雪深き大岱山(1190m)
 
日  時:2005年1月22日
天  気: 快晴
行  程:725東京駅―830大月IC―910,928金山鉱泉―1022,1030南尾根―1135大岱山―1142,1525テント場−1615,1620金山峠―1700林道―1730,1745金山鉱泉―1855大月IC―2005東京駅

ルート断面図とルート図
大岱山断面図 大岱山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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藤野PAで朝食を摂り、中央道を大月ICで降りて甲州街道を大月駅の方へ向かい桂川を越えて左折、中央道の下をくぐって浅利川沿いに1車線の舗装路を登って行く。この道はきちんと除雪してあり、金山鉱泉までチェーン不要で助かった。鉱泉下の駐車場はツルツルに凍っているが、車から降りてもそれ程寒くない。 今回は深雪対策に10本歯アイゼンとストックまで持参した。先日の黒岳では稜線にたっぷり雪が残っていたし、先週も富士山が一気に真っ白になる位の大雪だったので、人も少ないこの山ならワカンが欲しい位のラッセルも予想されたからである。しかし、この谷筋を見た所、雪の量は大したことはなさそうなので、どちらも車に残す。

スパッツを着け、ヤッケを着て9時半、出発。手袋は軍手で十分だ。山口館前に主がいたので挨拶して通り過ぎる。100m程上の宿の駐車場にはお客のものらしい数台の車が停めてあった。今日は誰にも遭わないつもりで来たのだが、今朝山へ入った人がいるのだろうか?
 
金山鉱泉付近 齧られたリョウブ セーメーバン方面
 
大岱山山頂付近 南尾根分岐
 
その駐車場脇の《大岱山へ》の小さな道標に従い、雪に埋まった道を右の沢へ降り、人一人がやっと通れる小さな木の橋を渡る。右に折れて杉林に入ると、いきなり急登でグングン高度を稼ぐ。登山道も周囲の斜面も全面雪に覆われている訳ではなく、半分は土が出ている。風は全く無い。 南面なので冷え切った谷底から離れるに従って段々暖かくなる。気温は6度、日も差して早くも汗ばんで来たのでヤッケを脱ぐ。朝日がまぶしい。スギしかないので木々を同定する楽しみもなく、黙々と歩く。

しばらく行くとガリガリの雪で滑り易くなった。黒岳では途中までアイゼンなしで登って疲れたので、今日は迷わず軽アイゼンを着ける。杉林のジグザグに汗が噴出して毛糸の帽子も脱ぐ。10時15分、尾根に出た。日当たりの良いアカマツ林は緩やかな斜面で雪も少ない。右手が開けて道志の山並みが見え始めた。ここまで足取りも軽く、快調なペースである。

   汗ばみて朝日眩しき雪の森

   蒼空に足取り軽き雪の尾根

アセビにたくさんの小さな花芽が付いており、薄いピンクの粉をまぶしたような感じである。イヌブナには縮れた枯葉が付いたまま。陽の当たる雪面で1本立てる。ヒノキの植林に変わった。カケスがギャーと鳴いて飛ぶ気配がしたので、すぐに姿を探したが見つけられなかった。

   カケス鳴く冬枯れの森清々し

あちこちのリョウブのどれもこれも地上1mから下の樹皮が剥がされて痛々しい。これで枯れることは無いのだろうか?何故リョウブだけ狙われるのか?齧り易いのか、柔らかいのか、味がいいのか鹿に聞いてみたい。幹が太く左巻きにねじれたアセビあり。 15mはありそうな大きなイヌシデが多い。再び、雪が深くなった。後方には真っ白な富士山が左に杓子山、鹿留山、右に三つ峠、御坂黒岳などをはべらせて優雅に聳えている。 やはり、富士には雪化粧がよく似合う。右にはセーメーバンと思しき高みが競り上がってきた。気温は4度。樹皮が赤褐色の大きなツガが何本もある。

肌のきれいなシャラが目に付く。痩せて来た尾根を右に回りこみ直登する。夏道は尾根の左を巻き気味に登って金山峠への稜線に出るのだが、雪が多くて藪が埋もれており、下った足跡があったのでそれを逆に辿る。所々トレースが消えるが、山頂は近そうなのでリョウブなどの幹につかまりながら壺足で強引に登る。このルートの方が距離も短く早いはずだ。 11時35分、ピークらしい高みに辿り着いた。2年前に登った時も山名表示が見当たらなかったので、念入りに探してみたが、やはりどこにもなかった。しかし、ここが一番高いのでピークであることは間違いない。

   直登してトレース無き尾根這い上がる

   深雪に膝まで沈む大岱山
 
南尾根分岐 南尾根分岐 南尾根分岐
 
ツララ 雪の林道
 
トレースを辿り少し下ると大月市作成の道標あり。この辺り規模は小さいが二重山稜のようになっており、二つの山稜に挟まれた平らな雪原に降りて、雪を踏み固めテントを設営する。肩を組んで雪を踏み固めていると、北アルプスや南アルプスを縦走した30年前の光景が蘇る。北面であるこちら側には全くトレースが無く、膝まで潜る。積雪は50cm以上ありそう。ミズナラ、リョウブ、ブナ等の木々の小枝が蒼空にモザイク模様を描いている。気温は4度もあり、テントの中は暖かい。樹間からは富士山も見える。

風もなく物音一つしない雪面に昼下がりの穏やかな日差しが柔らかく降り注ぐ。テントを開け放ち、ワインで乾杯。人気のない雪景色の中で青空を見上げるのは実に清々しい。野沢菜ベーコン炒め、餅入り鍋焼きうどん、おにぎりと続いてもう満腹。午睡。ワインが効いたせいかぐっすり眠りこけてしまい、目が覚めたら15時。 あわてて撤収。同じ道を戻るのも面白くないので、遠回りだが金山峠経由で沢へ降りることにする。15時25分、峠に向けて全くトレースのない雪面に踏み込む。誰もいない雪山を歩くのは胸が弾む。 北面で雪がぐんと増えているが、何とかラッセルしながら進む。 50cmを越える雪に足を取られてピッチは上がらない。 下は柔らかくて表面だけがクラストしているので、体重を掛けるとバリッと割れて足がズボッと潜る。いわゆる《ブレイカブルクラスト》という一番始末の悪い雪である。割れる時と割れない時があるのでリズムが取れない。時々膝までドーンと落ちてはその都度足を大きく持ち上げるので、非常に歩き難くて疲れる。ワカンがあれば楽なのだが。 さっき、夏道通しに来たらここをラッセルで登るはめになる所だった。下りでも梃子摺るのだから、登ったら30分以上遅くなっただろう。尾根通しに直登したのは正解だった。

スズタケが雪の中から顔を出している。坪足での小さな上り下りが続く。15時55分、南尾根分岐点に着いた。左が先ほど登った南尾根からの夏道だ。ここから先は雁ヶ腹摺山へ向かう人のトレースがあるので、少し歩き易くなる。右手には白谷丸、黒岳、雁ヶ腹摺山が姿を現した。白谷丸から左の平らな稜線は大蔵高丸だ。 16時、送電鉄塔手前で左が開けて大展望が広がった。富士山の左裾には杓子・鹿留、その左は御正体。富士山の右下にチラッと見えているのは三つ峠。その手前の大きな稜線は滝子山の南の尾根だ。手前の低い山は高川山らしい。夕方なのに富士にも雲が掛からず、スカッと晴れて気持ちいい青空だ。御正体から更に左は今倉山から菜畑山、赤鞍ヶ岳方面に続く稜線だが、遠くて同定出来ない。その手前の小さな山は九鬼山から左へ高畑山、倉岳山に連なる峰だ。送電鉄塔を越えると金山峠だった。山頂からのわずかな下りに50分も掛かっている。

   雪の森見上げる空の蒼きかな

   ラッセルで下りもつらき金山峠

ここからは展望もなく、えらく急な下りが延々と続く。ヒノキの植林となって、右に枯れ沢が現れるとようやく斜度が落ちた。16時半、枯れ沢に水が流れ出した。アベマキかクヌギか樹皮がコルク質の大きな木が沢の真ん中に立っているが、葉がないと同定出来ない。沢が何度か合流し、その都度水量が増す。雪は深いがトレースは明瞭で迷う心配はない。冬木立の枝や流木や丸木橋など至る所に大きなツララがぶら下がっている。

17時前、大きな堰堤を左下に見ながら右岸を高巻く。かなり急な登りで雪も深いので疲れた足にはこたえる。17時、何とか林道に出てほっとしたものの、路面は30cmを越える雪で完全に埋まっており、のんびり歩ける状態ではない。古いトレースはあるが荒れており、雪も重いし、改めてラッセルし直す感じで一歩づつゆっくり進むしかない。 もう日が沈んで空には月も出た。夕闇迫る急な雪道をトボトボ下る。17時20分、今度こそと思いながら幾つ目かの山裾を回り込むとようやく山口館の明かりが見えた。雪もなくなって乾いたアスファルトの路面が現れたのでアイゼンを外す。

   枯れ枝が氷柱飾りし雪の沢

   雪道の彼方に灯る宿明かり

ところがホッとしたのも束の間、少し下るとまた路面が凍結して薄い氷が張っている。何とかなるかと足を踏み出した途端、ツルッと滑って尻餅をついてしまった。幸い、軍手を着けた両手で支えたのでそれ程ひどく打たなかったが、左手首を少し捻ったようだ。 「遅くなりましたね」 山口館の前でオーナーが声を掛けてくれた。今朝、挨拶したので覚えていてくれたらしい。もっとも、今日は誰も歩いていないのだから当然かもしれないが。 「えー、雪が多くてトレースもなかったもので時間が掛かりました」  山頂でのんびりし過ぎたことは云わなかった。17時30分、駐車場に着いた時には辺りはすっかり暗くなっていた。遠回りしたとはいえ、山頂直下のラッセルと林道の深雪のお陰で下りも2時間掛かってしまった。しかし、天気が最高で見晴らしも良く、誰もいない静かな山を満喫出来た。