霧雨に煙る磐梯山(1818m)
 
日  時:2009年6月14日(日)
天  気:くもり時々雨
行  程:500白石−635,655川上温泉登山口〜850,900砂礫地1110m地点〜1003,1010稜線上1420m地点〜1102弘法清水〜1133,1158磐梯山山頂〜1305,1314ガレ場1200m地点〜1433登山口
累積標高差:約1120m
歩行距離:約11.9km

ルート断面図とルート図
磐梯山断面図 磐梯山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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「露天風呂は11時からだよ」
「今から磐梯山へ登りたいんですけど車停められませんか」
「あとで風呂入るんだったらこっちへ停めていいよ」
「下山したら入りますよ」
と云わざるをえない。まあ、どうせどこかの温泉に立ち寄るつもりだったから問題ないのだが。

ここは会津磐梯山の川上登山口である。東北地方は先週梅雨入りしたが、今日の会津方面はくもり時々晴れの予報なので、かねて登りたかった磐梯山へやって来た。白石から国道4号、フルーツライン、国道115号そして濃霧の土湯峠を経て川上温泉まで1時間半で到着。 登山口の道標はすぐ見つかったが、道沿いの空き地には【私有地につき駐車禁止】の看板がありロープも張ってある。左の脇道に入ると矢張り【立ち入り禁止】のコーンとポールがあってその先の駐車場には入れない。どうするか思案していたらそこの主人が出て来て、冒頭のやり取りとなった。

登山道は貸別荘(屋号は失念した)の敷地内を抜けているので駐車には注意が必要だ。大きな水車のある広い駐車場に車を停めて朝食を済ます。今はくもりだが、雲は厚く何時降り出すか判らないので雨具を着てロングスパッツを付ける。この川上コースは数あるルートの中で一番長いので人も少ないだろう。 山頂までの標高差は1100mを越えているので気合を入れて歩き出す。高度計は640mに合わせた。(これは大失敗。後で地図を良く見たら720mだった)えらく立派な【登山者の皆さんへ】という注意書きの前を通って水車の脇から山道に入るとどうも様子がおかしい

磐梯山 磐梯山 磐梯山 磐梯山
 
下草が生い茂ってとても百名山の取り付きとは思えない。すぐに道標があったが蔓草がからまって字が読めない。「これは廃道みたいだな」と思いながら蔓草を払うと【大不動尊鎮座・・・・不動滝】と書いてある。どうもうさんくさいが、少し行くと小さな滝と仏像があって行き止まりのようだ。 道を探すと右にかすかな踏み跡がある。妙だなと思いながらシダを掻き分けて急な道を登って行く。雨具を着ていなかったら露でずぶ濡れになる所だ。100m位進んだが、何と道が消えてしまった。騙された思いで引き返す。さっきの道標まで戻ると左に道があるようだ。

登山道としての道標はなく、自信はないがともかく足を踏み入れる。少し進んで駄目なら駐車場まで戻るしかない。幸いしばらく急坂を登ると【川上登山道】という道標があった。「これを何故あの分岐に付けないのか」腹立たしく感じながらもほっとした瞬間、次の難題が発生。 「ゴロゴロー」 遠くで雷鳴が鳴り響いたのだ。まだ雨は降っていないが雷雨になるのだろうか?「今日はあきらめるか」としばらく様子を伺ったが、回復するという予報を信じて前進と決める。オオカメノキが花盛りだ。ホオノキ、ミズナラ、アカマツなどの鬱蒼と繁った暗い森をしばらく登ると斜度が落ちた。

雷鳴に思案暫し磐梯山

数分おきに熊除けの笛を吹きながら進む。わずかに下り始めると立派な山道となる。浅い沢を横切ってしばらくするとバラバラと大粒の雨が木の葉を打ち始め、たちまち土砂降りになった。急いでザックカバーを付け、傘も取り出す。ただ雷鳴は聞こえないのでどんどん進む。すぐに雨は小降りになった。

磐梯山 磐梯山 磐梯山 磐梯山
 
気温は13度だが雨具を着ているので汗びっしょりだ。ピンクのタニウツギが途切れず現れて暗い森を華やかにしてくれる。再び、道を下草が覆うようになり、地面が見えなくなった。これではマムシがいても判らないだろう。しかし、段差がほとんどなく平坦なので息も上がらず、草を蹴飛ばすようにピッチを上げる。 8時過ぎ、左が少し開けてカラマツの間から爆裂火口壁がちらっと見えた。薄いガスの中、聞き慣れたホトトギスの声が響き渡る。一旦止んだ雨がまた降り出した。道は右へ曲がり少し下る。標高1000mを越えた辺りで木々がまばらになり、明るい庭のような雰囲気になった。

大きな岩が点在して日本庭園のように見えなくもない。アカモノの大群落が道の両側に広がった。この花がこんな大きな群落を作るとは驚きだ。左には櫛ヶ峰に続く爆裂火口壁が高々と聳えているが、右奥の磐梯山方面は灰色の雲の中だ。8時40分、また雷鳴が轟いた。 この分では登頂は無理かもしれないが、さっきと同様単発なので前進だ。ダケカンバに黒い実がびっしり着き、カラマツの若葉が何ともいえず瑞々しい。開いたばかりのウラジロヨウラクの花が可憐だ。見渡す限り河原のような広い砂原が現れた。噴火時の土石流跡だろうか。 ロープが張ってあるがこれが無ければ迷ってしまいそうだ。9時前、砂原の端で1本立てる。2時間歩いたが標高はまだ1100m、先は長い。気温は15度だが風がないので暑い。ブヨが少し纏わりつくが防虫スプレーのお陰で刺されることは無い。砂原が尽きて緩やかな傾斜のガレ場となった。

ここにもコースを示すロープが張ってある。大岩がゴロゴロして土石流跡のような斜面を進むと、深さ2m程の枯れ沢にぶつかった。対岸に矢印があるが切り立っていて降りられない。少し上流側を迂回して渡ると樹林帯に入る。すぐに【山頂まで1.8km】の道標あり。 この辺りからようやく傾斜が急になり高度がグングン上がり始めた。ウグイスが盛んに囀る。丸太の階段道になったがユニークな手摺に驚く。直径2cm位の鉄棒をU字型に曲げ、逆さにして地面に挿してあるのだ。倒れたのもあるが結構しっかりしているので頼りになる。 道の両側に無数に立ち並ぶ鉄棒を見上げると一寸異様だ。背の低いダケカンバやナナカマドが多くなり左右の展望が開けたが、ガスが掛かって遠望は利かない。ウグイスの独演会が続く。10時前、森林限界を抜けると草付きの急斜面にイワカガミの大きな群落があった。

斜面を埋め尽くす様は実に見事で、これを見られただけで無理して登った甲斐があるというものだ。10時過ぎ、稜線に達し【山頂まであと1.3km】の道標の辺りで2本目を立てる。標高は1420m。ガスが濃くなり視界は100m程で目の前の櫛ヶ峰も半分しか見えないし、磐梯山方面には黒雲が掛かり登高意欲を殺がれる。初めて見る名も知らない花が一面に広がった。

 
磐梯山 磐梯山 磐梯山 磐梯山
 
稜線沿いの道の右側は爆裂火口壁となって鋭く切れ落ちており、霧に煙る様は凄味がある。気乗りしないまましばらく平坦な道を行くと、突然周囲が一気に暗くなった。バラバラと大粒の雨が降り出し、冷たい風が谷を吹き上げて来たと思ったら、雹が雨具に当たり出した。 あわててザックカバーを取り出そうとしていると、更に追い討ちを掛ける様に腹に響くような雷鳴が轟いた。今朝から3度目の雷。「もう限界」今日は撤退と決め、下り始める。しかし、この広い稜線上で次々に雷が落ちたら逃げ場は無い。緊張しながら下って行くと二人づつ2組の登山者が登って来た。

相当なピッチで登って来たのに追い着かれるのは変だなと思いながら声を交わす。
「雷が鳴ったから下山するつもりなんですが」
「これから天気は良くなるんじゃないですか」
「大丈夫ですかねー」
「今日はバンダイクワガタがばっちり咲いてますよ」
こっちはビビリまくっているのに、彼らは雷など意に介さずドンドン登って行く。先程の見知らぬ花は【バンダイクワガタ】というらしい。進むべきか退くべきか尚も思案していると、雨は小降りになり空は明るくなって来た。上から団体も賑やかに降りて来て、一人で緊張しているのが馬鹿馬鹿しくなる。

結局、地元の人らしい先程の2人組の後を追って登ることにする。次々に登山者とすれ違う。3時間以上孤独の世界に浸って緊張感の中で大自然と向き合っていたのに、一気に人間世界に引き戻された感じだ。三合目天狗岩を過ぎ、しばらくすると弘法清水に到着。

磐梯山 磐梯山 磐梯山 磐梯山
 
弘法清水小屋と岡部小屋の2つの茶店付近は登山者でごった返している。ここで四方からのルートが合流しているので、山頂までの急でぬかるんだ道は家族連れも多く、登る人と下る人が交錯して大渋滞。【登り優先】など全く無視で何度も待たされ、一気にくたびれてしまった。 11時半、磐梯山山頂に到着。登山口から4時間半だ。石の祠を中心にした狭いピークは30人程の登山者で満員状態。記念撮影をする団体で祠も隠されている。雨はすっかり止んだが視界は10m位で、360度の大展望のはずが何も見えない。風はほとんどなく気温は11度。背中は汗で濡れているが寒くはない。

端の岩に腰を下ろして昼食にする。高度計の針は1680mを指している。気圧が上がったにしても誤差140mは大き過ぎる。どうやら最初の設定を間違ったらしい。悪天にも拘らずここまで登れたことに感謝して下山開始。先程の行列が嘘のように空いている道を軽快に下ると、弘法清水は相変わらず観光地状態。 青空は見えないがガスが晴れて下界も見え始め、磐梯山と双耳峰を為す櫛ヶ峰も全貌を現した。猪苗代スキー場への分岐を過ぎ、イワカガミなど花の写真を撮りながら一気に下る。13時過ぎ、崩壊地の枯れ沢を渡った所で休憩。ここで雨具を脱ぐ。くもりで風は無く気温は16度まで上がった。
 
磐梯山 磐梯山 磐梯山 磐梯山
 
ここからは岩だらけのガレ場が続く。広々とした岩原に出ると200m位向こうに若い男女3人がキャンプをしている。遠くて良く見えないがこちらに向かって手を振っているようだ。しかし、彼らの意図が判らないので反応せずに歩き続ける。空が明るくなるとカラマツの新緑が鮮やかに映える。 再び【日本庭園】を通過。ほとんど平坦な道が続くので大股でグングン飛ばす。下草が道を覆うようになったが石や木の根がほとんどないので歩き易い。時々笛を吹いたり、温度計をザックのバックルに打ち付けたりして熊との遭遇を避ける。登りでは気付かなかったマイヅルソウの群落が道沿いに点在している。

沢音が近付くに連れ、ブヨも増えて来たがスプレーで撃退する。小沢を横切るとバイクの音が遠くから聞こえた。里は近いらしい。14時半、道路が見えると間もなく川上温泉に帰着。早速露天の温泉へ向かうと、
「お帰りなさい。今日ここから登ったのはお客さん一人でしたよ」
「え、さっき上の磧に3人いましたけど」
「裏磐梯スキー場から上がったんでしょう」
「そうですか。稜線では雷やら雹に遭って大変でしたよ」
「えー、雹が降ったんですか」
どうやら稜線上で追い着かれたと思った2組は、ここからではなく猪苗代スキー場から登ったようだ。この温泉は露天のみで内風呂は無く、循環加温らしく余り効能を感じなかったが、往復16kmの行軍に耐えた筋肉をほぐすには十分だった。悪天の中、1100mの登降は厳しかったが、花と静かな山を堪能出来た。撮った写真は200枚を越えてしまったので整理が大変だ。

【参考】 川上露天温泉:500円