【第1日】
天 気:くもりのち雨、風弱し。気温低い
行 程:600奈良田−635,650広河原−715,725北沢峠−740,802大平山荘−850,900樹林帯−940,950藪沢−1028,1040ガレ場−1110,1128五合目(デポ)−1140馬の背 ヒュッテ−1156馬の背−1212,1220稜線−1255,1302仙丈小屋−1332,1351仙丈ヶ岳−1405仙丈小屋−1428,1432稜線−1458五合目(幕営)
夜叉神峠からの林道が崩壊の為通行止めになっており、長躯身延方面を迂回して早川沿いに奈良田へ入り午前4時までの通行制限の解除を待ち、未舗装で細く危なげな林道と真っ暗なトンネルをいくつも抜けてようやくここまで辿り着いた。駐車場に車を置いて仕度を済ませバスの列に並ぶ。小型バス2台が丁度満員になる。芦安村営バス(最近南アルプス市になったとかで《市営バス》に昇格していた)はいくつもの小さな沢を横切りながら野呂川沿いの南アルプス林道をゆっくりと登って行く。仙丈岳がチラッとみえた。雲が切れて少し青空が顔をのぞかせる。予報では今日はくもりで明日はくもり一時雨の見込み。天気は下り坂の筈だが晴れ間が見えるとひょっとして予報が外れて晴れるのかなと淡い期待を抱いてしまう。
|
|
|
広河原から25分で着いた北沢峠は戸台方面からの長谷村営バスも到着しており、100人位の登山者でごった返している。中高年が多いが若者も結構居る。長衛荘と新しい立派なトイレが目立つ。半分以上は仙水峠経由甲斐駒へ登る人のようで小仙丈経由仙丈岳へ向かう人も多い。我々は藪沢コースから仙丈を目指す。峠から林道を西へ向かう人は誰も居ない。これならねらい通り静かな山歩きを楽しめそうだ。300m程下り気味に進むと左に大平山荘へ下る山道があり、少し下って再び林道と合流した所に大平山荘が建っている。小屋の主に幕営地の様子を聞いてみると仙丈小屋付近は幕営禁止になっているそうだ。
藪沢小屋も禁止だが張れない事はないらしい。仙丈小屋の幕営地にテントを張るつもりだったので予定が狂った。適当な場所がなければ小屋泊まりするしかない。やはり大きな山では道路状況や幕営地などについて事前に確認すべきと反省。山荘の少し上で朝食を済ませ、いよいよ斜度が増したシラビソの樹林帯を進む。徐々に傾斜が急になり重荷が堪えるようになってきた。夜行の寝不足も利いているようだ。小さな沢を何度か横切り、ダケカンバやコメツガが現れるようになった。振り返ると甲斐駒の前衛である駒津峰が大きい。左には鋸岳の稜線も見える。9時過ぎ大滝の上に達する。右下やや遠くに滝が落ちているのが見える。藪沢右岸沿いの道は高度がグングン上がり後ろには摩利支天と甲斐駒がガスの中から姿を現した。
|
|
|
少し日が差す。沢の音が近付いて傾斜が緩やかになった。白いギンリョウソウや濃い紫のトリカブト、オレンジのコオニユリ、ピンクのタカネナデシコ、セリ科の白いオオハナウドなどが足元を彩る。思ったより花がたくさん残っていてうれしくなる。対岸を良く見ると気の早いナナカマドが1本だけもう紅葉している。藪沢には雪渓が現れた。8月も終わりというのにかなり雪が多い。雪崩にやられたのか大きなシラビソやダケカンバが根こそぎ倒されて沢床に横たわっている。9時40分、2250mの渡河地点に到着。すぐ上まで大きな雪渓が流れを覆って迫っている。清冽な雪解けの水が豊かに流れており、涼しくて実に爽やかだ。後ろに目をやればV字谷の彼方に鋸岳のギザギザが高い。傍らのウラジロナナカマドの白い花にミツバチが止まっている。
葉月まで 雪渓残る 藪沢や
七竈 花に蜜蜂 止まりおり
左岸のガレ場を行くとリンドウ、マルバダケブキ、キンポウゲ、ウサギギクなどが目を楽しませてくれる。4人パーティーに追い着かれたので先行してもらう。三脚を構えて滝の写真を撮っている夫婦がいた。さっきまで見えていた甲斐駒は再びガスの中に消えてしまった。下って来た二人組とすれ違う。ハクサンフウロがたくさん咲いており、ダケカンバが増えて源頭が近い感じになってきた。いつの間にか空はすっかり曇っている。11時過ぎ大滝の頭への分岐である五合目に到着。丁度テント一張り分のスペースがあるのでここを幕営地と決め荷物をデポする。登山道脇だが目の前が沢で水もあるので好都合だ。標高は2570m。コバイケイソウ、マルバダケブキの群落の中の急登を10分程で馬の背ヒュッテ通過。空身なので足がフワフワ浮き上がって身体が傾き、妙な感覚だ。気温18度、ヒュッテから15分で馬の背である。
|
|
|
オオシラビソやダケカンバ、シャクナゲそしてハイマツ帯となる。広々とした稜線歩きとなったが残念ながらガスが掛かって大展望は得られない。東には小仙丈の稜線が間近で人の行列がシルエットで見える。一瞬ガスが晴れて仙丈岳と藪沢の大カールそして仙丈小屋が一望出来た。それにしても3年前に建てられたばかりの真新しい仙丈小屋は図体が大きいので景観を損なって目障りだ。大カールの底に位置していてこの大景観の中心にあるのだからもう少し周囲に調和するようなデザインに出来なかったものか?(以前は避難小屋だった)
背の低いウラジロナナカマドが多い。カールの急登をしばらくたどるとガスの中から仙丈小屋が現れた。風が強くなり、気温は15度まで下がっている。テント場はロープで囲われて立入り禁止だ。缶ビール600円、ジュース300円の看板あり。再びガスが切れてカール全体が見渡せたが次の瞬間にはガスが濃くなり視界は100m以下に戻る。小屋のすぐ上には花の終わったチングルマの群落。荷は軽くなったのに足が重く頭が痛い。気温が低いので軽い高山病になったようだ。フラフラしながらノロノロ歩いてようやく仙丈岳ピークに辿り着く。13時32分。14度。さすがに夏の3000m峰だけあって広い山頂は大勢の登山者で賑わっているが大混雑という程でもない。肝心の展望は小仙丈が見えるだけで、残念ながら周囲は雲の中。北岳を始めとする大展望は全く得られない。
仙丈の 高嶺は雲に 包まれて
すぐ目の前にある筈の大仙丈すら見えない。写真だけ撮ってすぐに下山開始。14時過ぎに仙丈小屋を通過する時は12度まで気温が下がった。ウスユキソウが咲いている脇の岩場にホシガラスが羽を休めていた。大柄で尾が白いこの鳥はハイマツの実が好物という。良く見ようとすると「ギャー」と一声鳴いて飛び去ってしまった。カケスのつぶれた声よりは多少いい声だ。馬の背、馬の背ヒュッテを経て15時前デポ地に帰着。早速ビールとワインを冷やしテントを設営する。予報より早く夕方から雨が降り出した。夜にはかなり本降りとなり一時は風も強く荒れ模様となったが、幸いテントへの影響はほとんどなかった。
【第2日】
天 気:雨風強く気温低い
行 程:935五合目−945藪沢小屋−1007大滝ノ頭−1022,1030四合目−1130,1315北沢峠−1340,1400広河原−1600甲府南IC
明け方までの強い雨風は夜が明けると共に収まった。沢の水で顔を洗うと手が痺れるほど冷たく気持ちいい。周囲は依然雲に包まれており時折パラパラ降って来る。天気が良ければ小仙丈方面に登るつもりだったがガスの中では仕方ないので大滝の頭経由で下ることに決定。もっとも広河原からの林道は13時半からしか通行出来ないので早く下っても仕方ない。朝食後、テントの中で残った日本酒をチビチビやりながらのんびりする。
天幕の 屋根打つ雨の 恨めしき
ちなみに汚れた鍋や食器の始末はお湯で湿らせたトイレットペーパーで拭くだけで済ませ、ゴミと一緒に持ち帰るので水場で洗うようなことは一切しない。大は穴を掘って始末。小は勘弁してもらう。9時半過ぎに撤収して出発。雨はほぼ上がっており気温は12度。沢を渡ってトラバース気味に東に向かう。ガスに包まれ小雨に煙るシラビソの森は幻想的だ。10分で藪沢小屋を通過。管理人はいない。やはりテント場はロープを張って立入り禁止になっていた。この辺り根が曲がった巨大なダケカンバが多い。登山道に張り出したシラビソの大きな根をまたぎ小さな沢を何度も横切りながら進むと間もなく大滝の頭に到着。
白檜曾の 森は狭霧に 白化粧
視界はほとんどなく今まで収まっていた雨風とも再び本格的になって来た。四合目で1本立てチョコレートを頬張る。大粒の雨で道はぬかるむし眼鏡も曇る。こんな大雨は久し振りだ。早く撤収して良かった。下るに連れて小降りになり、11時半、北沢峠に着く頃にはほぼ雨は止んでいた。昨日と違ってほとんど人はいない。バス待合所のテントの下でシャツだけ着替えフリースを羽織る。長衛荘で休ませてもらい山菜そばを食す。気温は15度と低く小屋ではストーブを点けている。いくら標高2000mとはいえ、真夏にこれだけ寒いのは異常だろう。13時15分のバスに乗り13時40分広河原着。奈良田から52号、市川大門経由甲府南ICへ向かう頃にはすっかり蒸し暑い夏に逆戻りしていた。久し振りの3000m峰は思ったより高山植物がたくさん咲いていて雪渓も残っていたし高山気分を充分味わえた。天気が悪かったのが残念だが、そのお陰で人も少なく静かな山を楽しめて十分満足のいく素敵な山旅であった。
|
|
|
|