鬼怒沼湿原と物見山(2117m)
 
日  時:2002年6月8日(土)〜9日(日)
【第1日】
行 程:1210女夫淵温泉−1220,1250絹姫橋―1410,1420八丁の湯手前―1425,1435八丁の湯―1500日光沢温泉(泊)

ルート断面図とルート図
 
奥鬼怒断面図 奥鬼怒ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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鬼怒川温泉駅から乗った栗山村営バスで女夫淵温泉に着いたのは12時。大きなホテルが数軒ある。マイカーはここから先に入れないので広い駐車場があるのだが、ほぼ満杯。10分程林道を歩き、絹姫橋という立派な吊り橋を渡って、下の河原に降りる。各自適当な岩に陣取って昼食。川床から見上げる渓谷沿いの山々はトチノキやサワグルミの新緑があふれ、目の前には水量豊かな黒沢の清流が岩を噛み、エゾハルゼミが盛んに鳴いていて、心を洗われるようだ。ここからは木々が鬱蒼と生い茂った「奥鬼怒自然研究路」となる。オオカメノキやマンサクが目に付く。ミズナラの巨木あり。ハウチワカエデに日が当たって輝く。ブナ、ウラジロモミ、ネズコ(別名クロベ)などと研究路らしく、あちこちの木に名札がある。枯れかけた花をつけたヤマツツジ、ミツバツツジ、きれいな羽状複葉のサワグルミなどの浅い緑が沢風に揺れ、目に染み入るようだ。しばらく行くと山崩れで登山道が通行止めになっており、鬼怒川沿いの工事用道路を歩かされる。対岸はがっちりとコンクリートで固めてあるが、ダムも人家も畑も全くない山の中で護岸工事をして何の意味があるのだろう?

 
絹姫橋の下 八丁の湯 日光沢温泉
 
コンクリートと鉄で固めた橋を渡る。カツラやトチノキの巨木がすごい迫力だ。道脇の水溜りがオタマジャクシで真っ黒になっている。八丁の湯に到着。鬼怒川沿いに建つ古い本館の周囲には立派なログハウスがいくつも増築されている。大きな橋をくぐると加仁湯である。とても秘湯とは言い難いコンクリート5階建てのホテル。鬼怒川右岸の護岸の上をたどる。日光沢温泉に到着したのは3時である。ここは古い木造2階建てで、湯治場の雰囲気を残しておりホッとさせられる。



【第2日】
行 程:500日光沢温泉−550,615オロオソロシの滝展望台―725,7301900m地点―800鬼怒沼湿原入口―850,900物見山―935鬼怒沼湿原入口―1000,10051900m地点―1102,1115オロオソロシの滝展望台―1155,1200日光沢温泉−1217,1235八丁の湯―1330,1335絹姫橋手前―1350女夫淵温泉

ルート断面図とルート図
 
奥鬼怒断面図
 
奥鬼怒ルート図
カシミール3Dにて作成しています


翌朝4時起床。昨日と違って気温は低く、半袖のTシャツでは少々寒い。5時出発。宿の上の道が崩れていて、仮設の鉄階段を登って行く。その上に小さな温泉神社あり。右に折れてすぐに筬音橋《おさおとばし》を渡る。橋を渡って鬼怒川の左岸沿いを進む。薄黄色の花が枯れかかったウコンウツギが列をなしている。ミズナラ、ダケカンバ、トチノキ、サワグルミ、ハウチワカエデ、オガラバナ、オオカメノキ等の若葉が瑞々しい。

「ドォーッ」という堰堤を落ちる水音がうるさくて野鳥のさえずりも聞こえない。傍らに「ノシ滝」の表示あり。右奥を見ると薄暗くてよく見えないが、高さ10m程のか細いチョロチョロの滝があった。大きな堰堤を越えると、丸沼へ通じる新しくて立派な吊り橋がある。鬼怒沼湿原への道はここから右に分かれて沢筋から離れ、アスナロの森の急登となる。風が強くなり木々が騒ぐ。丸太の階段が現れた。暗い森にアズマシャクナゲのピンクの花が映える。時折、雲の切れ目から陽が射し、鬱蒼としたアスナロの森に木漏れ日となってダケカンバなどの若葉が煌く。ここまで高度が上がるとオオカメノキの白い花が咲き残っている。6時前、オロオソロシの滝展望台に着いた。標高1700m位だろう。木のテーブルとベンチもある。谷向こうの根名草山の中腹に滝が落ちているが、遠過ぎて迫力はない。ゆっくりツツビーを繰り返すヤマガラ。ウグイスも競演。早いツツビーはシジュウカラだ。タチツボスミレの群落あり。

ナナカマドが多くなり、オオカメノキの花びらが大量に落ちている。岩混じりの急登となり、所々ロープが張ってある。濃い紅色のムラサキヤシオが一株咲いていた。小ベンチあり。窪地に残雪があった。斜度が落ちて延々と緩やかな登りが続く。黒く汚れた残雪と雪解けのぬかるみを交互に踏むようになる。湿原が近いことを思わせるが、歩きにくく結構疲れる。風に揺れるダケカンバの若葉に陽が当たって、キラキラと緑が踊っている。ウグイスのさえずりが森の中に木霊する。またアスナロの森となる。紅い若葉のオオカメノキに小さな花。

残雪の上を渡って来る風が冷たく、夏山のようだった昨日とは打って変わって早春の感じである。「鬼怒沼まで900m」の標識付近で2本目。ナナカマドの若葉も紅い。8時ようやく鬼怒沼湿原に出た。暗い森から突然前が一気に開け、見渡す限りの草原が広がる。沼や地塘が陽を浴びて輝き、誰もいない木道が彼方へまっすぐに伸びている。展望のないだらだら登りのあとだけに感動的な瞬間である。湿度も温度も低いせいか、空気が澄み切って秋のような感じで爽やかなことこの上ない。標高2000mを超える高層湿原らしく冷たい西寄りの風が吹き付けて飛ばされそう。木道を踏み外してしまう位だ。寒風が肌を突き刺す。この湿原は全体にかなり乾いている。6月初めとあって高山植物はまだ花を付けておらず、狐色の草原に華やかさはない。わずかにチングルマ、ショウジョウバカマ、コバイケイソウ、ヒメシャクナゲ等がまばらに点在し、風に震えている。

人の背より低いサワラが所々にこんもりとかたまって平らな湿原にアクセントを付けている。中にシラビソも混じる。振り向くと南に日光白根が山頂の両側に凹みのある特徴的な姿を見せている。中腹にはわずかに雪が残っている。20分程で湿原の北端に達し、左折して物見山へと向かう。ここからは100m位登るだけ。軽く行けると思ったが、人がほとんど入っていないらしく、倒木や藪、残雪とぬかるみで非常に歩きにくく結構時間が掛かる。何度か枯れ沢を横切る度に小さな登下降を繰り返す。右手前方に燧岳が見えるが頭は雲の中だ。会津駒方面は完全に隠れている。北面なのでここのダケカンバは芽吹いたばかり。相変わらず風は強く雲がどんどん飛んで行く。

 
残雪の登り 日光白根山
 
燧岳 物見山 女峰山
 
9時少し前に物見山到着。シラビソやコメツガの樹林に囲まれてほとんど展望が効かないが、樹の間からチラッと燧岳がのぞく。燧の下に尾瀬沼が見える。タカネザクラが花を残していた。再び湿原に戻る頃には空はすっかり晴れ渡り、燧も全貌を現した。見渡す限りの湿原は快晴の空の下で一段と清々しい。左手の避難小屋からの木道と合流。正面に日光白根、左には双耳峰の女峰山。湿原が終わり森を下り始めると、次々に登って来る人達とすれ違うのが大変。「鬼怒沼まで1.5km」の標識通過。やっと雪がなくなり歩き易くなった。ベンチあり。11時前なのに太陽が真上から照り付けて汗ばむ。

しかし、陽射しはきついが湿度は低く、木陰の道は涼しい風が吹き抜けて爽やかだ。崖の上に薄紫のシャクナゲ、紅いつぼみ。11時にオロオソロシ滝展望台に到着。日陰だった朝と違い、陽光の中で滝が良く見える。滝の上には残雪が光っている。高度が下がるに従って、サワグルミの葉が徐々に大きくなってきた。丸沼分岐の吊り橋と大堰堤を過ぎる。一面新緑が輝き、早春の山頂から一気に初夏になった。日光沢温泉に着いたのは12時前。護岸の上の道にはマタタビが半分白い葉を見せている。加仁湯の大きな建物を通過。ケショウヤナギに毛虫のような雄花がぶら下がっている。八丁の湯が見えてきた。女夫渕までもう一踏ん張りしなければならない。一息入れて出発。渓谷沿いの若葉あふれる森の道は、広くて歩きやすく風が爽やかに吹き抜ける。エゾハルゼミの大合唱。しばらくして工事中の林道と合流。再び山道に入り、少し登り返しがあって疲れた足には応える。絹姫橋からはほこりっぽい林道歩き。道沿いに楕円形の実をたくさん付けたヤシャブシが並んでいる。2時前に女夫渕到着。再び満員のバスで鬼怒川温泉へと向かう。

参  考:日光沢温泉 1泊2食 8000円/鬼怒川温泉−女夫渕 3870円(バス往復割引)