ヒカゲツツジの坪山(1103m)
 
日 時:2000年5月13日(土)
行 程:655阿寺沢−800,820 896m峰直下−830896m峰−935,945 1034m峰−1025,1130坪山−1215,1225 御嶽神社分岐下−1300,1510 東尾根−1535飯尾−1610阿寺沢

ルート断面図とルート図
 
坪山断面図 坪山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

木々の間からわずかにのぞく空は高層雲に覆われている。予報では曇りのち雨だが、何とかもって欲しい。やはり標高600mを超える山間なので朝は少し冷える。しかし、風はなくTシャツ一枚で十分だ。登山口の立派な道標の割には人が入っておらず、かすかな踏み跡程度の道である。薄暗い杉の植林の中、いきなりの急登。右方向に不明瞭な踏み跡があり、それをたどると間もなく左にカーブして登山口の真上に出た。すぐに道標があり、本来のルートと合流した。目の下にはガイドブックにあった一軒家が見える。ともかく、ここからは尾根筋の歩き易い道だ。ホオノキ、コナラ、ミズナラ、ダンコウバイなどの明るい緑の中にヤマブキの黄色い花とヤマツツジのオレンジが鮮やかに映える。左手がやや開けると、南面の稜線の奥に権現山が頭を出している。スギ、ヒノキ、モミ、アカマツなどの植林にイヌシデ、リョウブ、アセビ、ウダイカンバ、ウリカエデ、イロハモミジ、ホオノキ、コナラ等の広葉樹が混じる。

この山にはアセビが多い。直径1m位の巨木が現れた。樹皮がトチノキのように鱗片状に剥がれたモミである。隣の木と重なって上の方はよく見えないが、30m位はあろうか。下から見上げると、無数の枝が放射状に突き出ているのが異様だ。展望はほとんどないが、一面の新緑の中にヤマツツジが1本、きれいな花を付けている。奇数羽状複葉のサンショウを見つけた。葉に顔を近づけるといい香りがする。コナラの葉は、大きく丸い鋸歯があってミズナラに似ているが、葉柄の有無が同定のポイント。コナラには1cm位の葉柄があり、ミズナラには全くない。また、ダンコウバイの葉は全縁(鋸歯がない)で3裂のユニークな形なので一目で分る。但し、裂がない葉もある。程なく稜線上のコブのような896m峰を通過。左手の権現山は先程より大部低くなっている。

アセビの群落や花が終わったミツバツツジそれにリョウブ、ウリハダカエデ、ヒノキ、ツガ、ミズナラ、シャラ、コハウチワカエデなどが目に付く尾根道を、急な登降を繰り返しながらたどる。945m峰と思われるピークを過ぎると、藪山らしくなって来た。但し、登山道はかなり刈払いされている。トウゴクミツバツツジの濃いピンク色の花が目立つ。下草がクマザサに変わり、1034m峰に着いた。直進する踏み跡もあるが、坪山のピークは大きく右に曲った稜線の先に見えている。ガスっていたら迷うかもしれない場所だ。小さな傘のように葉が下を向いたコハウチワカエデがある。シロヤシオも白い蝶が乱舞するように華麗に咲いている。盛りを過ぎてややしおれてはいるが、透き通るような淡黄色のツツジがぽつんと一輪。これが坪山名物ヒカゲツツジか?念の為、図鑑で葉と花を確認する。ツツジの種類は多いが黄色い花を咲かせるのはこれだけなので間違いない。周りを見ると同じ葉を付けた小木があちこちにあるが、花は皆枯れしぼんでいる。1週間程来るのが遅かったようだ。清楚な花だが、群落の満開時は見事だろう。

大きく下ってから何度か登降を繰り返すと、ピーク手前の急なガレ場に差し掛かる。尾根の左側がスパッとはるか下の方まで切れ落ちていて吸い込まれそうだが、明るい黄緑から深い緑まで、実に様々な緑色が重なって見事だ。急斜面をリョウブに掴まって登り切ると一気に視界が広がった。坪山のピークである。これまでたどってきた展望のない稜線と違って、山頂だけは360度の大展望が楽しめるはずだったが、空は雲に埋め尽くされ、北面の三頭山や笹尾根にも雲が掛かっている。東の陣馬山、生藤山などは厚い雲の中だ。雨が降っていないのがせめてもの救いか。

狭い頂上もアセビに囲まれている。「坪山」の小さな手彫り山名表示板もアセビに引っ掛けてあった。こんな看板は初めてだが、センスがいい。飯尾の方から中年女性二人組が登って来た。今日は誰も来ないと思い込んでいたし、逆方向から登る人がいるとは考えなかったので一寸驚く。話を聞くとここのヒカゲツツジはかなり有名で、先月末にはバスが3台出たとか。とうとう降り出したが、頭上の雲はそんなに厚くないので傘はいらない。岩混じりのやせ尾根を歩き始めるとすぐに樹林帯となり、急斜面をどんどん下る。相変わらずアセビが多いが、北斜面だけあってヒカゲツツジやトウゴクミツバツツジの花がかなり残っており、目を楽しませてくれる。御嶽神社分岐を右に折れる。ヤマガラがツツビー、ツツビーと鳴いている。ここから飯尾はすぐだった。ヒカゲツツジが印象に残る静かな山旅だった。