黄金に染まる志津倉山(1234m)

日 時:2003年10月25日(土)
天 気:くもり、風弱し。
行 程:948登山口−1041,1050最後の水場の手前−1110屏風岩−1123三本松−1147,1152ブナ平−1205,1258志津倉山−1330,1335糸滝−1425登山口

ルート断面図とルート図
志津倉山断面図 志津倉山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

枠のある写真をクリックすると拡大します。本山行ルートは推定であり精度はよくありません

昨夜は満天の星だったのに今朝はすっかり曇ってしまった。時折り雲の切れ目からわずかに朝日が差す。国道252号を南下し、会津宮下で左折して山道に入る。周囲の山々の紅葉・黄葉が素晴らしく期待が高まる。段々道幅が狭くなり何度かヘアピンカーブを抜けると登山口に到着。既に10台以上の車で一杯だ。何とか1台分のスペースを見つける。北の空に少し青空がのぞいているが全体に雲が厚い。気温は13度まで上がっている。登山口の標高はほぼ700mなので500m強の登りとなるが、今日は温泉泊まりなのでのんびり歩けばいい。大きな案内板の前で記念撮影して10時前に出発。外人の遭難碑や鐘あり。早くも大きなブナ、ホオノキ、カツラなどが林立している。数分で《右細ヒドコース。左大沢コース》の分岐を通過。普通は大沢コースから登り、細ヒドコースを下ることになっているらしく我々もそれに従う。

志津倉山登山口 志津倉山登山口 雨乞岩 屏風岩付近

ぬかるみが続く大沢の左岸を緩やかに登っていく。しばらくして右上に大きな一枚岩が現われた。《雨乞岩》である。高さ100m以上はある急なスラブに幾筋も水が流れており、それらが朝日を受けてピカピカ光っている。岩壁の周囲は見事な黄葉に彩られ、中に1本の大きなハウチワカエデが真紅に燃えて一際目立つ。これぞ正しく紅一点である。 夫婦らしい高齢者が追い着いて来たので道を譲る。かなりの年配なのに随分ピッチが速い。我々は黄葉を楽しみながらゆっくり歩を進める。歩き始めて30分程で《二子岩コース》への分岐を通過。ここからルートは沢を離れて右岸の急斜面に採られている。この辺り背の低い針葉樹が多い。

カヤかイチイの幼木かと思ったが図鑑で確認すると多雪地帯に多いというハイイイヌガヤだった。雪に耐えて這うように幹を伸ばす所からこう名付けられたそうだ。今度は3人組に追い抜かれた。しかし彼らはきのこ狩りをしていたのですぐに抜き返す。沢に近付いた所で一本立てる。薄日が差して暑いと思ったら16度もある。 トチノキやホオノキが多い。いづれも巨大な葉を持つこれら2種の区別の仕方など解説していると沢にぶつかった。《最後の水場》との標識あり。別に湧き水がある訳ではなく、ここからは沢と離れて尾根道になるから《最後》という訳だ。大沢を渡るとすぐに岩混じりの急登となる。多雪地帯らしくブナやリョウブなど皆幹が根曲がりしている。やせ尾根となり鎖場やトラロープもあって若干緊張するが刺激があって楽しい。しかし小さなホールドやスタンスに慣れない人にとってはかなり恐怖だろう。グングン高度が上がり谷向こうの斜面が良く見えるようになってきた。この山域には針葉樹が少ないので、ほとんど山全体が紅葉に覆われて実に見事だ。これで青空だったら言うことないのだが、曇り空がうらめしい。それでも丁度紅葉のピークに当って運が良かったというべきだろう。シャクナゲが急斜面に張り付くように伸びている。

紅葉が全山覆う志津倉山

11時過ぎ、《屏風岩》の絶壁に到着。すっかり葉を落としたナナカマドが絶壁から身を乗り出すように細い枝を伸ばし、その先端に真っ赤な実を付けている。枝が目立たないのでまるで中空に紅い花が浮かんでいるようだ。脂でべとつく松の根につかまりながらナイフリッジを攀じる。両サイドが切れ落ちているので高度感が出る。クロモジの薄い黄葉がきれいだ。数本の松がある所に《三本松》との標識があり、その脇ではコミネカエデが鮮やかに紅葉している。ようやく斜度が落ちて普通の山道となった。もう稜線は近そうだ。この辺り大きな木はほとんどブナだがすっかり葉を落として冬姿である。所々そのブナの幹に道標代わりの赤ペンキが塗ってある。笹に覆われた稜線に出た。一際大きなブナの根元に《ブナ平》との標識あり。「あれー!雪山が見えるよ」「あれは飯豊山じゃないかな?」「まだ10月なのにあそこだけ白いね」「もう根雪になるのかな?」樹間にのぞく北の空に雪に覆われた飯豊連峰が神々しく浮かんでいる。ふと横を見るとブナの幹にセミの抜け殻がくっついていた。何故か懐かしい。ウリハダカエデとクロモジが少しばかり黄葉を残している他は皆冬姿なので見通しがいい。

薄日差し 落ち葉踏みしめ たどる尾根

志津倉山山頂にて 飯豊山遠望 黄葉のブナ林 黄葉のブナ林
 
黄葉のブナ林 黄葉のブナ林 黄葉のブナ林 黄葉のブナ林

12時過ぎ志津倉山に到着。それ程広くない山頂は20人以上の中高年登山者で満杯だ。やはり素晴らしい紅葉が良く知られているのだろう。しかし、渋い山なので若い人はいない。風もなく気温は16度もあり薄手の山シャツだけで全然寒くない。上空は曇っているが遠望が利き、北面にはわずかな青空の下に雪を被った飯豊山、ずっと左には端正な三角形の御神楽岳、右端には磐梯山などが、そして南には七ヶ岳のギザギザがはっきり見える。その右には田代帝釈からダラーッとした会津駒が連なりその奥に燧岳。東と西はブナ林に覆われていて展望は利かない。クリタケや大きなナメコをレジ袋にたくさん採ってきた人がいて見せてもらう。

下りは細ヒドコースをたどる。緩やかではあるが、ぬかるんで滑り易い道をブナの赤ペンキに導かれて15分程西へ下ると右に折れて尾根道となり斜度が増す。正面の展望が開けて再び飯豊山が姿を現した。小さな沢を横切り、13時半《糸滝》で一本立てる。 文字通りか細い滝である。北面なので気温は11度まで下がっている。御神楽岳が大きく立派だ。ここからは一段と傾斜がきつくなり慎重に下る。岩場に巨大なホッチキスを打ち込んだような鉄の足場が階段状に付けてあった。それを過ぎると斜度は落ち、緩やかなブナ林の落葉道となる。この辺りのブナは風格のある直径1m高さ20m位の巨木が多く、大きく枝を広げているので1本だけでも充分見応えある黄葉なのに、そんな木があっちこっちにごろごろあって実に壮観。

華麗なり 心も染める ブナ紅葉

黄金の ブナの林に 感嘆符

照り映える 黄葉見上げ 息を飲む

しかもまさに今が盛りで前後左右上下黄色に染まって身体も黄色くなりそう。丁度西に傾いた秋の日が差して黄葉が一段と明るく輝き、荘厳な雰囲気。声も出ないくらい大感動!!!本物のブナ林の黄葉がこんなに素晴らしいことは初めて知った。淡い緑から薄い黄、濃い黄、そして橙色まで微妙に変化したブナの葉が織り成すハーモニーは絶妙である。「ウワーすごい」「ここもすごいねー」「エーッ」「あそこもいいねー」360度見事な光景が続きとてもカメラに収まり切らないが、皆シャッターを切り続ける。成熟した大人のブナ林の黄葉は迫力があり心を打つものがある。若いブナではとてもこんな雰囲気にはならないだろう。 道は沢沿いとなりトチノキやすらりと伸びたサワグルミが多くなる。オオバクロモジの端正な黄葉も目立つ。大沢コースと合流すれば間もなく登山口に着いた。やっぱり東北の山の紅葉は素晴らしい。今年は冷夏で鮮やかな色付きは無理と思っていたが、1200mの小さな山とは思えない豪勢な山旅で大満足だった。