晩秋の坪山(1103m)
 
日 時:1999年11月6日(土)
天 気:晴れ時々曇り。無風。気温高し。
行 程:845 上野原―915,925阿寺沢−950,1000東尾根−1025,1035 896m峰−1130,1135 1034m峰−1210,1400坪山−1445,1455 北東尾根−1517,1630 飯尾―1730上野原
ルート断面図とルート図
坪山断面図 坪山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

今日は初参加のMさんが加わっている。学生時代に山岳部を創設されたとかで山歴は長い。上野原から乗ったタクシーの中で山談義が大いに盛上がり、あっという間に登山口の阿寺沢に着いてしまった。11月というのに全然寒くない。Tシャツ1枚で歩くことにする。腰を痛めているHさんがダブルストックで先頭に立つ。杉の植林帯の登り口に薄紫のノコンギク(野に咲く紺菊だそうである)が咲いている。いきなりの急登だが「坪山登山口」と書いた新しくて立派な道標があったにしてはどうも様子がおかしい。いくら人が少ない山とはいえ、全然踏み跡がないのだ。

二万五千図にもエリアマップにも道が載っていない藪山なので、ルートファインディングに苦労するとは思っていたが、それにしても一寸変だ。Hさんと先頭を替り、急斜面にルートを探すが全く判らず、がむしゃらに直上するしかない。フワフワの腐葉土に靴が沈むのでステップを切る。しばらくして何とか踏み跡を見つけた。左に進むとすぐ道標があり、本来のルートと合流した。すぐ下にはガイドブックにあった一軒家らしい建物が見える。(ガイドブックによれば一軒家の脇が本来の登山口なのだが、そこの人は登山客を迷惑がっているらしいと書いてあった)

ともかく最初の10分程でえらく消耗してしまった。気を取り直し、再びHさんを先頭に歩き始める。足元にフデリンドウの青い花が点々と続いている。左手がやや開けた日の当る場所で早目の一本を立てる。南面の谷向こうの稜線の奥に権現山が頭だけ出している。暗くて単調な杉の植林にミズナラやコナラが混じり出し、斜度が落ちて来た。一気に木の種類が増える。モミ(若木の葉は先端が針のように鋭く2裂しているので判りやすい)イヌシデ、アカマツ、ウダイカンバ、ホオノキ、ダンコウバイ(葉が浅く3裂し、透き通るように黄葉する)ヤマモミジ、リョウブ、コハウチワカエデなどにぎやかだ。しかし、ほとんど紅葉しておらず、色付かないまま枯れてしまった木も多い。

正面に直径1m以上の巨木が現れた。最初、樹皮の感じでトチノキと思ったが、上の方を良く見ると針葉樹だ。どうやらモミのようである。(モミの樹皮も大木になるとトチノキ同様、鱗片状に剥がれる)根回り4m以上、隣の木と重なって上の方は見えないが、高さ30m位はありそうだ。展望がほとんどない樹林をたどるうち、稜線上のコブのような小さなピークに着いた。896m峰だ。左手に見える権現山は先程より大部低くなった。急な登降を繰り返し、945m峰と思われるピークを通過すると藪がきつくなる。最近伐採したばかりのようだが、切ったまま放置してあるのでかえって道を塞いで歩きにくいことおびただしい。Mさんと二人で片っ端から拾い上げて両脇へ放り投げながら進む。下草がクマザサに変わり、1034m峰にかかる頃には黄や赤に色付いたリョウブやクロモジ(香りが良いので樹皮を残したまま爪楊枝にする低木。鮮やかに黄葉する)コハウチワカエデが増えてきた。それにしてもリョウブとダンコウバイがやけに多い山だ。突然、先頭のHさんが「わあっ」と大声で叫んだ。大谷ヶ丸の時と同様、人が少ない山なので登山道にクモの巣が張っているのだ。藪のせいで道を見失い2度ほど稜線を外れたが、すぐK氏がルートを見つけてくれた。

ガイドブックに大袈裟に書いてあった急なガレ場がやっと出てきた。確かに尾根の左側がスパッと切れ落ちていて、一部分は断崖絶壁になっている。しかし、足が竦むほどではない。崖下の斜面には絢爛豪華とは言えないが、紅葉した木々が広がってなかなかきれいだ。先程からシャクナゲに似た潅木がびっしり生えていて気になる。(当時はアセビを知らなかった)最後の急斜面をリョウブに掴まって登り切るとドーンと展望が開け、坪山のピークに到着。ここまでの道は樹林に遮られてほとんど展望はなかったが、山頂だけは伐採されていて360度の大展望が楽しめる。特に北側の笹尾根に続く三頭山が周囲を威圧するように大きくそびえている。東の奥には陣馬高原がやや霞んでいる。

定番となったK氏持参のビールで乾杯。暑いので冷えたビールは最高だ。何とMさんまで「実は私も」とビールを取出した。快晴ではないが、雲間から差す陽射しは柔らかく風も全く無い。湿度が低く、本当にさわやかだ。まさに「小春日和」そのもののポカポカ陽気だが、今年みたいにずーっと暖かいとこの言葉が何だかピッタリこない。下山後のバスの時刻から逆算して2時に出発と決め、すっかり腰を落ち着ける。何時の間にか寝てしまったようだ。2時間近い大休止を終え、腰を上げる。フワフワ気分のまま、いきなり岩混じりのやせ尾根の急降下が始まった。

すぐ、樹林帯に入り、木に掴まりながらどんどん下る。大きなシラカバが1本あり。その真っ白な幹に重なるように真っ赤に色付いたコハウチワカエデの梢が、青空をバックに鮮やかなコントラストを描いている。トウゴクミツバツツジ、コメツガ、イヌシデ、ミズナラ、コナラ、ウリハダカエデなどを確かめながら尾根通しに下る。心配した藪も大した事はなく、坪山から1時間強で飯尾に降り立つ。バスの発車まで1時間以上あるので、車道を少し下って蕎麦屋を見つけ、再びビールで無事下山を祝った。

追記:今回は地図にルート表示のない山なのでかなりの藪こきを覚悟したが、伐採されていて思ったほどひどくはなかった。しかし、道標はほとんどなく迷い易い所は随所にあるので、ルートファインディングの楽しさも味わえ、急な登降もたっぷりあって、小さな山の割に充実した秋の一日を満喫出来た。当然のことながら道中誰にも遇わず。紅葉は少しだけだったが、この標高では多くを望むのは酷と言うものだろう。ヒカゲツツジが黄色い花を咲かせる時期に再訪してみたい。

参  考:ホリデーパス         2040円
     タクシー(上野原−阿寺沢)  6200円
     バス(飯尾−上野原)      900円