紅葉の浅草岳(1585m)
 

日  時:2000年10月28〜29日
行  程:640五味沢登山口−740,800白崩沢林道−830,835 812m峰−920,930桜ゾネの下−1020,1030 1200m付近−1115,1125 嘉平与ボッチ−1200,1240 浅草岳−1340,1350桜ゾネの上−1445,1500 812m峰−1540,1545 徒渉点−1555,1610 五味沢登山口―1710守門登山口

ルート断面図とルート図
 
浅草岳断面図
 
浅草岳ルート図
カシミール3Dにて作成しています

予定の6時半を少し過ぎて五味沢の浅草岳登山口を出発。10月下旬ともなると朝はかなり冷えるので、冬用の山シャツとニッカーで丁度良い。しかし、まだ霜は降りていない。ムジナ沢右岸沿いの緩やかな道はすぐ左に折れて沢から離れて登って行く。この辺りは我が国有数の豪雪地帯だけあって、ブナも杉も根元が大きく湾曲しており、道も湿原のようにぬかるんで歩きづらい。余り人は入っていないようだ。小さな沢を何度か徒渉。リョウブ、トチノキ、ホオノキ、ハウチワカエデ、オオモミジ、ヤマモミジ、オオバクロモジ、シラカバなどの黄や赤に色付いた葉が木漏れ日に照り映えている。山裾を巻く道はどこまでもなだらかだ。

「白崩沢登山口へ」との指導標がある林道のような場所に出たので1本立て、朝食にする。北側が開けて黒姫(1367m)が見える。その左にあるはずの守門(1537m)は手前の山に隠されている。少し下ってヤジマナ沢を渡る。シラカバの葉は薄く透き通るような黄色、オオカメノキは濃い黄色、ミズナラやマンサクはその中間。息を呑むほど見事な真紅の葉を付けた潅木があった。表面がビロードのように光って見える。葉が重なって日陰になった部分は鮮やかな黄色だ。ニシキギと思われるが断定はできない。ようやく斜度がきつくなってミズナラやシロヤシオ等の間を抜けると程も無く稜線に出て展望が広がった。北の空を振り向くとギザギザのピークの守門岳が1500mクラスとは思えないほど堂々とした姿で屹立している。まだ日が当っていないので目を見張る程ではないが、尾根の両側の斜面は様々な色の紅葉・黄葉が素晴らしい。すぐに812m峰到着。晴れた空に羊雲がどんどん広がって来る。

   羊雲 広がる空に 守門岳

見頃を過ぎて赤茶色になったナナカマドと緑のゴヨウマツがきれいなコントラストを織り成している。イタヤカエデ、細長いウリカエデなども黄葉の盛りだ。ひげの着いた丸いブナの実が落ちている。林道と合流するはずなのでそろそろかなと思っていると、上の方から車や人の気配がする。突然林が切れて広場に飛び出したと思ったら、林道に作られた桜ゾネの駐車場だった。20台以上ぎっしり並んでいる。折角人気の無い静かな山の雰囲気を楽しんでいたのに、いきなり喧騒の山に変わってしまった。まさか浅草岳が紅葉見物の観光地になっていようとは。

ここまで車で入れば2時間余りで山頂に立ててしまう。奥只見の秘境の山をピクニックの山にしてしまったつけは大きいと思うが。「浅草の鐘」まで置いてあって皆カンカン鳴らしている。「レストハウス」みたいなものがないのがせめてもの救いか。26年前の10月下旬に大白川から延々と歩いて登った時この尾根を下ったが、その時の紅葉の見事さは忘れられない。こんな高さまで車で簡単に来たのではあの感動は得られないし、ここまで大量の排気ガスが上がって来ては、森も壊されて結局観光資源自体が無くなる事を誰も考えないのだろうか。せめてマイカー乗入れは禁止すべきだ。このままではまた一つ名山がつぶされてしまう。木が枯れ始めてからでは遅い。

道自体は良く踏まれていて歩き易いが、他の人は皆歩き始めたばかりだから元気一杯で、高齢者にもどんどん追い越されて気分が悪い。桜ゾネから上は紅葉の盛りは過ぎてしまって葉を落した木が多い。その替り、落ちたばかりの色鮮やかな落葉が豪勢な絨毯になっている。森林限界を抜けて小さな岩峰をいくつか越えると嘉平与ボッチに着いた。曇ってはいるが、360度の大展望が広がる。北面にはさっきまで見上げていた守門がほぼ同じ背丈になっており、東側は目の前に浅草岳のピークが迫り、点々と人の列が続いている。

南には越後三山が見える。八海山は陰になるので駒ヶ岳と中ノ岳しか見えない。その左の双耳峰は燧岳。燧の右には平ヶ岳の平らな頂稜が。他は霞んでいて同定は出来ない。一旦下ってから前岳に向かって気持の良いカヤトの原をゆっくりと登って行くと、湿原状になり壊れかけて傾いた木道があった。傾いている上に濡れているので滑りやすい。前岳とピークの間の凹部は一面のカヤトの原だが、そこには100人ぐらいの人々が弁当を広げていて、どこかの公園の花見のような雰囲気だ。狭いピークも中高年の団体に占領されているので我々は裏側へ回り、田子倉湖が眼下に見える絶好のポイントを見つけて陣取る。風もなく10月終わりの1600m近い山の上とは思えない程暖かい。

早目に昼食を切り上げ、下山開始。相変わらずゾロゾロと登って来る人達とすれ違いながら、滑りやすい木の根と岩の尾根を快調に下る。「浅草の鐘」の上で1本取る。目の前には紅葉したハウチワカエデが鮮やかだ。葉を落したナナカマドも紅い実を沢山付けている。駐車場をさっさと通り抜けるとまた静かな山に戻った。直径1m20cm位はあろうかというミズナラの巨木を見つけた。高さは15m位か。桜ゾネから上では人が気になってほとんど木が目に入らなかったが、やはりじっくり木々を観察するには静かな環境が望ましい。この山にはブナとマンサクが非常に多い。道沿いの大きなブナの樹皮にはナイフで名前を刻んだ古い傷が沢山付いている。何でこんな傷を付けるのか全く理解出来ない。正面に守門が良く見える812m峰まで下りて来ると、今朝よりも両サイドのヤジマナ沢やヤスノ沢の紅葉が鮮やかだ。これで晴れていたら素晴らしいだろう。この山ではこの辺りの紅葉が一番見応えがあるのではなかろうか。所々ぬかるむ道をどんどん下り、登山口にデポした車にたどり着いたのは4時前だった。