姫小百合乱舞する大朝日岳(1870m)
 
日  時:2009年7月5日(日)
天  気:くもり時々晴れ
行  程:400白石−550,610古寺登山口650m〜710,714一本目1030m地点〜735一服清水〜742ハナヌキ分岐〜811三沢清水〜840,852古寺山1501m〜920小朝日分岐〜936稜線合流点〜1057大朝日小屋〜1110,1148大朝日岳〜1252小朝日分岐〜1315,1330小朝日岳〜1335巻き道合流〜1351古寺山〜1407三沢清水〜1430,1433一服清水〜1537登山口
累積標高差:約1600m
歩行距離:約16.5km
コースタイム:9時間30分
実歩行時間:8時間15分

朝日岳
ルート断面図とルート図
大朝日岳断面図 大朝日岳ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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まだ薄暗い白石を発ち山形自動車道月山ICから県道27号を南下。地蔵峠、古寺林道を経て6時前に古寺登山口に到着。30台置ける駐車場はほぼ満杯だが、身支度をしている登山者は一人だけ。風は無くくもり。標高は650mだが気温は16度もある。 これから登る朝日岳は36年前ニコン山の会夏山合宿で以東岳からの縦走組とガンガラ沢経由の沢組に分れ、大朝日岳山頂で集中しようとした懐かしい山である。実際は大雨直後の増水のため沢は遡行不可能で、朝日鉱泉から入山した我々沢組はガンガラ沢出合から引き返した。大朝日に着いた縦走組はいつまで待っても来ない沢組に向かって空しい無線連絡を繰り返したらしい。

この朝日連峰は山が深く日帰りは無理と思っていたが、調べてみると古寺鉱泉から大朝日岳ピストンのコースタイム9時間半であり、頑張れば日帰り可能だ。休憩を1時間と見て16時半には下山出来る。とにかく往復16km、1600mの登りなので十分にストレッチをして筋肉に気合を込めていると、支度を終えた年配の男性が先に歩き始めた6時10分、大きな案内板のある駐車場を出発。古寺川の右岸沿いに数分進むと向こう岸に古寺鉱泉が現れた。2階の食堂では大勢の登山客が朝食の最中だ。ここを直進すると鳥原山へ向かう。木の橋を渡って宿の左手から左岸を少し進むと、道は右に折れて沢から離れ急登となる。 ブナ林の中、数回ジグザグを繰り返すと尾根道に出て傾斜も緩くなる。ここまで来ると沢音も遠い。樹の間から朝日がこぼれる。ブナやマツの巨木が立ち並ぶ尾根道は斜度が増して背中には早くも大汗。リョウブ、オオカメノキ、オガラバナ、ハウチワカエデなど見慣れた木々の緑が目に沁みる。


朝日岳 朝日岳 朝日岳 朝日岳
 
いつの間にか沢音は消えた。標高800mを越えた辺りで左が開け、谷向こうの鳥原山方面の稜線が見えた。尚も続く尾根の急登を辿ると「合体の樹 ブナ・ヒメコマツ」という表示が目に入った。見上げると2本の巨木が抱き合うようにピッタリくっ付いて立っている。 「ヒメコマツ」とは初めて知ったが名前の可愛らしさに似合わず図体がでかいのに驚く。ブヨはいないがハエがうるさく付き纏う。道の窪みで小さなネズミが目を皿のように見開いてこっちを怖そうに見ている。カメラを構えてそっと近付いたら道脇の樹の穴へ逃げ込んでしまった。

7時過ぎ、休んでいた単独の人に追い着いたので、当方も少し下で一本立てる。高度計は1030mを指しており、1時間で400m稼いだからまあまあのペースだ。気温は17度。その年輩者は大きなザックを背負って立ったまま休んでいる。相当山慣れしている感じだ。 こちらは空身に近いのに、大荷物を担いでほぼ同じペースだからすごい。地元の人で長年登っているのだろう。彼はすぐに行ってしまった。再び歩き始めると間もなく傾斜が落ちた。道は整備されてほとんど段差も無く歩き易いが、湿っていて所々ぬかるんでいる。 歩き始めて1時間半になるのに、ここまで花が全く見られないので一寸期待外れだ。7時半過ぎ、一服清水に到着すると

「どうしようかなー」

水を補給していた先程の年輩者がひとり言を云っている。

「どうしたんですか?」
「いやー、この天気が明日まで持つかなと思ってね。小屋に泊まるかどうか思案しているんですよ」

まだ朝早いのだから上に着いてから考えればいいのにと思ったが、口には出さず先に行かせてもらう。少し下って行くと左上に鳥原山が見え出した。しおれたタニウツギが登場。本日初めての花である。すぐにハナヌキ峰への分岐を過ぎ、なおも下る。小広い平坦地があったが木々に囲まれて展望は無い。 ここからまた急登となる。ようやく雲が切れて少しだけ青空が覗き気分も高揚する。大きな蜂がすぐ目の前を威嚇するような羽音を上げて横切った。スズメバチかもしれないと肝を冷やしたが、目を合わさぬようにして直進する。延々と続く急登に汗が噴出す。 8時過ぎ、2人パーティーが降りて来た。山頂小屋に泊まったのだろう。タムシバやオオカメノキの花が枯れ落ちている足許にマイヅルソウがちらほら咲いている。三沢清水に着く頃にはぬかるんだ急登の連続で少し足が重くなったが、展望が素晴らしいという古寺山がもうすぐなので歩を進める。

高度1400m辺りで森林限界を抜け一気に展望が広がった。と同時に、イワカガミ、マイヅルソウ、ツマトリソウ、ウラジロヨウラク、ミツバオウレン、シラネアオイ、ムラサキヤシオ、ハクサンチドリなど顔なじみの花々が次々に登場して疲れも吹き飛ぶ。


朝日岳 朝日岳 朝日岳 朝日岳
 
その先に見慣れない大きなピンクのユリがたくさん咲いており、そこが古寺山(1501m)の山頂だった。ヒメサユリというこの花は図鑑に拠れば山形・福島・新潟の3県のみに生育するそうだ。狭いが展望の良い山頂では学生風の若い5人パーティーが休んでいる。目の前に小朝日岳が大きく聳えているが大朝日は雲の中だ。 しばらくすると高齢の人が小朝日の方から登って来たが、若者たちが

「お世話になりました」

などと声を掛けている。どうやら山頂の避難小屋の管理人らしい。その後やって来た例の年輩者も、出会うなり親しげに名前を呼び合って何やら話し込んでいる。メジャーな百名山にしては観光地化されておらず“おらが山“という感じでいい雰囲気である。先月の磐梯山とはえらい違いだ。 ヒメサユリが立ち並ぶ稜線を少し下ると雪田を横切る。さらに大きく下り鞍部に達すると小朝日岳への登りとなる。ホトトギスの甲高い囀りが稜線を吹き渡る風に乗ってよく響く。この辺りから下って来る人も多くなる。小朝日岳直下の急斜面には雪がたっぷり残って大きな雪田になっていた。

その下には「大朝日岳3.5km」の標柱がある。まだまだ先だ。小朝日に今登っても展望は得られないので、雪田の途中から右に折れて巻き道へ入る。この道への入口は雪に隠されて一寸判りづらい。下り気味に巻いている道に谷から吹き上げる風が爽やかだ。 9時半過ぎに小朝日岳〜大朝日岳の稜線に合流したが、なおも岩場の急な下りが続く。大きくて派手なヒメサユリがこれでもかとばかりに道の両側に咲き誇り、ニッコウキスゲやタニウツギ、サラサドウダン、アカモノ、ウラジロヨウラク、ゴゼンタチバナ、ウコンウツギ、タカネニガナなどの花々を圧倒している。

9時45分、鞍部に達すると緩やかな登りに変わって気持ちの良い稜線歩きとなった。大朝日岳始め西朝日など並み居る連峰のピークは依然として雲の中だが、稜線の右手には谷筋に雪を残した連峰の山々が見渡す限り重畳と連なっている。左の谷はガンガラ沢の源頭だ。 山頂直下は45度を超える急斜面の草付きとなっており、36年前の合宿で増水が無く遡行出来てもあの斜面を登り切れただろうか。途切れないヒメサユリを縫って進むとやがて銀玉水を過ぎて石畳の登りとなる。右の広大な斜面は雪に覆われている。道は急な雪田を直登しておりスプーンカットの雪面をゆっくり登って行く。


朝日岳 朝日岳 朝日岳 朝日岳
 
先行パーティーの中には軽アイゼンを着けた人もいる。雪田を登り切るとハイマツ帯の緩やかな登りとなり、枯れて実となったチングルマやマルバイワシモツケ、ミヤマウスユキソウ、ハクサンシャクナゲなどがそこかしこの岩陰に姿を見せている。山頂が近付くに連れガスが濃くなって視界が悪くなる。

「大朝日神社奥宮」と彫った石柱を過ぎ、11時前、前方に避難小屋が見えた。古寺山から2時間歩き続けているが急登でもないのでそのまま進む。ガスに包まれた2階建ての大朝日岳避難小屋に到着。小屋の前に小さな祠がある。山頂への道が良く判らずとまどったが、小屋の右手に回ると明瞭な道があった。 ガスの中をゆっくり辿り、小屋から10分強で1870mの大朝日の絶頂に立つ。11時10分、登山口から丁度5時間だった。平坦な山頂に人影は少なく2組10人程が休んでいるのみ。先行した年輩者の姿はなく西朝日岳方面へ向かったのだろうか。空はすっかり雲に覆われている。

予定より早く着いたので靴も靴下も脱ぎ、リラックスして稲荷寿司を頬張る。この山頂からは朝日連峰はもちろん月山、飯豊山、蔵王山、鳥海山など360度の大展望が得られるはずだが、今は時折りガスが切れて小朝日岳や中ツル尾根が見える程度だ。それでも雨にも遭わず念願のピークに立てて幸せである眼下に切れ落ちたガンガラ沢を見下ろしながら、感慨に耽る。ゆっくり休んで12時前に山頂を辞す。30分で銀玉水通過。さらに30分程で小朝日岳への分岐に達し、岩場の急斜面に取り付く。カンカン照りの中、胸を突く急登が続くので疲れた足には厳しい。 何度か小ピークに騙されながら11時15分、ようやく小朝日岳(1647m)の山頂に着いた。

大朝日から1時間半近く掛かっている。苦労した甲斐あって大朝日や中岳などの素晴らしい眺望を満喫する。ウグイスが囀り、そよ風が爽やかだ。気温は18度。。


朝日岳 朝日岳
 
ゆっくり休んで足も回復したので軽やかに下る。小さな雪田を下ってあっという間にトラバース道と合流し、14時少し前に古寺山を通過。岩の多いぬかるんだ道をグングン進むと先行パーティーに次々に追い着いてしまい、その度に譲られる。三沢清水、ハナヌキ分岐を過ぎて一服清水で喉を潤す。 冷たくて旨い。道は緩やかになり疲れた足には助かる。空はすっかり晴れ渡っているが、ブナ林に入るとヒンヤリする。

独り来て木漏れ日揺れるブナの尾根

ブナの巨木が林立しているが樹皮に刻まれた人名などの落書き傷が痛々しい。ほとんど全てのブナが傷つけられている。周囲の樹皮が盛り上がって数十年前の古傷と思われるが決して消えることはないだろう。15時頃、沢音が聞こえ始めた。「合体の樹」周辺には直径1m以上のヒメコマツやブナが多い。 良く見るとヒメコマツ(別名 ゴヨウマツ、ハイマツと同様5葉性)は、巨木の割に葉が短い。沢の音が大きくなって来た。登りでは意識しなかったが、風格ある巨木達をじっくり見上げると畏敬の念を覚え、天高く伸びる様には神々しさを感じてしまう。

天高き木々を見上げて頭垂れ

道は尾根を離れジグザグの度に川音が大きくなる。発電機の音が混じって鉱泉の屋根が見えると沢沿いの道はすぐだった。鉱泉前の橋を渡り、ドォーッと勢い良く流れる古寺川に沿って程なく駐車場に帰着。車の数は半分に減っていた。展望には恵まれなかったが、花一杯の稜線漫歩を堪能出来て大満足の山旅であった。。