草津白根山と白砂山(2140m)
 
日 時:2005年9月16日〜17日

新潟・長野・群馬3県の境に聳える白砂山は、深田久弥の百名山選考で最後まで候補に残りながら、惜しくも落選した山の一つである。お陰でこの山は未だ喧騒に巻き込まれず静謐を保っている。近辺には他にも鳥甲山、仙ノ倉岳、岩菅山など落選組が多い。 当初、前夜発のつもりだったが、渋川伊香保ICから登山口まで80kmもあり、仮眠時間も取れないので、前日朝出ちして草津白根山で足慣らしをすることに計画変更。

【第1日】百名山を前座にする:本白根山周遊
920渋川伊香保IC―1120,1142白根山駐車場−1210,1225本白根スキー場リフト下−1340,1355鏡池−1435,1440ロープウェイ山頂駅−1457,1510白根山駐車場−野反湖駐車場(車中泊)

 
ルート断面図とルート図
白根山断面図 白根山ルート図
カシミール3Dにて作成しています
 
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東京はくもりだったが関越道を渋川伊香保ICで降りる頃には晴れて来た。レガシーアウトバックの初遠征は快調だ。この辺りを走るのは初めてなのでカーナビに頼り切って、渋川からJR吾妻線沿いに国道353号、145号、292号を経て草津温泉街を抜け、志賀草津道路に入る。 白根山の荒涼たる大景観を楽しみながら、ヘアピンカーブを軽快に登り、インターから丁度2時間で白根山駐車場に到着。ここから先ロープウェイ山頂駅までは一般車通行止めなので有料駐車場(普通車420円)に停める。日差しはきついが標高2000mとあって気温は17度。 草津白根山はいくつものピークを持つ大火山だが、志賀草津道路を挟んで北に湯釜のある2160mの白根山、南に2171mの本白根山がある。我々は湯釜と反対の本白根山を目指す。

白根山 弓池 本白根山
 
本白根スキー場 コマクサ から釜
 
ヤマハハコ、エゾリンドウ、ミヤマアキノキリンソウ、紅い実がたくさん付いたタカネナナカマド、黒い実が付いたガンコウランなどが点在する中、段差の大きな丸太の階段登りはリズムが取れず疲れる。たちまち汗が噴き出した。振り返ると白根山の大パノラマが展開しており、一木一草もない白い山肌には湯釜を目指す観光客が蟻の行列のよう。 逢ノ峰を越えてロープウェイ山頂駅へ下り、本白根スキー場のリフト下で1本立てる。気温は20度まで上ったが、湿気はなく風が爽やかだ。一般車通行止めの舗装路を合宿の学生らしき若者がジョギングしている。シラビソの多いリフト沿いの急坂を登ると傾斜が緩やかになり、やがて平な木道となった。

タカネナナカマドがわずかに色付いている。シラタマノキ、シラビソ、オオカメノキ、ダケカンバなどの見通しの利かない樹林をしばらく辿ると、いきなり迫力満点の荒々しい火口原が広がった。右手の高みが2171mの本白根山ピークと思われるが硫化ガスのため立入は禁止されている。 花が終わったコマクサが岩礫地の斜面一杯に広がっているのが印象的だ。絶滅の危機にしては随分たくさん生えている。 「あ、花が咲いてるよ!」 花期は7〜8月なので全く期待していなかったが、道のすぐ傍に1株だけ花が残っており感激。他にはガンコウラン、ミネズオウ、小さなダケカンバ、ハイマツ、コケモモなどを同定。

   駒草が岩礫彩る白根山

 
鏡池 木の階段
 
大きな火口など豪快な景観の中、万座温泉に下る白根探勝歩道を右に見送り、植生保護のための立派な木の階段を登ると白根山展望所である。そこからはハイマツやシラビソの森を下る。硫黄の臭いが強くなると右下に鏡池が見えた。13時40分、鏡池付近で昼食。 コメツガ、ナナカマド、オオカメノキなどの間を緩やかに下る。ゴゼンタチバナに紅い実が付いている。ガスって来たスキー場の上部をトラバースして、14時半過ぎ山頂駅帰着。気温は15度まで下って少し寒い。ここから逢ノ峰には登らず右の巻き道を行く。 シラビソに青い実が鈴生りである。15時前に白根山駐車場に帰着するとガスで何も見えなくなっていた。奥万座温泉、六合村経由野反湖へ向かう。広い駐車場で車中泊。


 
【第2日】白砂山へ
610駐車場−702,723地蔵峠−755地蔵山−822,8351790m地点−942,956堂岩山−1120,1220白砂山−1305,13122040m峰−1342堂岩山−1355,14051920m地点−1510,1520地蔵峠−1600,1610駐車場

6時過ぎに駐車場を後にする。標高は1500mを超えているとあって、気温は12度。一寸寒い位だ。朝霧が山肌を上って行くと共に、雲一つない青空が広がって気分も高揚する。巻き道を一旦登った後、濡れた木の根や岩が滑り易い道を50m程下るとハンノキ沢が近付く。 風格あるダケカンバの巨木が辺りを睥睨している。ハンノキ沢を丸木橋で渡り、続いて小さな沢を横切って、コメツガとダケカンバの混交林の中、ジグザグの急登となる。

 
ルート断面図とルート図
白砂山ルート図 白砂山断面図
カシミール3Dにて作成しています
 
チュルルルー、チュルルルー、チュルルルーとしきりに鳴く鳥がいる。 「ルリビタキかな?」 「いやー、判らないね」 オガラバナに羽付きの種がびっしり付いており、オオカメノキには紅い実がたわわに実っている。気温は低いが風がないので大汗をかく。傾斜が落ちて歩き易い道となった。用途不明の壊れたプレハブ小屋あり。7時過ぎ地蔵峠に到着、朝食を摂る。名の通り、道の右奥に地蔵があり、小さな屋根が掛けられていた。 ここは切明への分岐ともなっている。25000図では尾根通しの道だが、実際は尾根脇の沢筋のような見通しのない急登が続く。所々ぬかるんでいて足を取られる。コシアブラにしては随分大きな葉が落ちており、ドウダンツツジも目に付く。道が緩やかになり、右下に野反湖が見えた。 その奥に昨日歩いた草津白根山がくっきり浮かんでいる。コメツガやシラビソの根っこ登りとなった。8時前、地蔵山を通過すると道は左に折れて北へ向かい、かなりの下りとなる。クマザサが刈り込んであり、日が当たって暑い。右手前方に見える堂岩山はまだ遥か彼方だ。
 
朝霧 ハンノキ沢 白砂山
 
8時22分、1790m地点で2本目を立てる。気温は15度まで上った。きれいな青空の下、小さな登降を繰り返す。結構きつい。今度は左手に白根山方面がよく見える。9時過ぎ《水場》の標識を通過。高度計は1860mを差している。石が多く、雨でえぐれた道の急登となり、涸れ沢の詰めの様だ。 9時20分、ハンノキ沢で抜いて行った単独の人がもう降りて来た???かなり年配だが小さなナップザックに運動靴の軽快なスタイル。 「堂岩山ピストンとは思えないから、白砂山へ往復して来たんだろうな」 「相当通い慣れた地元の人だろうね」 (後で計算したらハンノキ沢から白砂山まで登りのコースタイム3.5時間を2時間強で歩いたことになる。20代の若者ならまだしも、あの年でこのペースはすごい) 9時35分、やっと2000mに達する。厳しい登りが続き、暑くて大汗。左やや上に八十三山が大きく聳えている。9時42分、ようやく堂岩山に着いた。シラビソの樹林に囲まれて標識も何もないが、ここが一番高いのでそれと判る。 「ここまで来ればもう厳しい登りはないから、稜線漫歩のはずだよ」 (と思ったのは甘かった)行く手には、手前に2042m峰が大きくせり上がり、その奥の伸びやかな稜線の先には鷲が大きく両翼を広げたように白砂山が聳えている。実に堂々たる姿で名山としての風格充分である。 気温は19度まで上ったが、風が火照った肌に心地好い。シラビソの青い実が枝にびっしり。10時前、八間山分岐を通過。雲一つない青空の下、風が爽やかに吹き抜け、なだらかな稜線に広大な笹原が広がって気分爽快だ。シャクナゲ、ハイマツ、背の低いシラビソなどを縫って高山気分を満喫する。

   蒼天に翼広げし白砂山

   白檜曽に蒼き球果の並びたり

   天高く国境稜線遥かなり

東に向かう稜線は群馬と長野の県境で、右が群馬側、左が長野側だが、道は群馬側になったり、長野側になったりしながら緩やかに登って行く。また単独者が降りて来た。痩せ尾根を渡り、10時23分、難なく2042m峰に到着。(ここまではルンルンだった) 紫のエゾリンドウ、ピンクのハクサンフウロ、黄色のミヤマアキノキリンソウ、白くて可憐なコバノコゴメグサなどが稜線を華やかに彩っている。
 
白砂山 佐武流山 苗場山
 
10時40分、最低鞍部を通過。雲が増えて来た。えらい急登が延々と続くのでくたびれて来るし、いつまでたっても先があるのでうんざりする。急登が終わってからのダラダラ登りも長くて、もうヘロヘロ。人声が近付いて、11時20分、ようやく白砂山に到着。登山口から5時間掛かっている。 それ程広くない山頂はオオカメノキとクマザサに囲まれており、ガスっていることもあって、余り展望が良くない。北西の佐武流山の右奥に苗場山、左奥に鳥甲山、さらに左に岩菅山が見える程度。入れ違いに先行パーティーはほとんど降りて行ったので先客は一人だけ。

日が照り付けて気温は23度と真夏のよう。とても9月中旬の2000m級の山とは思えず、日陰が欲しい位だ。ともかくビールで乾杯。もち入りラーメンを食べて12時20分、下山開始。さっきから動きが鈍かったデジカメのバッテリーがとうとう切れたが、予備を車に忘れたからもう写真は撮れない。

13時5分、2040m峰で休憩。ガンコウランが岩陰にへばりつくように群落をなし、コケモモに紅い実がたくさん生っている。13時38分、八間山分岐を通過。堂岩山を過ぎるとガレ場の急降下となる。14時前、1920m付近で休憩。空はすっかり雲に覆われどんよりとして来た。 14時11分《水場》通過。気温は17度まで下って涼しくなった。ダケカンバの純林を下る。小さな上り下りを繰り返して地蔵山を過ぎ、15時10分地蔵峠で休憩。空はまた晴れて来た。峠からは緩やかな下りとなる。登る時は気付かなかった立派なブナ林を抜ける。沢音が近付いて来た。ジグザグの急坂を下り切り、小沢で小憩。沢水が冷たくてうまい。15時40分、ハンノキ沢を渡る。ここからの急な登り返しには参った。 「せっかく乾いたシャツがまた汗びっしょりだよ」 16時丁度に駐車場帰着。6時過ぎにここを出発してから行動10時間。ようやく終わった。ヤレヤレ。今回は予想以上に手強い山で、高山気分も満喫出来、充実した山行となった。