唐沢鉱泉から天狗岳(2646m)
 
日 時:2004年7月18日

天 気:くもり
行 程:735唐沢鉱泉−810,8181本目−848,902西尾根稜線−938,9453本目−1005,1012第1展望台直下−1055,1105第2展望台−1150,1250西天狗−1312,1317東天狗−1330中山峠分岐−1350,1400岩稜帯−1430,1440岩稜帯−1447,1455黒百合ヒュッテ−1542,1553渋の湯分岐−1642,1720唐沢鉱泉


ルート断面図とルート図
天狗岳断面図
 
 
 
 
 
 
 
 
天狗岳ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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予報では雷雨があるかもしれないというので雨具のズボンだけはいて外に出てみると、空は一面曇っており気温は14度。さすがは標高1860m、下界の暑さが嘘のようだ。これでも肌寒かった昨夜よりやや蒸し暑い。7時半過ぎ、玄関脇に今年の御柱祭りで使われたばかりの諏訪大社前宮一ノ御柱の曳き綱が鎮座している唐沢鉱泉を後にする。目の前を流れる唐沢に掛かった小さな橋を渡るとすぐ急登が始まった。 今回は八ヶ岳の中央に位置する天狗岳に西尾根から登って黒百合平へ下る周遊コースを辿る予定だ。歩き始めからシラビソなどの針葉樹がうっそうと繁って早くも高山の雰囲気を漂わせている。ジグザグの急な山道には苔むした岩がゴロゴロしており、木の根が重なってかなり歩き難い。ツガやシラビソの1年枝が幅3cmの黄緑の縁取りになっており、古い葉とのツートンカラーを描いているが、色合いがくすんでいて以前南アルプスの光岳で見た時ほどの鮮やかさはない。足元にはシダ類がびっしり。虫に食われていないきれいな葉のオオカメノキがある。

オガラバナ、シャクナゲ、コメツガ、ドウダンツツジ、ダケカンバなど森林限界近くに生育する木々が並んでいる。風がないので暑くなってきた。ペースが遅いので後続パーティーに次々に抜かれる。8時過ぎ1本立て雨具のズボンを脱ぐ。密生した林床に多いゴゼンタチバナが咲いているがやけに小さくて、通常の3分の一程しかないミニチュア版だ。とても同じ花とは思えない。こんなに個体差があるのは驚きだ。ウグイスが囀り、少し風が出て涼しくなった。チーチーチュルチュルチーと囀る鳥がたくさんいるが同定出来ない。後で調べたらルリビタキらしい。9時前ようやく西尾根に到着し一休み。右は枯尾の峰に通じる道だが草ボウボウで誰も歩いていないようだ。幹は細いのに随分ヒョロヒョロと背の高いナナカマドが目に付く。10m位はありそうだ。まだ1ピッチ分しか歩いていないのに急登続きでばててしまった。この所寝不足気味で疲れが溜まっているせいか足が重い。若いカップルが追い着いて来たので先行してもらう。

コメツガやツガの1年枝が先程とは違って鮮やかな黄緑で瑞々しい。木の根や大きな岩の間をどこまでも急登が続く。ガスが濃くなった。やっと森林限界を抜けてハイマツ、シャクナゲ帯となり、10時過ぎ開けた場所に出た。第1展望台だろう。1本立てるがガスが立ち込め周囲は真っ白で何も見えない。すっかり背が低くなったシラビソやコメツガの間を縫って登るとすぐにまた広い場所に出た。ここに《第1展望台 2416m》の標柱があったのでさっきのは間違いだ。西尾根の分岐からここまで50分も掛かっている。まだ200m以上登らねばならず先は長い。

 
西尾根 岩稜帯 中山峠分岐 天狗岳西尾根
 
気温が低いこともあって軽い高山病になったようで全く足が上がらない。強風の中厳しい稜線登りが続く。ミヤマバイケイソウや盛りを過ぎてしおれてしまったハクサンシャクナゲが咲き残っている。第1展望台から40分で第2展望台に到着。男性二人パーティーがコンロで作ったラーメンを食べていた。視界は相変わらず50m位しかない。この辺り展望はないし花もなく、変化のない登りが続くので書くこともない。ノロノロ進み45分でようやく西天狗岳(2646m)にたどり着いた。南西の風が強くてまともに立っていられない。三角点の周囲には数組の先客が昼食を摂っている。風を避けて北側の窪地にシートを広げる。気温は11度。じっとしていると結構寒いのでフリースと雨具上下を着込む。寒いけれど缶ビールで乾杯。後から考えるとこのビールは止めておけばよかった。おにぎりなどで昼食を済ませ東天狗へ向かう。強い風の中、ガレ場を大きく下り東天狗へ登り返す。クルマユリが大きく揺れている。

ふと見上げると20m位上の稜線を登山者が一列になって左へ下りて行く。「あ、方向が違う」と思ったが、中山峠へ向かうのだろう。雲が猛烈な勢いで流れており一瞬青空が広がった。飛ばされそうな風に逆らって、益々重い足を一歩一歩引き摺りやっとの思いで東天狗のピーク(2640m)に着いた。大きな岩だらけの山頂は一段と風が強いので帽子を手で抑えていても飛ばされそうだ。

   雲が飛ぶ 高嶺に揺れる 車百合

   一瞬の 蒼空仰ぐ ピークかな

ここもガスに包まれていて360度何も見えず。すぐ目の前のはずの根石岳さえ見えない。八ヶ岳主稜線上の大きなピークにしては人が少ない。強風で休んでいられないからだろう。小便をしたいが風が強くて自分に掛かりそうなのであきらめ、写真だけ撮ってすぐに下り始める。10分強で道標のある中山峠分岐に達し、左の黒百合平ルートへ向かう。背の低いダケカンバ、ハイマツ、コメツガなどが大岩を縁取っている。延々と岩から岩へ飛び移りながら下っていくのだが、大岩を縫って登り返す箇所も多く消耗する。さっきのビールが効いたのか足が全然上がらず、ヨロヨロしながら進む。ほんの一瞬だったが、再び大きく青空が広がり天狗岳西尾根の緑豊かな稜線が全貌を現した。山裾の茅野方面の街も遠望出来る。今日は高山植物がほとんど咲いておらず、わずかにミヤマキンバイ、オトギリソウ、小さい釣鐘状のツガザクラなどが岩陰に咲いているのみ。

神経を使う岩稜帯の登降が延々と続き嫌になる。こんなに疲れる下りは久し振りだ。途中で2度も休んでようやく黒百合ヒュッテに到着。コースタイム60分の所1時間半も掛かってしまった。大きな山小屋の前が広場になっており、そこのベンチにへたり込む。小屋脇のサイトには10張り以上テントが張られている。黒百合平というからにはクロユリがどこかに咲いているのだろうか?ここからは枯れ沢状で斜度は緩やかになったが、今度は前夜の雨で岩が濡れていて歩き難い道が続く。所々岩から岩へ細い鉄橋が掛けてありこれまた滑り易いので慎重に下る。

黒百合ヒュッテから50分弱で渋の湯への分岐に着いた。この辺りの木には営林署が作った名前札が付けてある。少し日が差して来た。夫婦連れが追いついて来て一服したらすぐ下って行った。トウヒの幹にトロロ昆布のようなサルオガセが絡んでいる。ここからはようやく普通の山道となったのでどんどん飛ばして先行した夫婦に追い着く。沢音が近づき鉄橋で唐沢を渡るとすぐ唐沢鉱泉だった。ヤレヤレ。早速、温泉に漬かって疲れを癒す。宿泊者は無料なのがありがたい。今回はお花畑の稜線漫歩を期待して来たのに、ほとんど展望ゼロで高山植物も少なく残念だった。しかもばてて苦しいだけの山になってしまった。それにしても昭文社《1994年版八ヶ岳・蓼科》のコースタイムは厳しすぎるのではないか。もっとも、20代の頃はどんなコースタイムより遥かに早かったので、年齢と共に脚力が落ちたということだろうが。結局、昭文社のコースタイム4時間50分、唐沢鉱泉パンフレット5時間45分の所、昼食を入れて9時間掛かった。中高年パーティーとしては休みを入れて8時間位が普通だろう。もう一度展望がいい時にすっきり歩き通してみたい。

   湯に浸かり 今日の山旅 思うなり