春雪の吟行/菰釣山敗退記

日  時:2003年3月29日(土)
天  気:曇りのち雪のち晴れ
行  程:920山伏峠―925送電線−955大棚の頭−1007,10151本目−1042,1045石保土山−1115西沢の頭−1137,1142樅の木沢の頭−1200,1336油沢の頭−1355樅の木沢の頭−1435西沢の頭−1510,1515石保土山−1550水の木分岐−1620山伏峠

ルート断面図とルート図
菰釣山断面図
 
菰釣山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

標高1100mの山伏峠駐車場には車が5〜6台停めてある。 ここは御正体の登山口でもあるのだが、我々は反対側の菰釣山(こもつるしやま)を目指す。支度をしていると、どこかの団体ツアーがチャーターした小型のバスが来た。道坂トンネルにも御正体の登山口があるのでそこに登山客を降ろして回送して来たのだろう。皆はスパッツを着けている。今回の菰釣山は1378mの低い山だし、3月も終わりなのでスパッツも軽アイゼンも持って来なかったが、多少の雪はあるとしても何とかなるだろう。

「鳥の胸山では散々ネタにされたから今日はアイゼンを持って来なかったよ」とTさん。廃業した山中湖高原ホテルの脇から御正体への登山道を歩き始めるとすぐ富士山が大きく見えた。山頂付近は雲に隠れているが、3合目付近まで真っ白でかなり積雪が多い。そういえばこの間ニュースで富士スバルラインの除雪が遅れていると言っていた。杉林の急登に固まった残雪があり多少滑る。御正体との分岐に出たので右の道を採る。コンクリートの階段を上がると小さな社があり、行き止まりかと心配したが右に抜ける道があってホッとする。すぐに植林は終わりブナやリョウブの林となる。送電鉄塔を通過する辺りで薄日が差して来た。途端に一句浮かぶ。

  薄日差す 春の尾根道 残り雪

どーんと富士山が姿を現した。麓には山中湖が光っている。株立ちしたクロモジらしい林。おニューの温度計によれば6度である。風は無いのでそれ程寒くない。10時前、大棚の頭を回り込むと稜線に出た。高指山から菰釣山、城ヶ尾山さらに畦ヶ丸へと続く稜線である。南面なので完全に雪が消え枯葉道となった。東海自然歩道に指定されているだけあって、道標が多いし道も整備されて歩き易い。 この辺りからブナ中心の林となる。幹の直径50〜70cmの苔むした立派なブナが多い。また送電線があった。南側の展望が良く西丹沢の峰々が春霞に煙って淡く連なっており山水画の世界である。「いい雰囲気だね」「送電線が邪魔だな」《水の木分岐》の標識を過ぎると丸太の階段の急登となり、少し雪が残っている。この登りが終わった所に木のテーブルがあったので1本立て、飴や羊羹を補給。ここからは山中湖が見えるが富士山はすっかり雲に隠されてしまった。


尾根の登り 御正体山 油沢の頭にて 油沢の頭にて
 

ブナやクロモジがほとんどだがモミやリョウブも多い。左手に御正体が大きく見えるようになった。この稜線と御正体の尾根はほぼ平行しているのでこの後もずっと見え続けることになる。大きなブナにツルが巻きついており、そのツルが木全体の枝に沿って四方に張り出して2cm位の小さな葉を沢山付けているので、一見常緑樹のように見える。北斜面には雪がずーっと残っているので吹き上げる風がヒンヤリしている。再び薄日が差す。

たらたらと 辿る枯れ尾根 静かなり

「ピー」今日初めての鳥の声だ。「ヤマガラだな」よく聞いてみると「ツツピー」と鳴いている感じだ。石保土山(1297m)に到着。もう10時半を過ぎている。「私ここで終わりでもいいわー」「まだ3分の一しか来てないよ」K夫人は大分くたびれた様子。「ホームページ用に今日はデジカメを持って来ましたよ」K氏が標識をバックに集合写真を撮ってくれる。デジカメはいつシャッターが下りたか判らないので撮られる方は調子が狂う。

 急な下りとなり、所々残雪を踏む。雪道になるとスニーカーのM君は遅れがちになる。ウダイカンバやイヌシデが現れた。ザレ場の下りに青いロープが張ってある。「花は何もないね」「ダンコウバイ位咲いているかと思っていましたけどね」「ダンコウバイは4月だろうね」幹径20cmはある大きなシャラノキあり。西沢の頭を過ぎ、またまた下る。小さな上り下りが延々と続く。一つ一つは15〜20m位の高低差で大したことはないのだが、何度も繰り返すとかなり消耗である。地図ではそんなに起伏があるようには見えず、平坦な尾根をのんびり歩くつもりで来たのだが。

「まだー?」もうすぐ6年生のM君が大きな声で叫ぶ。声が出るうちは元気な証拠だ。樅の木沢の頭で3本目を取る。ここにもテーブルあり。山伏峠から2時間以上掛かっており、このペースでは菰釣山まで1時間以上掛かりそうだ。 「菰釣山まで行くと遅くなって大変だよ」「こだわらないで油沢の頭で宴会にしよう」「紀行文のタイトルが《油沢の頭》では締まらないけどね」「1310mあるんだからほぼ菰釣山に登ったことになるよ」変な理屈でたちまち衆議一決。目標を菰釣山から油沢の頭に変更する。鹿にかじられたらしくリョウブの樹皮が皆剥かれて痛々しい。相変わらず小さな起伏が続き皆へばってきた。12時丁度に油沢の頭に到着。狭い山頂には四角いテーブルが一つ。もちろん誰もいない。ブナやシャラ、モミ、カヤなどに囲まれて余り展望は良くないが、木々の間から御正体山が大きく聳えているのが見える。気温は8度。時間的にもここから引き返すのが賢明だろう。

油沢の頭にて 二股のブナ 石保土山付近 石保土山付近
 

早速テーブルを調理場にしてコンロでお湯を沸かしつまみを並べる。すぐ脇にシートを広げたのだが、雪が融けたばかりの地面が湿っていて冷たいし、テーブルが高くてシートに座ると食べ物にありつけないので、皆テーブルの周りに立ったまま食べている。1時間半の春の宴を切り上げる頃には気温が6度に下がった。少し寒い。13時半過ぎに出発。《下り》と言っても起伏が多く、《上り》がかなりあるので時間が掛かる。樅の木沢の頭を過ぎる頃には風も出て来て気温がどんどん下がって行く。一瞬日が差して今日初めて影が出来た。ようやく晴れてきたかと喜ぶ。14時半過ぎ、西沢の頭を通過。期待に反して雲行きが怪しくなり、空がにわかに暗くなる。石保土山の手前でとうとう雪が舞い始めた。気温は4度。柔らかくて大粒の乾いた雪で発泡スチロールのようだ。見る間に激しくなり、辺りは銀世界に姿を変えて行く。15時過ぎ石保土山到着。気温は1度。

  黒雲を 冠りて聳ゆ 御正体

  辿る尾根 大粒の雪 降りしきる

  春の尾根 思わぬ雪に 凍えけり

  樅の木に 積る白雪 津々と

  下り来て 霧立ち込める 笹の尾根

雲が低くなったようでガスって来た。雪は収まって来る。16時前、水の木分岐を通過。気温0度。近道をして、深い残雪の斜面を駆け下りる。廃業したホテルの脇に降り立った時には雪は止んでいた。丁度御正体山から降りて来た団体がバスに乗り始める。他の車はもういない。結局、山中では誰にも遭わなかったので、ここに車を置いた人たちは皆、御正体へ登ったことになる。16時半、山伏峠を後にする。今回は春を探す旅だったのに、思わぬ降雪のお陰で変化に富んだ山旅となった。