晩秋の御正体山
 
日 時:2001年11月10日(土)

ルート断面図とルート図
 
御正体山断面図 御正体山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

夜来の雨は明けても止まず、無情にも山伏峠に停めた車の屋根を打っている。予報では昼前には上るはずだが、これでは歩き出す気がしない。朝食の後、小降りになる迄しばらく待って小雨の中を歩き始める。5年半振りの御正体山である。前回は4月なのに雪が多く、思わぬ銀世界に興奮したことを覚えている。そもそもこの山は、崇神天皇のころ天照大神を祀った山だったという。「御祖代山」と呼ばれていたのが、なまって御正体山と呼ばれるようになったそうである。今でも交通不便なこの辺りは、古代にはさぞかし神々しい山だったのであろう。紅葉にはもう遅いと思っていたが、予想に反してハウチワカエデやヤマモミジ、ダンコウバイなどの紅葉・黄葉が目に鮮やかだ。特に驚かされたのは、渋い褐色というイメージだったカラマツが、曇り空だというのに眩いばかりの黄金色に輝いていることだ。道には落ちたばかりで形が崩れていない様々な紅葉・黄葉が、茶色い枯葉の上に点々と散り敷いている。「晴れていれば真っ白な富士山があの辺に見えるはずだよ」風はほとんどなく、雨に煙って展望は全く利かず、富士山はおろか隣の山も見えない。白い空から水滴がぱらぱらと落ちて来る。滑り易い急な尾根道をゆっくりたどり、少し汗ばんできた頃、やや平らな場所を見つけてザックをデポし、ここからは空身でピストンとする。

   唐松の 黄葉鮮やか 御正体

   冬雨に 隠れし富士を 仰ぎ見る

ようやく御正体から石割山へ続く稜線にたどり着くと、緩やかな斜面に感じの良いブナ林が広がった。しばらく立派なブナを見上げながら広くて歩き易い山道をたどると、樹林の中の小ピークに着いた。多分奥ノ岳だろう。展望はないし、天気が回復しないのでここから引き返すことにする。空身なので降りは早く、冷たい風が通り抜ける尾根を軽快に下るとあっという間にデポ地に到着。

   そぞろ寒 吹き上げる風 凛として

道の脇にテントを張る。こんな天気だし時間も遅いので、今日は誰も来ない筈だ。一時止んだ雨がまた降り出したが、小雨なので天幕に入ると全く気にならず別世界である。コンロを点けた途端、昔のホエーブスを思い出し、20数年前にタイムスリップしてしまった。おでんを温め、ベーコンやちくわ、もちなどを焼く。ワインで乾杯。食後休憩の後撤収。ブナの葉が随分小さい。イヌブナか?後で調べた所、東北や日本海側のブナは葉が大きく12cm位あり、オオバブナというそうだが、太平洋側や南のブナは5cm位、コハブナともいうそうである。以前図鑑で確認したことだが忘れていた。栗駒や尾瀬、吾妻、浅草岳、仙ノ倉、田代帝釈山、高原山などで見たブナは葉が大きかったと思うが、皆、東北や日本海側の山である。しかし、滝子山や今倉山、三頭山、鶏冠山等関東の山々のブナも大きかったような気がするが? 少し雲が切れ、右手奥の方に山中湖の湖面が光っている。峠に戻ると何と観光バスが駐車していた。運転手に聞くと20人程の団体が反対側から縦走してくるそうだ。山の中で出くわさなくて良かった。今回はあいにくの雨だったが、晩秋の渋い山を味わえた。