新緑溢れる四尾連湖から蛾ヶ岳(1279m)

日 時:2003年6月7日(土)〜8日(日)

ルート断面図とルート図
蛾ヶ岳断面図
 
蛾ヶ岳ルート図
カシミール3Dにて作成しています

今回は富士山が良く見える山のガイドブックから選んだ甲州の蛾ヶ岳である。標高は1279mと小さな山だが、山梨100名山の一つである。《ひるがたけ》と読むのだが、蛭(ヒル)ではなく蛾(ガ)だ。別に蛾が多い訳ではなく、武田信玄が蛾ヶ岳の真上に太陽が来た時に昼の合図の太鼓を打たせた所から昼ヶ岳。それが《蛾》に置き換わったらしい。甲府のほぼ真南に当たるが、甲府城からよく見えたのだろう。

【第1日】
天 気:薄曇り非常に蒸し暑い
行 程:1125市川大門―1205西安橋―1230,12401本目―1250廃道分岐−1332,1342 700m付近−1348うなぎ沢分岐−1420のろし台− 1445,14553本目−1515,1520四尾連峠−1538龍雲荘(泊)

空はほとんど雲に覆われているが少し晴れ間がある。今回は甲府で合流。身延線は2両編成の新しいきれいな車輌である。ワンマンなのでバスのように整理券方式になっており、電光掲示の料金表がある。車窓からは南アルプスの白根三山や鳳凰三山、櫛形山などが見えるはずだが、白く霞んで遠くの山は全く見えない。市川大門の駅に降り立ったのは我々8人だけ。気温は28度。非常に蒸し暑い。無人駅のため運転手が精算業務をやるので大変だ。新しい小さな駅舎は中国風に屋根が反り返っており、公民館を兼ねている。歩き始めてみると、どうも一つ手前の市川本町で降りた方が登山口に近かったようで、住宅街の間の曲がりくねった狭い道でウロウロしてしまう。しかも、ようやくたどり着いた地図にある登山道は廃道になっていた。仕方ないので大門碑林公園の登山口まで迂回する。大分遠回りになってしまったが、まあ急ぐこともないのでのんびり歩く。

山羊の糞に似た黒っぽい桑の実が側溝にたくさん落ちているし、梅や柿も小さな実を付けている。クルミの大きな青い実が房のようにかたまっている。尾根の末端の傾斜地に作られた大門碑林公園には中国風の建物がたくさんある。西安橋を渡って右に折れ、少し坂を上ると《四尾連湖自然公園登山道入口》という立派な表示板があった。ここからようやく山道となる。早くも汗びっしょりだ。ダンコウバイ、コナラ、ウリカエデなどの雑木林とヒノキやスギの植林が交互に現れる。ここのヒノキは葉裏のYが目立たない。土が流されて数メートルえぐられたU字型の溝の底が道になっている。見通しが悪いし風も無く非常に蒸し暑い。この溝が延々と続く。12時半1本目。腹が減ったのでおにぎりをほおばる。脇に野イバラの花がたくさん咲いている。13時前廃道分岐を通過。明るい巻き道となり、少し風が出て来て涼しくなった。気温は22度まで下がっている。「これはすごいなー」10本以上に複雑に株立ちしたブナあり。ブナは普通株立ちしないからイヌブナだ。こんな低い里山のような所に、貴重な自然林が残っているのを見るとうれしくなる。細かくて白い房状花あり。コバノガマズミか?(この後もあちこちに咲いていたが、調べてみたらマルバウツギだった)ダンコウバイやアカマツの大木、モミ、オニグルミなど確認しながらジグザグの急登を行く。余り正確とは思えないが1km毎に四尾連湖までの距離表示あり。

四尾連湖への登り 四尾連湖への登り 四尾連湖への登り

13時半、2本目を立てる。Sさんの高度計に拠れば700m付近である。樹皮がつるつるの木あり。カシ?シイノキ?シイノキはツブラジイとスダジイが代表なのだが、葉の分厚い常緑の照葉樹はなじみが薄くてよく判らない。大きなサンショウの木。葉に触ると指にいい香りが残る。樹皮がイボだらけ。14時前、浅間社の分岐に達する。下りは同じ道では面白くないので、このうなぎ沢を下ってみたい。しかし、地図の位置とは少しずれているのが気になるが。晴れて来て暑くなったせいかセミがけたたましく鳴き始めた。ウグイスも負けじとさえずる。ヤマツツジが少し咲き残っており、薄紫のホタルブクロの花も目立つ。先日の台風のせいかカラマツの小枝が大量に落ちていて、拾ってみると柔らかい葉がパラパラと落ちる。

14時20分のろし台到着。《光通信》の場所だけあってさすがに展望が良く、八つや北岳が見えるらしいが、ヘイズの彼方に隠れている。眼下には甲府盆地が広がり、釜無川、笛吹川、芦川の三つの川が合流しているのが一望出来る。ここから下流は富士川となる。展望説明板の横には公園のようなツツジの植込みがあるが、こういう人工物は興醒めだ。しかも手入れされていないから雑草に埋もれて汚らしい。所詮こんな山奥で手入れが出来る訳ないのだから、最初から植えなければよいのに。ホオノキの大きな枯葉が落ちている。今日初めて下り道となる。錆びたトタン屋根の四阿(あずまや)あり。クマシデ?アカシデ?葉がよく似ているので同定が難しい。尾根の右を巻くように緩やかな登りは歩き易い。立派な鉄橋で枯れ沢を渡る。紅いイチゴがたくさんあり試しに食べてみたが味も無くまずかった。14時45分3本目。鳥の種類が多いがウグイス、ホトトギス、シジュウカラ以外はほとんど同定出来ない。ウリハダカエデの巨木が根こそぎ倒れて道を塞いでいた。土砂崩れで流されたらしく大きな根が空に向かって広がり、太い枝が地面に突き刺さっていて壮絶だ。

四尾連湖

15時15分四尾連峠到着。文学碑の周囲には公園風にツツジがたくさん植えてあるし、「人工降雨用発煙所?」なる施設もあり。そう云えば昔よく聞いた「人工降雨」という言葉を聞かなくなって久しいが、その後技術進歩はないのだろうか?実用化出来ないままあきらめてしまったのだろうか?4駆のわだちがある林道を緩やかに下って行くと木々の間から四尾連湖の湖面が見え始めた。バンガローが林立し出すと間もなく湖畔の宿に到着。 水明荘と龍雲荘と2軒の旅館が並んでいる。大きな駐車場やキャンプ場もある。静かな湖畔、木の桟橋に貸しボート、スワンボートもある。人気がないのに人工物があるとさびれた遊園地のようで何となく侘しい。 部屋は3部屋続きで8人では充分な広さ。他に客はいないようで貸切である。

【第2日】
天 気:快晴 気温高く湿度は低い
行 程:745出発−825稜線−910,9151本目―935,1004蛾ヶ岳―1015六地蔵―1050四尾連湖分岐−1100,1105大畠山−1130四尾連峠−1150,12004本目−1240,1250浅間社分岐−1408,1425車道−1440,1453芦川

気温18度。よく晴れて昨日より湿気が低く涼しいので非常に爽やか。シジュウカラのハーモニーが湖畔に響く。7時45分宿を後にする。すらりと伸びたコナラの林が清々しい。市川大門へ下る車道から左へ折れるとすぐ登山口である。アカマツの巨木の間にヒノキの幼木。尾根の左斜面を巻くように登って行く。植林と自然林が交互。アワブキの20cm以上ある大きな葉が目立つ。8時半大畠山との分岐通過。ここからは稜線の緩やかな道となる。ヤツデみたいな裂のある大きな葉のモミジウリノキやマンサクみたいな葉のハルニレあり。イタヤカエデ、イロハモミジが多いので紅葉の時期も良さそうだ。風が爽やかに吹き抜けて気持ちいい。稜線は所々やせ尾根になっているので、図鑑を見ながら歩くと転落しそうだ。木漏れ日、新緑、涼風、これだけキーワードがあればいくらでも俳句が出来そうだが、ワンパターンのしか浮かばない。昨日からずっとダンコウバイが多い。先端が3裂した特徴ある葉だが、この山のは随分葉が大きい。花の終わったミツバツツジあり。ヤマツツジは橙色の花が少し咲き残っている。17度。夫婦連れが降りて来た。

朝日浴び 若葉煌く 蛾ヶ岳

緩やかな下りから杉林の急登をジグザグにたどる。鳥の競演が素晴らしい。9時過ぎ1本目、1130m位。道が平らなので休憩無しで1時間半近く歩いてしまった。ヤマガラがのどかに鳴き、道沿いにはトリカブトが連なっている。間もなく六地蔵に着いた。石に稚拙な浮き彫りの可愛い地蔵さんが並んでいる。「頂上まで10分」の看板あり。9時34分蛾ヶ岳山頂到着。見慣れた《山梨百名山》の標柱が立っている。ミズナラやクマシデ、ベニドウダン等に囲まれた二等三角点のある狭いピークに先客は単独の1名のみ。

蛾ヶ岳への登り 蛾ヶ岳山頂から大畠山と四尾連湖方面 蛾ヶ岳山頂にて

南には、ほとんど雪が消えた富士山がかすかに見え、西に多少雪が残った白根三山から塩見方面がかろうじて望める。櫛形山の大きな図体がもっこり横たわり、手前には大畠山、その左に四尾連湖が黒く沈んでいる。エゾハルゼミが控え目に合唱。全員並んでシャッターを押してもらい、何人か登って来たのを潮に下り始める。六地蔵までは下りで10分だった。上りではほとんど人の気配がなかったが、下りでは次から次へと登って来る登山者とすれ違う。大部分は四尾連湖の駐車場に車を置いて蛾ヶ岳ピストンする人達だろう。ホトトギス、シジュウカラなど入れ替わり立ち代り鳥のさえずりが森にこだまする。標高が低い割に随分山深い感じがして素晴らしい。

新緑の トンネル抜ける 爽やかさ

鳥の声 途切れず続く 夏の尾根

カケスがつぶれたような声で鳴く。10時50分、四尾連湖への分岐を直進する。11時大畠山着。山頂はパラボラアンテナの大きな鉄塔に占領されており、樹林帯で全く展望無し。偶数2回羽状複葉のサイカチを初めて同定。緩やかに下って行くと、11時半、四尾連峠に着いた。北側のみ開けており、櫛形山がさっきより随分大きくなった。鳳凰三山もかすかに見える。コアジサイが咲き掛けている。まだ緑色の細かいつぼみだが1週間もすれば開きそうだ。馬頭観音あり。「寛政五年」と読めるが、この道もかつては街道だったのだろう。12時前、1本立てる。歩き始めてすぐ鉄の橋を渡る。気温は23度に上がり日差しがきつくなるが、ずっと木陰だし湿度が低いので余り汗をかかない。下向きに咲く可愛い4弁の白い花あり。梅の花に似ており、葉は5cm位だが同定出来ない。(帰宅して調べたらバイカウツギと判明。梅に似ているはずだ)

道が細くなった。カシワの巨大な葉が目立つ。トタンの四阿を通過。のろし台には登らず左を巻く。「イノシシだー!」突然、前を歩くSさんが大声を上げた。声の先を見ると一瞬黒いものが見えて樹の陰に消えた。「まさに猪突猛進だったよー」「かなり大きかったな」「こっちに向かって来たら大変でしたねー」12時40分浅間社分岐で休憩。溝の中の道を下るのは面白くないので、ここからうなぎ沢ルートを採ることにする。人が入ってなさそうなので、藪こきに備えて軍手をする。杉の幹に赤ペンキや赤テープで50mおきに目印あり。踏み跡が全くない。多田氏とダブルトップでルート確保に万全を期して、トラバース気味に下って行く。落ち葉がすごい。急降下となる部分もある。樹木が密生して展望無し。どうも地図にあるうなぎ沢ルートとは違って、市川大門町と隣村の境界巡視路らしいが、いつまでも巻き道なので下まで続いているのか若干不安になる。もっとも皆しっかり歩いており、町は近いし時間も早いので問題は無いが、ペースダウンする。

ルートファインディングを楽しみながらかなり下った頃、突然赤ペンキがなくなった。左右を見渡すが見当がつかない。川の音は近いし道路も見えるのでどこへ下っても大丈夫だろうが。強引に右斜面を50m程下る。改めて地図をよく見ると川岸の崖の上に出そうなので登り返す。「左に道がありますよ」I氏が踏み跡を発見。かつてはちゃんとした山道だったらしい痕跡あり。何年も人が入っていないらしく落葉が吹きだまった所では膝まで潜る。枯葉を蹴散らしながらジグザグに少し下ると、ゴミの不法投棄がひどい空き地に突き当たり、あっけなく道路に出た。振り返ると背の高い雑草と藪に覆われてとても道があるとは思えない。

近道は 膝まで潜る 枯葉道

下山口 下山口

地上はかんかん照り。28度。さすがに甲府盆地は蒸し暑い。身延線の芦川まで田んぼやとうもろこし畑を見ながらアスファルト道を1km程歩く。今回は梅雨直前の晴れ間に恵まれて清々しい森林浴が出来た。小さな山の割りに樹木も鳥も種類が非常に多く、イノシシまで出るなど豊かな自然の生態系が保たれて、深山の雰囲気が味わえる素晴らしい山旅を堪能出来た。

参考: 龍雲荘 1泊2食 8500円