大展望の岩手山(2038m)
 
日  時:2009年8月1日(土)
天  気:くもりのち晴れ
行  程:18日 村田IC−西根IC−焼走登山口570m(車中泊)
     19日 525焼走登山口〜622,6381本目910m地点〜705第2噴出口跡〜805ツルハシ分れ〜814,8212本目〜910平笠不動避難小屋〜1000,1026薬師岳〜1026,1103 お釜巡り〜1130,1150避難小屋〜1226ツルハシ分れ〜1242,12511200m地点〜1408焼走登山口−1510焼走の湯−西根IC−1745白石IC

累積標高差:約1560m
歩行距離:約15km
コースタイム:8時間30分
実歩行時間:7時間25分

ルート断面図とルート図
岩手山断面図 岩手山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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今回は先々週の早池峰に引続き岩手県の名峰である岩手山への初見参である。南部富士とも呼ばれるこの山はコニーデ式火山であり円錐形の堂々たる独立峰だ。従って四方から登山路が開かれているが、溶岩流を見たいこともあって東からの焼走ルートを選んだ。登山口の標高は570mであり山頂まで往復15km、約1500mの登りなので日帰りは厳しいが荷は軽いので早立ちすれば何とかなるだろう。

昨日終業後、会社近くで夕食を済ませて村田ICから東北道を220km走り、西根IC近くの焼走登山口に到着。「岩手山焼走り国際交流村」の一角に登山者用の大きな駐車場があった。トイレもある広い駐車場には数台停まっているのみ。寝酒を少し飲んですぐに寝る。

5時25分、既に明るくなった駐車場を後にする。今は朝靄に煙っているが晴れていれば正面に岩手山が見えるはずだ。登山口で登山者カードに記入してカラマツ林の平坦な道を歩き始める。静かなスタートだが長丁場なので気合を入れて歩かねば。登山道のすぐ左には焼走溶岩流の跡が広がっているはずだが、5m程の段差があり道からは見えない。

ミズナラ、ホオノキ、ウリカエデ、ノリウツギ、ヤマモミジなどの森を一直線に抜ける道は徐々に斜度を増して来た。木の根が露出して段差も大きい。足元にはクルマユリがオレンジの花を咲かせている。気温は17度、風がないので額に汗がにじむ。標高900mを越えた辺りで朝食とする。


岩手山 岩手山 岩手山 岩手山
 
高校生と思しき若者グループに続いて一眼レフを首から提げた単独の人がハイピッチで抜いて行った。まだ先は長いのに大丈夫かな。周囲には関東近辺なら1500m位から現れるダケカンバが早くも登場して緯度の高さを実感する。オオカメノキやハクサンシャクナゲなども混じっている。

7時過ぎ、第2噴出口跡を通過。「山頂まで3.6km」とある。やがて道はヤマハハコやオオカサモチの咲くジグザグのザレとなった。しばらく進むと右手が開けて気持ちの良い青空が広がった。森林限界を抜けたようだ。 展望台のようなザレ場に先程の単独者が三脚を立ててカメラを構えている。下界には雲海が広がっており右手彼方に先日訪れた早池峰が頭を出していた。

「あの左手の山並みは八幡平ですかね」

と聞かれた。もっと左のような気がするがはっきり判らない。(後で地図を確認したらどうやら姫神山らしい) この辺りから道は山腹を右から巻くように付けられている。巻き道とはいえ細かいガレ場の急登である。展望抜群の道の両側には見渡す限りコマクサのお花畑が続いて見事だ。 やや盛りを過ぎたとはいえこれだけの大群落は初めて目にする。

他にもタカネニガナ、ヤマハハコ、ミヤマシシウドなどが途切れることなく咲き乱れており疲れも吹き飛ぶ。時折り岩手山の山頂が見えるようになったがまだ遥か上だ。 背の低いダケカンバの林に入り、ハイマツ、ナナカマド、オガラバナなどを縫ってやや下るとツルハシ別れに着いたが、狭いスペースは先客で一杯なので少し先で2本目を立てる。高度計は1480mを指している。道は木の根登りの急登となった。

「山頂まで1.4km」の道標付近でかなりの年輩者に抜かれたが、競歩のようなスピードであっという間に消えてしまった。 小さなナップザックだけという軽装とはいえ元気な人がいるもんだ。当方もかなり快調に飛ばしているのだが、地元の人にはかなわない。ダケカンバの巨木が点在している道にはマルバイワシモツケ、ヨツバシオガマ、オトギリソウなど相変わらず花が途切れない。

ようやく斜度が緩み「平笠不動前」という道標を過ぎて間もなく山小屋の屋根が見えた。平笠不動避難小屋である。小屋の横が広場になっておりそこに立つと均整の取れた岩手山の山頂部分が高々と聳えており、高度差300mを一気に登るのかと思うと圧倒されてしまう。

視界は良好だが、空はすっかり曇って日が差さないので助かる。背丈ほどのシラビソ、ハイマツ、ダケカンバを縫ってゆっくり歩き出す。ホシガラスが汚い声で鳴いている。ハクサンシャジン、ヨツバシオガマ、ミヤマリンドウ、ミヤマハンショウヅルなどが咲く埃っぽい急なガレ場を行くと、さっきの年輩者がもう降りて来た。

「早いですね」 声を掛けると

「午後は仕事なので昼までに降りないといけないんですよ」

苦笑いしながら軽快に下っていったのであっけに取られる。近所の裏山ならいざ知らず、日帰りも厳しいという標高差1500mの名峰を午前中に往復するとは超人的だ。しかも60歳はとうに越えている感じなので尚更である。驚くと同時にこんな素晴らしい山の麓に暮らしていることに羨ましさを覚える。多分毎週のように通っているのだろう。

岩手山 岩手山 岩手山
 
岩だらけのガレの急登が続き、10時少し前にお鉢の一角に到着。右手下からは馬返しや松川コースから来た人が蟻の行列のように登って来る。山頂の薬師岳は左手すぐ目の前だ。10時丁度、待望の山頂に立つ。平坦で広い山頂には大勢の登山者が休んでおり、朝抜かれた高校生の一団も賑やかに談笑している。

到着を待ってくれていたかのように上空の雲が切れてみるみる青空が広がって行く。あっという間に360度の大展望が展開した。やや霞んでいるが東に早池峰、北に八幡平、南西には秋田駒が望める。気温は13度。北風が冷たく爽やかだ。「お鉢」と呼ばれる火口壁の最高点が岩手山頂薬師岳なのだが、大きな火口の中央には火口丘があり妙高岳と呼ばれている。

岩手山
 
この妙高岳はお椀を伏せたような形をしており、ピークには小さな突起があるので女性の乳房と乳首のように見える。火口壁の対岸はかなり遠く見えるが、1周1時間でお鉢巡りが出来るそうなので時計回りで回ってみた。大きく下って行くとお鉢の底には岩手山神社奥宮が鎮座している。

岩手山
 
東南方向の馬返し付近には広い駐車場と大きなホテルのような建物が見える。お鉢の西側にはレリーフの石仏が10mおき位に建てられており、眼下には不動平避難小屋とそれに続く松川コースの登山道がはっきり見える。並んだ石仏を数えながら登り返すと焼走への下り口に帰着。山頂から30分強だった。

 
岩手山 岩手山 岩手山
 
花々の写真を撮りながら平笠不動小屋まで下り、小屋前の広場で昼食とする。見上げると、快晴の空にドーンと岩手山の威容が迫って来る。気温は20度まで上がり風はなく日差しもきついのでこれから登る人は大変だ。

次々にすれ違う登山者には若い人も多いが、皆汗まみれで青息吐息である。炎天下で最後の登りは厳しいだろう。登りでは気付かなかったが赤とんぼが纏わり付いて来る。ツルハシ分れを通過し、お花畑の急なガレ道で恐る恐る一歩ずつ下る中高年グループの脇を半身になって軽快に駆け下りる。

樹林帯手前の展望台で一休みしてグレープフルーツにかぶりつく。ザレ場を下りながら時々右の斜面を掻き分けて溶岩帯を覗いてみるが、余りの溶岩の多さに噴火のすさまじさを感じる。丸太の階段や木の根下りで段差も大きくなり足も大分くたびれて来た。第2噴出口から1時間ほどでようやく駐車場に帰着。 公園のように整備された遊歩道から改めて溶岩流をじっくり眺める。岩手山にはわずかに雲が掛かっていた。

予報に反して好天となり360度の雄大な展望と多彩な高山植物に恵まれ、爽やかな夏山を満喫。山頂火口のお鉢巡りも楽しかった。岩手県随一の名峰は四囲を圧する豪快で実に立派な山だった。大拍手を贈りたい。