晩夏の刈込湖切込湖と日光白根山(2577m)
 
日 時:2004年8月20〜21日

【第1日】 刈込湖・切込湖
天 気:快晴のちくもり時々雨
行 程: 930日光IC−1045,1050刈込湖入口駐車場−1150,1203刈込湖−1225,1332切込湖−1355刈込湖−1455刈込湖入口駐車場−1930菅沼駐車場(車中泊)

宇都宮JCで東北道と別れ日光宇都宮道路に入ると、正面に男体山から女峰山へと続く日光連山が迫ってくる。昨日、日本海から北海道へ抜けた台風15号の余波で風が強く、台風一過の空は雲一つなく晴れ渡っている。これなら展望もいいだろうと大いに期待してきたのに、いろは坂を経て中禅寺湖辺りまで来ると雲が広がっていてがっかりする。 勝道上人が1200年前に極めたという男体山の頂上は雲の中だ。戦場ヶ原を抜け湯元の登山口駐車場に着く頃には、空はすっかり厚い曇に覆われ、今にも雨が降り出しそう。10台以上楽に置ける駐車場だが平日なので先客は1台のみ。11時前、脇にある大きなハイキング案内板の横から歩き始める。

ここの標高は約1550m。よく整備されて歩き易く緩やかな傾斜の遊歩道である。クマザサが生い茂る道の両側にはオオカメノキ、ダケカンバ、マンサク、コメツガ、モミ、クロベなどの木々が並ぶ。直径1mはありそうな巨大なカラマツが数本、堂々たる存在感を示していた。雨がパラパラ降って来たので傘を差す。風がザワザワと木々を鳴らす。気温は17度。土が流されてえぐれた道に石の階段が積み上げてある。カップルが下りて来た。気の早いナナカマドがもう紅く色付き始めている。オタカラコウみたいな黄色い花が多い。 (下山後立ち寄った湯元のビジターセンターで、展示されている写真の中にそっくりの花があったが《キオン》という耳慣れない名前だった)

小峠の上 丸石の階段になる。とうとう本降りになった。駐車場から30分弱で着いた余り峠らしくない小峠にはベンチが置いてある。峠からは平らな広い道となる。ほとんどアスナロとコメツガの森となった。14度まで気温が下がり少し肌寒い。《刈込湖まで300m》の道標があり、そこから新しくて立派な木製の階段を下る。家族連れがフーフー云いながら登って来た。湖が近付くに連れてカラマツ林となる。12時前、湖畔に到着。想像したより大きな湖がひっそりと静まり返っていた。湖畔の小広い砂浜には数組のハイキング客が休んでいる。時折りぱらつくものの、雨はほぼ止んでいる。少し腹ごしらえして切込湖へ向かう。 左下に湖面を見ながら緩やかな起伏のある道を進む。カツラやオガラバナが目に付く。カニコウモリの白い花の群落が続く辺りにベンチがあった。12時半、切込湖に着いた。踏み跡に従って湖畔へ下りてみると、先程とは違ってここには誰もいない。静かな湖面から少し奥の笹薮の横にシートを広げ昼食とする。ビールで乾杯。雨はすっかり止んでおり、しばらくすると少しだけ青空が覗いた。

   雲切れて 静けさ沁みる 切込湖

時折り、左上の道を通るハイカーの声が響く以外は静寂そのもの。時間がゆったり流れて行く。1時間の大休止を切り上げ、元来た道を引き返す。サワグルミの幼木あり。 14時前、刈込湖下り口通過。ここから先程下った木の階段登りが延々と続く。結構きつい。15分で《刈込湖300m》の道標に着いた。あとは緩やかな下りだ。14時30分、小峠通過。蓼の湖が見える。気温は15度、そよ風が気持ちいい。マタタビの白化した葉を見つけた。 下るに連れて青空が広がって来た。直径1mのイタヤカエデの巨木あり。大きく枝を伸ばしていて高さは20m位ありそうだ。クロベとコメツガの森が続く。 「クロベと思ったけど、よく見るとほとんどの木は気孔帯が白いからアスナロかもしれない」 「日陰だと薄緑だけど日が当たると白く見えるね」 「うーん、どっちかな?」

(後で図鑑を確認すると《アスナロ》の気孔帯は、日が当たらなくても白い絵の具を塗ったようにはっきりした白なので、やはりアスナロではなくほとんどが《クロベ》だったようだ。気孔とは、陸上植物の葉に特有な表皮の構造であり、光合成、呼吸、蒸散などのガス交換における空気や水蒸気の通路であって水中植物には全くない。針葉樹では葉裏に気孔が線状に集合するので気孔帯あるいは気孔線という) 風が強く寒くなって来た。クマザサが揺れる。15時前、駐車場帰着。明日の白根山に向けていい足慣らしになった。


【第2日】 白根山
天 気:くもり
行 程:545菅沼駐車場−615,630 1本目(朝食)−710,718 2本目−803,810弥陀ヶ池−856,906 4本目−932,1012白根山−1125,1142五色沼−1215弥陀ヶ池−1230,1240樹林帯−1328,1332朝食地点−1352菅沼駐車場

ルート断面図とルート図
白根山ルート図
 
 
白根山断面図
カシミール3Dにて作成しています

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昨夜は2〜3台だった車が今朝は10台程に増えている。標高1735mの菅沼登山口駐車場を5時45分に出発。空はすっかり白い雲に覆われているものの雨の心配はなさそう。気温は12度で寒い位、とても8月とは思えない。今日登るのは関東以北の最高峰、栃木・群馬の県境に位置する日光白根山(奥白根山とも呼ばれる)である。 一直線に伸びた林道を進むと二股に大きな《日光国立公園》の案内板があり、右に曲がると草原が広がった。ここは昨日ビジターセンターで確かめたキオンの群落で埋め尽くされており高原らしい雰囲気である。 (後で調べると《キオン》ではなく《ハンゴンソウ》だった。ハンゴンソウとキオンはどちらもキク科キオン属で同じ仲間。花の大きさや形はそっくりだが、高さがハンゴンソウは1〜2mで全体が大きくてたくましく、キオンは0.5〜1mで華奢な感じ。葉はどちらも互生だがハンゴンソウは3〜7裂に深く裂けるのが特徴)

シラビソ、マンサク、ダケカンバ、イヌブナ、カツラなど針葉樹と広葉樹の混交林の中、平らな涸れ沢沿いに緩やかに登って行く。やがて岩混じりの登りとなり、多雪地帯らしく根曲がりしたイヌブナやカツラが増えて来た。涸れ沢の左岸から右へ回りこむとガレの急登となる。周囲は鬱蒼としたコメツガの原生林となり、ジグザグの土の道を行く。6時15分、朝食休憩を取る。気温11度で休むとヒンヤリする。15分ほど休んだ間に登る人、下る人が続々通り過ぎて行く。歩き易い緩やかな道を少し行くと急登になった。シャクナゲが目に付く。野鳥の声色々。7時半過ぎ《弥陀ヶ池0.9km 菅沼2.0km》の道標通過。コメツガの純林の中、座禅山の東側を巻くように傾斜の緩い道が続いている。

10分程でまた道標あり。《弥陀ヶ池0.5km20分 菅沼2.4km80分》とある。カニコウモリに続いてまたもやハンゴンソウの群落登場。風はなくガスが掛かって来た。やや下ると左が開けたが展望はない。少し風が出て来た。8時前、弥陀ヶ池の北端に着いたが、小さな池の水面には白い霧が漂っている。池の辺の木道を伝って道標のある広場へ。左は五色沼へのルートになっている。右手の斜面はトリカブトやマルバダケブキ、ハンゴンソウ、アザミなどのお花畑である。ここから右の鞍部へ向けて急な道を登るのだが、その両側に張られた保護ロープと支柱が白く目立つ。枯れかかったミヤマバイケイソウやハクサンフウロが咲いている。

   登り来て 朝霧煙る 弥陀ヶ池

鞍部は十字路になっていて《左 山頂まで0.8km》の道標がある。直進しても右へ向かっても七色平を経て丸沼高原ゴンドラ駅に行き着くようだ。ハンゴンソウとカニコウモリが咲く急斜面から始まったこの800mは長かった。間もなくダケカンバの林となり周囲の見通しはいいはずだが、ガスが濃く展望はない。 緑色で細長いダケカンバの実がびっしり。シャクナゲ帯の岩陰に花の終わったツガザクラやジムカデがへばりついている。続いてガレの急登から岩稜帯となった。9時前、大岩の上で休憩。少しガスが切れて弥陀ヶ池や今登って来た緑の森が広がった。はるか下に急斜面を登って来る人が見える。
 
弥陀ヶ池 白根山山頂
 
薄日が差して気温は15度まで上がった。岩登りと云うほどではないものの、大きな岩を攀じ登る道が続くので息が切れ、思いの外時間が掛かる。ピーク状の岩峰から一旦下って登り返すと今度は山頂だった。もう9時半、菅沼から4時間弱掛かったことになる。 ここからは日光連山や高原山、尾瀬、上越の山々など360度の大展望が楽しめるはずなのだが、今はガスで周囲はほとんど見えない。時々晴れてエメラルドグリーンの五色沼辺りまでは見えるものの、遠望は利かず残念。さすがに百名山の夏だけあって狭いピークは大勢の登山者でごった返している。

   人溢る 狭き頂 雲の中

山名標柱をバックに写真を撮るのも順番待ちだ。ロープウェイで丸沼側から登って来た人達がひっきりなしに到着するので、一段下の広場へ下りて一休みする。目の前には大きな爆裂火口が広がっていて如何にも火山の山頂という感じだが、最後に噴火したのは115年前で今は休火山である。 奥白根神社の小さな祠の脇を抜けて左方向へ下る。13度。風が冷たい。 「標高2500mを越えているのにハイマツがなかったね。どうしてかな?」 「火山だからかな?」 この辺りは二重山稜になっていて、その間は広々とした草原である。一瞬ガスが晴れたので山頂を振り返ると相変わらず人が鈴なりだった。緩やかな細かいザレの下りからジグザグの急降下となったが、道の両脇にはハクサンフウロ、キオン、マルバダケブキ、リンドウ、トリカブトなどの花々が彩りを添えている。

風が当たらず暑い。下るに連れて見渡す限りダケカンバの純林となる。ようやく雲が取れて、前方に男体山が姿を現した。 傾斜が緩み広い草原に出た。またまたハンゴンソウの大群落である。平らな道をしばらく進むと大きな避難小屋があった。すぐ右に前白根への道が分かれている。17度まで気温が上がっていてかなり暑い。五色沼まではシラビソやダケカンバといった落葉樹が密生した緩やかな下りが続く。 11時25分、五色沼に到着。山頂から見た時より小さく感じるが水は澄んでいる。周囲を見渡すとガスはすっかり消えて白根山が火砕流の痕も荒々しく豪快に聳え、座禅山、五色山、前白根などが屏風のように連なって360度山に囲まれている。続々と登山者が下りて来て、あちこちに陣取り昼食を摂っているが、沼の周りは広々とした草原になっているので、人の多さが気にならない。 少し青空も広がって来た。池の辺では、時折り強く吹く冷たい風にハクサンフウロが揺れており、背の低いシラビソやカラマツがぽつんと立っているのが印象的だ。

   空晴れて 風露草揺れる 五色沼

五色山への分岐からガレ場の緩い上りとなる。ツガやコメツガの森に入ると急登に変わり、風もないので汗が噴出す。弥陀ヶ池まで5分位のつもりだったのでこの長い急坂は堪えた。12時15分、ようやく弥陀ヶ池に辿り着いた。今朝は人も少なく霧に包まれて幻想的な雰囲気だったが、今は青空の下、大勢の登山者や遠足の小学生達で大賑わいだ。 ここからは今朝登った道を延々と下ることになる。モミ、ダケカンバ、シラビソの森をジグザグに下って行く。もうこの時間帯では登って来る人もなく、百名山とは思えない静けさだ。歩き易い道をのんびり下る。見晴らし台から菅沼が見えた。朝食休憩した場所で一本立てる。 14時前、菅沼の駐車場に帰還。車が両側に40台以上びっしり並んで満杯状態。昨夜は人気がなくゴーストタウンのようだった茶店群も人や車で溢れ返って一大観光地と化していた。