冬晴れの御坂黒岳(1793m)と杓子山(1598m)

日  時:2005年1月8日〜9日

【第1日】御坂黒岳
天 気:快晴
行 程:737天下茶屋(1300m)−805,826稜線直下−905,9172本目−955,1005御坂山−1046,1055御坂峠−1230,1340黒岳−1420,1425御坂峠−1512,1522御坂山−1610,1620天下茶屋−1750山中湖

今年最初の山行である今回は、初日に御坂黒岳、2日目には杓子山、鹿留山といづれも富士山の展望が素晴らしい山を歩く予定である。年末の大雪がどの位残っているだろう。中央道では路肩にわずかに残る程度だった雪は、河口湖ICを降りる頃には道の両側に山になっていた。 コンビニで食糧を調達し、河口湖大橋を経て国道137号を御坂トンネル手前で右折すると、100mも行かないうちに雪道に突入。 年末に降ってから1週間以上経っているので道の大部分は雪が消えているのだが、カーブなど所々ツルツルに凍っているので厄介だ。ヘアピンカーブが続く凍結路を慎重に登る。工事中の旧御坂トンネル入口前の天下茶屋は閉鎖されており、廃業したようだ。 車が数台停めてあり、眼下には河口湖周辺の街の灯がきらめいている。


 
ルート断面図とルート図
黒岳ルート図 黒岳断面図
カシミール3Dにて作成しています
 
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天下茶屋 旧御坂トンネル ホソバシャクナゲ
 
寒さに目覚めると快晴だった。ここは標高1300m。気温はマイナス5度。富士山が良く見える。昨夜より車が増えていて人が動き回っている。富士山のご来光を撮りに来た人達らしい。7時半過ぎ、工事現場に掛けられた仮設の橋を渡って山道に入る。遊歩道のように整備された道の傍らに太宰治の文学碑があったが、先を急ぐので何が書いてあるかは確認しなかった。

「《富士には月見草が良く似合う》と云ったのはここから見た景色なのかな?」

霜柱がガリガリに凍っていて踏んでも割れない。風は無く、アセビ、ミズナラ、イヌブナ、シャラなどを縫うジグザグの急登に、少し残った雪も凍っている。慣れない人なら軽アイゼンが必要だろう。しばらくして歩き易い階段道となる。7時55分、三つ峠方面から陽が上って冬枯れの木々に柔らかな光が差し始めた。

   凍てつきし 雪踏む尾根に 朝日映え

8時過ぎ、陽が当たる場所で朝食。この辺りモミが多いが植林だろうか。大きなアセビが目に着く。冬姿の落葉樹林の中ではアセビのくすんだ緑でも目立ってしまう。シャクナゲのような潅木が点在しているが、葉が細く丸まって萎み、ヤブレガサのように垂れ下がっている。

「これシャクナゲかな?冬には葉がこんなに丸まってしまうかな?」
「こんなの見たことないね」

ネットや図鑑で確認すると萎んだのではなく、エンシュウシャクナゲ(別名ホソバシャクナゲ)らしい。しかし、エンシュウシャクナゲはその名の通り天竜川以西の静岡県と愛知県しか自生しないので、誰かが植えたのだろうか?渡り鳥が南アルプスを越えて100kmも種を運んで自生したのならドラマチックだが。

8時35分、稜線に出ると雰囲気が一変した。さすがに南面と違い、雪の量が一気に増え、西寄りの風が冷たい。小さなピークを越えると30m位下る。9時過ぎ、2本目を立てる。振り返ると木々の間から三つ峠と本社ヶ丸が見え隠れしている。ウサギの足跡が至る所に残っていて、元気に跳ね回る様子が目に浮かぶようだ。 気温は3度まで上がり、少し暖かくなって来た。益々雪が増え、足首まで潜るようになったのでスパッツを付ける。軽くていい雪だ。

   キュッキュッと 雪が鳴るなり 御坂山

   雪の尾根 兎の足跡 乱舞して

 何度も小さな登降を繰り返し、10時前、ようやく御坂山(1596m)に到着。小さな山名表示板あり。積雪は30cmを越え、一面の銀世界だ。はるか前方になだらかな黒岳の稜線が大きく盛り上がっている。富士山の中腹に雲が掛かり出した。気温はマイナス4度と再び急降下。
 
御坂山頂 黒岳 十二ヶ岳
 
カラマツやウリハダカエデの林に短くキョッ、キョッと野鳥の声が響くが同定出来ない。樹間からチラッと見えた南アルプスは1ヶ月前に大菩薩から見た時より随分雪が増えている。トレースがなくなったのでバージンスノーにステップを切る。ここには人が入っていないのかと喜んだが、少し登ると再びトレースが現れてがっかりする。

どうやら吹き溜まりの所だけトレースが隠されてしまったようだ。1591m峰の先で道は左に折れ、クマザサが雪の中から顔を出す斜面をドーンと50m程下る。眼下の鞍部には大きな送電鉄塔がある。10時25分、鉄塔の横を通過。南アルプスから八ヶ岳方面がよく見えるが送電線が一寸目障りだ。

   柔らかき 雪にステップ 楽しきかな

   キックステップが続き、1571m峰を越すと再び大きく下る。下り切った所が御坂峠だった。鉄塔から20分掛かっている。トタン屋根の御坂茶屋は休業中。一面雪に覆われた峠は左が新御坂トンネルの河口湖側入口、右は藤野木に通じている。板を渡しただけのベンチで休んでいると左から夫婦連れが登って来た。

今日初めての登山者だ。続いてもう一組。どうやら御坂トンネルから直登するのが一般的なようで、上り下りを繰り返しながら深雪の稜線を辿るよりかなり早そうだ。ここからはトレースもしっかりして歩き易くなった。今11時前だが、黒岳までコースタイム50分なので何とか12時には着きたい。

しかし、黒岳と同じ高さの三つ峠は一向に低くならず、斜度もきつくて滑るのでくたびれて来た。1646m峰も越えてないので先は長い。ブナやミズナラの疎林が続く急斜面でとうとう軽アイゼンを付ける。もう12時を過ぎてしまった。積雪は40cm位ありそう。
 
富士山 南アルプス 黒岳山頂
 
延々と急な稜線登りが続いたが、ようやく傾斜が緩んで、見覚えのある《黒岳自然林保 護》の案内板が現れた。やっと1793mの黒岳山頂に着いたようだ。ヤレヤレ。結局、1646m峰には気付かなかった。案内板から20m程先が平坦なピークで、ここは樹林に囲まれて全く展望はなく誰もいない。 既に12時半だ。天下茶屋からコースタイム2時間20分の所を5時間近く掛かってしまった。そんなにチンタラ歩いたわけではないのに、荷が重く、雪が多いとこうなるのか。《左200m展望台》の標識に従ってしばらく下ると、南面が大きく開けて素晴らしく雄大な展望が広がった。

すぐ目の前に富士山が大きく聳え、眼下には河口湖が広がっている。足元が切れ落ちているのでなおさら迫力がある。右手には十二ヶ岳、鬼ヶ岳、節刀ヶ岳などの御坂山塊、その奥には南アルプスの峰峰が連なっている。それにしても富士山の雪が少ないのには驚いた。 7合目以上でも黒い部分が多く、谷筋しか白くない。とても1月の富士山とは思えない。今年は各地のスキー場も正月過ぎても雪が少なかったが、これからもこんな冬が続くのだろうか?それにしてはここ黒岳は年末に一度降っただけの雪がたっぷり残っているが。

この展望台はそれ程広くなく、先着の夫婦2組がいい場所を確保しているので、日当たりの良い土の上には適当なスペースがない。ウロウロ探していると続いて2パーティがやっ て来た。何とか日陰の雪の上にスペースを見つけてシートを広げる。コンビニ調達の鍋うどんに餅を入れてコンロに掛ける。 ワインで乾杯。気温は3度だが、南面で風もほとんどないのでそれ程寒くない。1時間程で撤収し、元来た道を引き返す。深雪の下りはどんどん飛ばせるので楽しい。御坂峠まで40分で下りた。登りの半分だ。陽が傾いたせいか、気温はマイナス4度まで下がっている。

峠から20分で送電鉄塔に、さらに30分登降を繰り返して御坂山に到着。依然として風は無く、空は蒼く澄み切っており、まばらな冬木立の向こうには三つ峠から本社ヶ丸の稜線がくっきり浮かび上がっている。この辺り立派なブナやリョウブが多い。北面が開け、奥秩父、大菩薩・小金沢連嶺、滝子山などが望める。

富士山は上半分が雲に隠れてしまった。右手には夕陽を浴びた木無山が代赭色に染まっている。16時前、稜線からの下山口を通過。堅く凍結した滑り易い道を慎重に下り、15分で工事中の旧御坂トンネルに帰着。昨夜は廃業したのかと思った天下茶屋はちゃんと営業していた。トンネルは通行止めなのにお客が来るのだろうか? 夕暮れ迫る旧道を下り、山中湖近くの宿へ向かう。冬だというのに河口湖の街中も山中湖へ向かう国道138号もかなり渋滞していた。
 
黒岳からのパノラマ
 
黒岳展望台からのパノラマ
 



【第2日】杓子山
天 気:快晴
行 程:850宿−950,1000鳥居地峠(1000m)−1052,11021本目−1110高座山−1130,1135送電鉄塔−1200大権道峠−1245,1300杓子山−1315,1408大権道峠−1448,1455高座山−1527,1545鳥居地峠−1615河口湖IC

昨日に続いて雲一つ無くスカッとした冬晴れで気分爽快。少し道に迷ったが、何とか鳥居地峠へ向かう林道に入る。この道は除雪してあり、ノーマルタイヤでも大丈夫そうだが、狭くてしかも両側に雪が積んであるので車1台がやっと。

「すれ違う場所が全然ないね。対向車が来たら大変だ」
「Uターンは出来るかな?」

心配しながら進んでいると何と運悪く対向車が来てしまった。しかも大きなRV車。左が崖、右には溝がありとても離合出来ない。相手はRVなので山側の雪に乗り上げて「谷側に寄れ」と合図している。しかし、ノーマルタイヤでは雪に乗り上げて崖のギリギリを進むなんて恐ろしい芸当はとても出来ない。

仕方なくこちらがバックする。しかし、どこまで下っても広い場所が無い。そうこうするうちに下から2台登って来て挟まれてしまった。 途方に暮れたが、少し下に雪が少ない場所があり、路肩に寄れたので辛うじて離合出来てほっとする。

 
ルート断面図とルート図
杓子山ルート図 杓子山断面図
カシミール3Dにて作成しています
 
枠のある写真をクリックすると拡大します。
 
富士山 黒岳と三つ峠 高座山
 
峠から先は通行止めになっており、既に10台程が停めてあってほぼ満杯状態。何とかスペースを確保して車を置き、10時に歩き始める。それにしてもこんなに登山者が多いとは意外だ。ダートの林道は雪がたっぷり残っていて凍結した部分が多く、注意しないとかなり滑り易い。

カメラを担いだ人が次々に降りて来る。どうも富士山の写真だけ撮りに来た人が多いらしい。10分強で登山口に達し、カラマツ林の霜が凍った山道に入るとすぐ雪が現れた。尾根に出ると風が冷たい。右手が大きく開けて、狐色の広大なカヤトの原が広がった。

遠目にはハゲ山に見えてしまうが、高座山の裾野は牧場のような雰囲気で今にも牛や羊が出て来そう。右側には樹木が全くないので、常に富士山を始めとした大展望が得られる見晴らしの良いルートである。日当たりも良いので、ほぼ一直線に付けられた道は霜が融けてぬかるんでいる。 斜度が段々きつくなっても直登が続くので、泥が滑り易くかなり疲れる。少しジグザグにしてくれれば楽なのだが。所々トラロープが張ってある。

益々泥道の傾斜が急になったので、カヤトの中の乾いた道に逃げる。南面は風も当たらず、日差しもきついので汗ばむ陽気である。この辺り雪はほとんど残っていない。  11時前、急斜面の途中で1本立てる。左手には三つ峠から昨日辿った黒岳そして十二ヶ岳方面まですっきり見える。

「御坂山と黒岳の稜線は長いな。苦しいはずだよ」
「こっちから見ると黒々としていて、雪が40cmもあるようには見えないね」

ロープが付けてある土の急斜面を直登すると高座山(1304m)のピークに飛び出した。10人程の中高年パーティが休んでいる。何故か彼らはここから引き返すようだ。ここも展望は素晴らしく、富士山や南アルプスが大きく広がっている。

   日溜りの 茅戸の原は 風も無く

   冬晴れに 富士の裾野の 果てしなく

ここまで鳥居地峠から70分掛かったが、昭文社のコースタイムは何と30分になっている。

「うそー!これだけの急斜面で標高差300mあったら、雪や泥んこがなくても30分で歩ける訳ないな」
「こんなコースタイムを元に計画したら危ないね」

その先はモミなどが密生した樹林帯となり、一転して銀世界となった。雪を蹴って軽快に下る。尾根が痩せて来て岩稜となり、雪が凍った部分もあるので慎重に通過する。1286m峰のようだ。高座山から20分で送電鉄塔が現れた。ここも左手が開けており、三つ峠、御坂山、黒岳の山並みが大きなボリュームで連なっている。

気温は2度。また急な直登が続くがアイゼンを着ける程でもない。アカマツ林となり斜度が落ちた。1369m峰を越えて大権道峠へ向けて下り始めると、中高年の大人数の団体が登って来たので道を譲る。

「50人の団体だから悪いねー」
「いえ、どうぞごゆっくり」
「雪山は初めてなんですよ」
「この先は凍ってる場所もありますよ。下りは気を付けて下さい」
「待たせてしまって身体が冷えてしまいますね」

ほとんど女性だが雪に慣れない人ばかりで、凍ってもいないのに滑りまくって歩みが遅い。全員アイゼンは無しで、スパッツだけ着けている。5分以上待っただろうか?  10人程度ならともかく50人の団体ではいくら登り優先といっても、ずっと待たせるのは非常識だ。3班位に分かれて行動すべきだろう。 ようやく全員通過したので、雪の急斜面を峠まで滑り台のように一気に駆け下りる。快適だ。ピッケルがあればグリセードしたい所である。

大権道峠の先は平坦な雪面となっており、昼食場所に良さそうだ。すぐ上のハンググライダー離陸ポイントにザックをデポして杓子山へ向かう。 250m程の登りだが、空身だから30分位で着くだろう。尾根の左へ巻き気味に道が付けられており、その先でジグザグになって歩き易い。高度がグングン上がっても南面だから雪はほとんど無い。

ミズナラ、カラマツ、アカマツなどの明るい林の急登で再び雪が多くなった。空身なのに昨日の疲れで足が重く、急斜面のぬかるみでかなり梃子摺ったが、ようやく杓子山(1598m)の山頂に辿り着いた。デポ地から35分だ。

   団体に 足止め喰らう 雪の尾根

   霜解けの 急登に喘ぐ 杓子山
 
団体に待たされる 南アルプス方面 杓子山山頂
 
小さな鐘がぶら下がっている割合広い山頂は、大勢の登山者で溢れている。30人はいるだろう。ベンチも一杯で、皆あちこちにシートを広げて昼食中だ。富士山はもちろん箱根や伊豆方面、御坂山塊そして南アルプスまで大パノラマが広がっているが、南アルプスには所々雲が掛かっており、山座同定は出来ない。 東には鹿留山が近い。北面は樹林だがそれ以外はほぼ360度の展望が得られる。しばらくパノラマを楽しんで下山開始。

「登りは体力、下りは技術だね」

ぬかるんだ急斜面をへっぴり腰でノロノロ下っている登山者を尻目に、跳びはねながら15分で駆け下りたが、調子に乗り過ぎて泥んこに足を取られ、尾丞|骨をしたたかに打ってしまった。手袋もニッカーも泥だらけだ。デポ地に戻り、大権道峠手前の雪面にシートを広げて昼食とする。

メニューは昨日と同様、餅入り鍋うどんにおでんもぶち込んだごった煮である。西に廻った太陽が大きなモミに隠されて日陰になってしまった。時折り、下って来た登山者が目の前を通り過ぎて行く。50分程で昼食休憩を切り上げ、帰路に着く。荷が軽くなりエネルギーも満タンなので足取りも軽い。

何度か登降を繰り返し、峠から40分で高座山に戻り着いた。富士山の山頂付近はすっかり雲に覆われている。依然として風は無く、穏やかな日差しが降り注ぐカヤトの斜面を軽快に下る。ハンターが一人休んでいたが、長い銃を間近に見ると実に嫌な感じがしてしまうのは何故だろう。

高座山から20分弱で林道に出た。昼間に融けた雪が凍って今朝よりも滑りやすい。15時半に鳥居地峠に戻ると車はほとんどなくなっており、オレンジ色のベストを着たハンターらしい一団が帰り支度をしていた。道の真ん中にみかんが汚く食べ散らかしてあったので藪に捨てる。 昨日は深雪、今日は泥んこの登降でくたびれて、鹿留山には行けなかったが、2日間とも快晴に恵まれ、富士の大展望もたっぷり楽しめて充実した山旅だった。