予定外の石老山(694m)
 
日  時:2005年3月26日(土)
天  気: 快晴
行  程: 815東京駅−1000八王子IC−1050,1102牧馬登山口−1207,1216尾根610m地点(510m)−1258稜線−1315,1454石老山−1525,1535牧馬登山口−1540,1620篠原登山口―1650相模湖IC−1825東京駅

ルート断面図とルート図
石老山断面図 石老山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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首都高のひどい工事渋滞をようやく抜け、予定より1時間遅れで中央道に入った途端、《八王子付近事故渋滞100分》という情報あり。 「これじゃあ登山口に着くのは午後になりそうだな」 「もっと近場の山にしよう」 当初の計画では上野原ICで降りて高指山に登るはずだったが、石川PAで昭文社の地図を検討した結果、八王子ICで降りて相模湖の南の石老山を目指すことにする。この山は一般ルートからでは混みそうなので、敢えて《不明瞭》と注記のある牧馬(まきめ)登山口から登ることにする。 ICを降りてからも道は混んでおり、八王子バイパス、国道413号を経て、迷いながらも牧馬に着いたのは11時前。《石老山入口》という小さな道標を見つけたので道脇に車を置いて歩き始める。

「計画外の山に登るなんて初めてだし、25000図もないですよ」 「まあ、小さな里山だから大したことはないだろう」 と、タカをくくっていた我々はそれが大きな間違いだとすぐに気付かされることになる。3月下旬にしては靄もなくスカッと晴れ渡った青空の下、梅が咲く山間の集落を縫って狭くて急な舗装路を少し登ると、直径2mはあろうかという巨大なクスノキの裏から山道となった。 柚子がそこら中に落ちて朽ちている。誰も拾わないのだろうか?小さな道 祖神がいくつか並ぶ周囲にはツバキの花がたくさん落ちている。フキノトウがチラホラ芽を出しているが、残雪を割って顔を出すというイメージがあるので、乾いた土の上にあるのは一寸似合わない。

   里山の 路傍に一つ フキノトウ

小さな沢を右岸へ渡ると壊れた道標あり。字は完全に消えていて判読不能。矢印の方向の山道をたどるとすぐ竹薮に行く手を阻まれた。しばし藪に潜り込んでいたHさんが戻って来た。 「倒れた竹が進路を塞いで、とても抜けられないよ。引き返すしかないな」 沢まで戻り、沢沿いのかすかな踏み跡を進む。すぐにまたコンクリートの小橋があり左岸に渡り返す。長い間誰も歩いていない感じで多少不安はあるが何とかなるだろう。この沢には堰堤が連続しており、スギの植林が続いている。トップを交代して、外傾した滑り易いザレをトラバース気味に登って行く。ヒノキも混じってきた。
 
クスノキの巨木 小さな橋を渡る 尾根の急登
 
「あれはケヤキじゃないですか」 K氏が太い木を指している。 「えー、ほんと?」 ケヤキは街路樹や公園樹の代表であり、その端正な樹形故に遠目にもすぐ判る。川沿いなどに自生するのでカヌーの川下りでは度々目にするが、山ではまず見掛けることはない。半信半疑だったが、木肌を良く見ると5円剥げのような剥離がたくさんあり、樹形は多少いびつだが枝ぶりからしてもケヤキに間違いない。

周囲を見渡すと他にも大きなのが何本もあった。気温は12度もあり、早くも大汗をかく。11時50分、高度計が540mを示している辺りで小さな丸木橋を渡ると、道は沢から離れ尾根の急登となった。ウグイスの初鳴きに春の気配を感じる。杉林の中にアラカシ、コナラ、カヤなどが点在している。 左下の沢向こうの急斜面に高さ20m以上あろうかという細い滝が落ちている。木々の間から蛭ヶ岳や大室山など丹沢の主峰が覗く。雪がたっぷり残っているらしく山頂辺りはかなり白い。左へ巻き気味に下ると再び沢が近付き、周囲はヒノキ林になった。 ホールドとなる木も少なくスタンスもない急斜面にキックステップで足場を作りながら進む。頼りなげな道は右へ回り込むようになり、ようやく尾根状部分に出たので1本立てる。ここから尾根の直登で、えらく急だなと思いながら周囲を見渡すと左に明瞭な巻き道があり、ついそちらへ進んでしまった。イバラだらけの怪しい踏み跡を越え、いつまでもほとんど水平に左へ巻く道が続く。何だか変だ。右手に高さ20mほどの岩山が見えた所でとうとう踏み跡が消えてしまった。

   雪のない 斜面にステップ 迷い道

   踏み跡を 辿りて進む 茨道
 
稜線の上 丹沢方面
 
丹沢方面 石老山山頂にて
 
落葉が分厚く積もったふわふわの斜面を強引に登れば山頂にたどり着くような気もするが、と思案していると 「おーい、引き返すぞー」 Hさんがさっさと戻って行った。この踏み跡はどうやら登山道ではなく林業用の仕事道だったらしい。里山ではこういうことが多いのでルート判断が難しい。12時38分、尾根道の610m地点に戻り着いた。約20分のロスだ。やはり直登が正解だったようで、急斜面を見上げるとスギの幹に赤紐が巻いてある。それにしても猛烈に急な斜面なのに道はジグザグではなく、一直線に付けてある。Sさんがトップでどんどん登って行く。Hさんはかなりつらそうだ。 「バババババー」 ヘリコプターの編隊飛行らしいすさまじい爆音がしばらく続いた。自衛隊の演習だろう。12時58分、やっとまともな道に出た。高度計は700m近いので山頂かと思ったが、なだらかな道が左上しておりまだ先は長い。 10m位の幅で植林がされておらず、草原状の中にポツンポツンと大きなコナラやケヤキが立っており、公園のような雰囲気だ。いつの間にか高度計は700mをはるかに越えており、どうやら最初の設定を間違えたようだ。13時10分、本来の牧馬からの登山道と合流。 13時15分、石老山山頂に到着。高度計は795mを指しており丁度100mの誤差である。これでは全く意味がない。割合広いピークには巨大な山名標柱や案内板やベンチなど色んなものが立ち並んで、ポピュラーな山であることを示しているが、今は人が少なく、離れたベンチに単独の登山者が休んでいるだけだ。

北面はスギの植林だが、南面は展望良く、丹沢の主峰蛭ヶ岳や大室山、黍柄山等が並んでいる。右の富士山は逆光に霞んでいる。空は依然として雲一つなく晴れ渡り、気温は8度、風もなくそれ程寒くはない。今回は地面にシートを広げず、大きな木のテーブルに陣取る。 ビールで乾杯。タマネギ・ベーコン炒めに始まっていつも通り様々なつまみが次々に登場。 「下りは二手に分かれてK・Iが車を回収しますから、皆さんは一般ルートを降りて下さい」 皆それならとばかりにウィスキーの杯を重ねている。結局、1時間半の宴を終えて撤収するまで、登って来たのはクロスカントリーの格好をした女性2名と単独男性の3人だけだった。

集合場所を決めて皆と別れ、14時54分、K氏と二人で牧馬目指して下り始める。山頂からわずかに戻った所に《牧馬へ》という壊れかかった小さな道標があり、右の斜面に入る。一面に落葉が分厚く積もっていて人が歩いた形跡は全くないが、かつての踏み跡らしき所を選んで小走りに駆け下りる。 「さっき登った道よりも傾斜はきついね」 「これを登ったら大変だったでしょうね」 あっという間に高度計は500mまで下がり、沢筋の右岸の道となる。何度も道形を失って迷いつつも、山慣れた二人なので何とかそれらしいルートを見つけながらどんどん下って行く。 ふいに人家が現れ、その庭先のような道を通って林道まで山頂から20分で到着。間もなく車道に出た。その道を左へ向かい緩やかに下って、やや登り返し、山裾を回り込むと車があった。 道を二度間違えたとはいえ、登りに2時間以上掛かったのに下りはわずか30分だった。集合場所の篠原小学校には15時40分に到着。K氏と二人道端の草原に寝転んで皆を待つ。16時20分、全員無事到着し、相模湖ICへと向かう。 渋滞のお陰で思いがけず登ってしまった石老山は天気にも恵まれ、人も少なく、沢登りあり、藪こきあり、急な直登ありで実に刺激的な楽しい山行となった。

後記:下山してから地図を眺め直すと、最初の竹薮を突破すれば本来のルートがあったようだ。しかし、そのまま進むと最後は一段と厳しい急斜面を登る羽目になったから、今回辿った道が正解だったろう。