春爛漫の節刀ヶ岳(1736m)
 
日 時:2004年4月25日(日)

天 気:快晴のちくもり
行 程:740大石荘−750,755登山口下−800登山口(オートキャンプ場)−845,8501170m地点−1010,1030大石峠―1145分岐−1150,1200節刀ヶ岳−1205,1420炭焼き跡−1525,1538大石峠−1645オートキャンプ場−1650,1700登山口下−1715河口湖IC

ルート断面図とルート図
 
節刀ヶ岳断面図
 
 
 
 
 
 
 
節刀ヶ岳ルート図
カシミール3Dにて作成しています

定宿という程でもないがもう何度も泊まっている河口湖畔の民宿大石荘を7時半過ぎに出発し、節刀ヶ岳登山口へ向かう。空は雲一つなくスカッと晴れ渡り秋のようだ。富士にも全く雲が掛かっていない。プチペンション村入り口の右脇にある工事中の道を進む。すぐ先で小さな沢を横切るのだが、道とは不釣合いに恐ろしく立派な城砦のような橋を建造中である。前後に狭い林道しかないというのに大きな橋だけ作ってどういうつもりだろう?しかも現在の路面より10m位高い高架橋になっている。 節刀ヶ岳にトンネルを掘って隣の芦川村へ抜ける道を作るのかもしれないが、既に御坂トンネルや甲府精進湖有料道路があるのだからこれ以上自然破壊しなくてもいいだろうに。粗舗装された狭い道を先へと進む。昨日確認しておいたので迷うこともなくキャンプ場手前の駐車スペースにたどり着いたが、初めてだと非常にわかり難い。とても《オートキャンプ場》のアプローチとは思えない荒れた道だ。キャンプ場の看板の先にトイレやシャワーと管理小屋らしき建物があり、小屋の前は立派なウッドデッキになっている。しかし、中は廃墟。

元キャンプ場の脇に立派なハイキング案内板あり。ここの標高は980m。いきなり30度はあろうかというアスファルトの急坂だ。道脇にはヤマブキやモミジイチゴが咲き乱れている。アケビやキブシ、朱色のボケの花もちらほら。所々段々畑のように小さなキャンプサイトが作ってあるが、とてもファミリーキャンプ向きではない。5分ほどで舗装路が尽きて山道となった。少し下って沢沿いに登り始める。ヒトリシズカ、タチツボスミレ、シロバナエンレイソウなどが点在。イヌガヤにカリフラワーのようなクリーム色の雄花が固まって付いている。

枯れ沢を左岸へ渡り手入れの良くない杉の植林を進む。気温は8度。北風が冷たい。所々材木の運搬に使ったらしい錆付いた鉄のワイヤーが地面に半分埋まっている。気温はそれ程低くないので風が止むと暑い。タラノキがたくさんあるが山菜の王様とされるタラノメは大半が採られてしまっている。「天辺の芽を採ったら次の芽が出て来なくなるから駄目なのになー」「マナーが悪いね」それにしてもこの山は花が多い。エイザンスミレ、タチツボスミレ、ヒトリシズカの群落が代わる代わる現れ、他にもニリンソウ、イチリンソウ、キブシ、マメザクラなど草花・樹の花が途切れない。エイザンスミレは初めて見たが、ピンクのきれいな花である。葉が深く切れ込んでいるのが特徴で名前の由来の比叡山だけでなくほぼ全国に分布しているようだ。花には早いがマムシグサや小さなヤブレガサも頭を出している。

左手が開けた場所で1本立てる。Hさんの高度計に拠れば1170m。道端の大きな岩の上に馬頭観音あり。ここからは河口湖が一望出来る。この辺り芽吹いたばかりのクロモジなど木々の若葉が瑞々しい。ウグイスやヤマガラが囀る。ヒノキの植林からカラマツ林となった。斜度が落ちて少しばかり藪っぽくなる。カラマツの芽吹きは近くで見ると鮮やかな緑だが、遠目には樹全体が淡い緑に包まれ唯一の落葉針葉樹として独特の雰囲気を醸し出している。K氏がゼンマイやイチヤクソウを見つけた。下生えがなくなり歩き易い。依然としてエイザンスミレの群落などの花が途切れず正に春爛漫である。

   空晴れて 菫群れ咲く 峠道

   唐松の 芽吹き浮かぶや 蒼天に

大石峠にて 河口湖方面
 
ウリハダカエデ登場。再びスギの植林を辿る。9時15分チョロチョロ流れる小さな水場を通過。トリカブトやバイケイソウが新しい葉を伸ばしている。大量の石が道脇に山積みになっていた。その昔、馬の通行のためにおそらくは村人が総出で道筋の石を取り除いて脇に積み上げたのだろう。苔むした大きな石を眺めていると、荷駄を積んだ馬が大石峠を越えて往来した光景が脳裏に浮かぶようだ。そういえば《大石峠》というのは大きな石が多かったのが由来だろうか?

スミレが延々と続く。また富士が見えた。花が2cmほどのマメザクラが満開である。この桜は富士山の近くに多いのでフジザクラの別名を持つそうだ。低木なのでソメイヨシノのような絢爛さはないものの楚々とした中にほのかな色香を感じてしまう。左奥に鬼ヶ岳の大岩が見える。緩やかな岩混じりの道が大きなジグザグを繰り返してグングン高度を増す。下の方から女性の声が聞こえてきた。富士が大きくせり上がって来る。再び河口湖の展望が広がった。10時過ぎ、大石峠着。気持ちよい草原である。雲一つなく晴れ渡った青空をバックに富士山が雄大な裾野を引いて実に大きくて立派だ。しかし、4月にしては随分雪が少ない。ロープを張った立ち入り禁止の区画にニッコウキスゲらしい葉が伸びている。先程の声の主である夫婦が追い着いて来た。「どちらから来られました?」「東京方面からです」「随分遠くから来られたんですね」「この先の稜線はずっと林が続いていて展望はよくないですよ」我々は別に遠くから来たなんて全然思っていないが。話し振りからして地元の人のようで何度も登っているらしい。

   富士仰ぐ 大石峠は 春めきて

「あら、俳句を詠むなんて風流ですね」風流というほどの代物ではないが、今日は次々に浮かんで来る。気温は13度まで上がった。ここからは東西に伸びる稜線を西へと向かう。シジュウカラがツツピーではなく、ツッツク、ツッツク、ツッツクとせわしない。稜線には霜柱が融けずに残っている。右はミズナラなど落葉樹林でほとんどの樹は冬姿、左はモミの植林が続く。北からの風が冷たく、先程までの南面とは打って変わって草花は全く見当たらない。小さな登降を繰り返すのんびりした稜線歩きだが先程の話の通り樹林が続き展望はない。 マメザクラよりもっと小さな桜があった。花が丁字型なのでチョウジザクラだろう。リョウブ、ブナ、ダケカンバ、ウダイカンバやミズナラが多くなる。

富士のバックに白い雲が増えて来た。右手の樹間から真っ白な南アルプスの峰々がのぞく。ハウチワカエデの小さな紅い芽吹きが可愛い。稜線上はさすがに気温が下がって9度だ。 数メートル先のモミの木にシジュウカラが3羽しきりに囀っている。頬が白くて頭と胸が黒い。これほど至近距離で姿を見せるのは珍しい。道は大きな下りとなった。遥か上空を飛ぶジェット機の音がひっきりなしに響く。《藪っぽい》と地図には表記してあるルートだが今では手入れされているらしくすっきりして歩き易い。稜線の南側が大きくガレた場所があり、荒々しく崩れた先に河口湖が望める。高度が上がるに連れて霜柱が多くなった。窪地にバイケイソウがニョキニョキと葉を伸ばしている。気温は7度まで下がった。

     霜踏みて 辿る尾根路に 梅形草

 
南アルプス 稜線の下り
 
最後の大きな登りはかなり急である。紅いうぶ毛に覆われたヤブレガサの新芽がモグラの頭のようだ。宴会向きの広場がそこら中にある。中年単独男性がもう降りて来た。右手前方にピークが現れて斜度が落ちて来た。空は白く曇ってきたが雨の心配はなさそうだ。T字路にぶつかった。左はかつて登った十二ヶ岳、鬼ヶ岳への道だ。右へ向かうとドウダンツツジがびっしりと斜面を埋め尽くしている。花の時期なら見事だろう。11時50分頂上到着。狭い山頂には三角点と《山梨百名山》の標柱があり、数組の登山者が昼食を摂っていた。この標柱は1997年に山梨県が選定した県内の百名山に一斉に立てたものだが、当時はピカピカだったのに10年も経たずにニスが剥げ落ちてすっかり貫禄が付いてしまった。

展望は良好で、白く輝く南アルプスが北岳から聖までくっきり。北には奥秩父、南には十二ヶ岳など。10分程休んで引き返す。少し下って宴会場を探すと稜線の北側の窪地に珍しいものがあった。石で囲った3m四方位の大きさの炭焼き釜跡である。早速シートを広げる。「これはいいねー」「大きさもちょうどいいよ」苔むした石積みが背もたれになって真に具合がいい。周囲はウダイカンバやミズナラなどの雑木林で展望はない。先ずはビールで乾杯。もろキュー、ベーコン野沢菜炒め、コンビーフとキャベツ、ニンジン、玉ねぎ炒めなど続々登場。時折り下りてくる登山者から「いい場所を見つけましたね」と声が掛かる。それにしても炭焼き釜の跡で宴会をやるなんて前代未聞だ。

14時20分炭焼き釜を後にする。この辺りのカラマツはまだ冬姿だ。シロモジかクロモジだろうか?鹿に皮をむかれた木が多い。オオカメノキがつぼみを膨らませている。金堀山と思われるピークから富士山、三つ峠、河口湖などくっきり。前方目の下に伸びている稜線を境に左(北側)は落葉樹の薄茶色、右(南側)はモミの植林の緑色とはっきり色分けされていて面白い。その薄茶色の落葉樹林の中にシラカバが点在しているのが目立つ。シジュウカラが早く下りろとせっつく。15時半大石峠着。風もなく陽が燦燦と降り注ぐ草原にしばし寝転ぶ。

   楚々として なお艶なるや 富士桜

「フジザクラは漢字で書くと相撲取りみたいだね」ヒノキの植林の中、16時過ぎ水場を通過。アカマツやカラマツの林を抜けると再びスギの森。スミレやヒトリシズカの群落が点々と連なっているが今朝のような瑞々しさがない。少ししぼんだように見えるのは気のせいだろうか?河口湖の湖面に夕陽が当たってキラキラ輝いている。盛りを過ぎて白っぽいヤマブキ。薄暗い杉林をしばらく下ると枯れ沢が右下に現れた。沢を横切り右岸を下る。大きな堰堤を二つ過ぎると程なくアスファルト道に出た。天気に恵まれ、沢山の花と炭焼き釜の宴が印象に残る楽しい山旅であった。