマップに山名もルートも載っていない。 もっとも勝沼町と大和村は去年11月に塩山市と合併して甲州市となったので、最早境界ではないのだが。最近、平成の大合併で各地に耳慣れない市が数多く誕生しており、ここ山梨県でも竜王町、双葉町、敷島町が一つになった甲斐市など出来ているが、甲府市を挟んで甲州市と甲斐市が並ぶとは一寸知恵がなさ過ぎる。

標高640mの甲斐大和駅(旧初鹿野)を後に陸橋を渡って右折し、緩やかな上り坂のアスファルト道を歩き始める。空は一見白っぽくて薄曇のようだがよく見ると雲はなく快晴だ。 ジョギングしながら下って来たジャージー姿の女子生徒たちがすれ違い様、 「おはようございまーす」 とにこやかに挨拶して行った。都会では考えられない純朴さだ。甲州街道の直前で左の小道に入ると急坂になった。気温は15度もあり早くも汗ばむ。彼岸の中日とあって古部の集落には墓参りの人たちが行き交っている。


甲斐大和駅 西光寺 徳並山
 
笹子雁ヶ腹摺山方面 果樹園 林道終点
 
左手の西光寺と地蔵の間の細い道を進むのだがここは判り難く、道標が欲しい所だ。ネットで見つけた写真入ガイドがなかったら迷う所だった。火の見櫓の右脇を通り、杉林や竹林を抜けると山の斜面を切り拓いた大きな果樹園が広がった。梅や桃のようだ。立派に舗装された林道が右に左に大きなカーブを描きながら高みへと伸びて行く。 農家の人が苗木を植えている脇では軽トラックの荷台につながれた大きな犬がいつまでも吠え立てている。少し風が出て来たが、火照った肌にはひんやり心地いい。振り返ると南の空に笹子雁ヶ腹摺山が大きく聳えている。林道終点で一休みしてチョコレートなど食す。 道標など何もないがここが登山口で標高は810m。気温は11度まで下がった。

   桃の里犬に吼えられ登り行く

休むと汗が冷えて一寸寒い。山道に入るとすぐに踏み跡が怪しくなった。少し迷ったが右の尾根筋を目指す。道はなくなったが枯れた潅木の間を縫って強引に斜面を直登すると間もなく尾根上に出た。ここからは明瞭な道があり、コナラ、ヒノキ、アカマツなどの混交林の中、急登が続く。 11時、900m地点通過。南側の展望が開けて笹子雁ヶ腹摺山からお坊山、滝子山、大谷ヶ丸などの稜線がくっきり浮かんでいる。 「あ!ダンコウバイだよ」 Hさんが目敏く見つけたのはまだ開いたばかりのダンコウバイだ。岩混じりの尾根は段々細くなり、左右が切れ落ちた部分もあって慎重に進む。ネジキやリョウブなどの木々がなければかなり緊張させられるだろう。また風が出て来た。ロープ場あり。再び、ダンコウバイ登場。ここは日当たりが良いせいか満開に近く、冬姿の木々の中では遠目にも黄花が目立つ。

   風騒ぐ岩尾根痩せて足すくむ

予想通りこの山はほとんど人が入らないらしく、ここまで道標は全くない。たまに赤テープや青ひもがあるだけだ。冬を越したヒオドシチョウがヒラヒラと舞っている。右上の山肌は木が伐採された裸地が崩れ落ちて荒涼たる光景である。尾根は益々痩せて来て蟻の門渡り状になった。 気温は9度まで下がり、風も強く木々がザワめいている。手が冷たくなって来た。人声がして山頂はもう目の前のようだがルートが不明瞭で進路に迷う。思案の結果、尾根筋を忠実に直登することにして木や岩角につかまりながら3点確保で岩場を乗り越えると山頂だった。12時を少し回っている。

Hさんは左を巻いて西の肩へ出るルートを辿っているが、滑るらしく梃子ずっている。いずれにしても道は判然とせず、急斜面を遮二無二登るしかない。滑落し易いので下るのは相当大変そうだ。真新しい四等三角点のある狭い山頂ではリョウブの幹に打ち付けた標識の徳並山の【並】が【波】に訂正されていた。
 
崩壊地 ダンコウバイ ロープ場
 
山頂にて 山頂にて 小金沢連嶺方面
 
しかし、ネットで見つけたサイトでは【並】が正解とあった。西の肩で2人パーティーと言葉を交わしていたHさんが上がって来たので、登頂を祝ってビールで乾杯。ここは風がきつくシートを広げるスペースもないので昼食は下ってからにする。ところで今日はWBC【ワールド・ベースボール・クラシック】決勝のキューバ戦である。

準備のいいK氏が取り出したラジオで中継を聞くと日本が4対1で勝っているというので一気に盛り上がる。予定ではピストンなのでアルコールは控えているのだが、どうもここの下りを皆嫌がっている。 先程の2人組は西の勝沼へ下る長いルートへ向かったが、東に下って古部山というらしい1115m峰を経て尾根を回り込むと白蛇沢に下れるそうだ。その道を少し偵察してみたが道形は明瞭なのでこの道を下ることに決定。キューバ戦を話題にしながらのんびり下り始める。

もっとも藪山で道標は期待出来ないのでかすかな踏み跡も見落としてはならず、ルートファインディングは念入りに行う。落葉が深く積もった急斜面は滑り易くてくたびれる。 K氏が何やら緑がかった白いものを拾い上げた。 「山繭ですよ」 2cmくらいの繭にはかいこが抜けた大きな穴が開いている。上等の絹が取れる貴重品らしい。風も無く、昼下がりの稜線には春の陽が燦燦と降り注ぎ、眠気を誘う。

   風止みて光のどけき春の尾根

東の空には滝子山から大谷ヶ丸、ハマイバ丸のなだらかな稜線が望める。何度か上り下りを繰り返して1115m峰を越えたが右に下る道がない。13時半を回り下山路を通り過ぎたかと若干不安になった頃、先頭のK氏が 「道がありました。ここですよー」 と藪の中に消えて行った。尾根を下る獣道程度のルートだが、方向からして間違いない。細い潅木が道を塞いで歩き難い。夏は藪でどうにもならないだろう。所々赤テープあり。正面には笹子雁ヶ腹摺山が木々の間から見え隠れしている。ヤマガラがのんびり囀り、コナラ、アカマツ、ウリハダカエデ、リョウブ、ツガ、ウダイカンバ等の明るい森を下って行く。 眼下に林道が見え始めた。宴会場所を探すが、結局平らなスペースは見つからず、14時過ぎ舗装された林道に降り立つ。登山口を示す青いひもが木にぶら下がっていた。 ヘアピンカーブの脇に平らな場所があったのでシートを広げる。

「10対6で日本が勝ちましたよ」 K氏の弾んだ声に、王ジャパンの優勝を祝って水割りウィスキーで乾杯。Hさん手製のレンコンの金平やベーコン・タマネギ炒め、春雨スープ、海苔もちなど次々に平らげる。山頂でないのが残念だが、車も通らず誰もいない山里でのんびり出来るのは最高だ。15時40分、1時間半の宴を切り上げ、甲斐大和の駅へ向かう。 25000図に拠れば2km位だから30分もあれば着くだろう。ほろ酔い加減でフラフラと下って行く。しばらくすると今朝通った西光寺の前に出た。ここまで来ればもう駅は近い。 山頂で1組出遭ったとはいえほぼ山を独占出来、小さな山の割には岩尾根のスリルもルートファインディングの楽しみもあって静かな山旅を満喫出来た。