空には雲一つないが冬晴れというには空気が澄んでおらず、春霞と云ってもいい雰囲気である。線路際の側溝にわずかに消え残った雪があるのみで周囲の山々には雪のかけらもない。
田んぼの日陰には朝霜が白く残っている。初狩駅で下車して甲州街道を左折し、宮川を渡ると早くも姿を現した真っ白な富士山が一寸霞んでいる。快晴無風で気温は10度。
藤沢入り口から右に入り、少し下って笹子川を渡る。中央高速の下をくぐると藤沢集落の家々が藤沢川に沿って並んでいる。緩やかな坂道をのんびり上って行くに連れて段々富士山が大きくなった。左に急峻な三角形の滝子山が迫っている。「滝子山かね」「いえ、殿平です」「あーそう。滝子山は大変だもんね」地元の人に2度も声を掛けられた。彼らから見ればほんの裏山に過ぎない殿平にわざわざ遠くから登りに来るなんて気が知れないだろう。
家並みが切れた辺りに子神社があった。境内の幹回り6m、高さ45mという《藤沢の大杉》の前で一休み。早くも背中は汗びっしょりだ。神社の裏が登山口で木に小さな道標が貼り付けてあり《デンダイロ》と書かれている。 |
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デンダイラではないのか?里山らしく手入れの良い杉の植林の中、急勾配だがよく整備された歩き易い山道をジグザグに登って行く。木漏れ日が差し始めた森の中にはホオノキの大きな枯葉がびっしりと敷き詰めたように落ちている。森陰はさすがに気温が低く7度。10分程で斜度が落ちて緩やかな尾根道となった。
杉林が尽きてコナラやホオノキ、ヤマザクラなどの雑木林に変わり一気に明るくなる。アカマツやヒノキも多い。いつの間にか左手の木の間越に滝子山が大きく聳えている。TVアンテナのある650m付近で1本立てる。気温は13度まで上がった。
すぐに再び大きなアンテナが林立した場所があり、ここは南側が大きく伐採されているので展望が開け、丹沢や道志の山々が連なっているのがよく見える。程なくピーク状の所に出た。(あとで確認すると百反刈山797mだったらしいが、山名標識など気が付かなかった)
モミの幼木が点在するコナラの疎林をわずかに下り小さな起伏をいくつか越えるとコナラなどに囲まれた殿平山頂に着いた。西側には樹間から滝子山、白谷が丸、黒岳、雁ヶ腹摺山方面、南側には九鬼山など道志の山々が見える。三角点はあるもののピークとは云えないなだらかな広場である。空は依然として雲一つなく晴れ渡り、風もなく絶好の宴会日和。
雲一つ 無き空仰ぐ 冬の尾根
昼下がり 富士に雲なし 殿平
ポカポカと 眠気を誘う 殿平
蒼き空 小楢の枝も 輝けり
宴もたけなわの頃、5〜6人のパーティーがやって来た。大人数が宴会中なので敬遠したのか、彼らは休憩もせず通り過ぎていった。しばらくして今度は夫婦と思しき二人連れが登って来た。2時間を超える大新年会を紅茶で締めくくり撤収。下りはキャンプ場の方へ回る。やせ尾根を行くと数分で分岐があり左の道を取る。暫くはなだらかな下りだったが斜度が増し、一気に下って鞍部で休憩。澄んだ空にジェット機の轟音が響く。軽快に下って行くと沢の音が聞こえ始めた。トタン屋根の小屋が建つ荒れ果てたキャンプ場に着いた。雑草が生い茂った広場に古びたフィールドアスレチックのブランコがある。
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何度か近付いた沢の水が抜群にきれいだ。車道に出て少し下ると滝子山の登山口があった。富士山が鶴ヶ鳥屋山と高川山の間に大きく見えると間もなく子神社に帰着。最後まで富士山には雲が掛からなかった。
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