白八汐咲乱れる烏帽子岳(1680m)
 
日  時:2009年5月31日(日)
天  気:くもりのち霧時々雨
行  程:500白石−540,605烏帽子岳登山口〜619渡渉地点〜717,7241050m地点〜8001200m地点〜850前烏帽子岳〜1000後烏帽子岳山頂〜1105,1132えぼしスキー場石子ゲレンデ〜1247千年杉トレッキンク゛コース入口〜1257登山口
累積標高差:約1070m
歩行距離:約9.3km

ルート断面図とルート図
烏帽子岳断面図 烏帽子岳ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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えぼしスキー場からのDMで5月末から6月初めに掛けて東北随一というシロヤシオの群落が見られるそうなので、烏帽子岳に登ってみることにした。この週末は低気圧の接近で雨模様の予報だが、今日の午前中だけ降らないらしい。昼までに下山出来るよう早立ちする。 雨具のズボンとロングスパッツを付け6時過ぎにえぼしスキー場手前の登山口を後にする。スキー場への道は8時まで閉鎖になっていた。くもりだが雲の切れ目から薄日が差しており、しばらく雨は大丈夫だろう。登山口の標高は630m、後烏帽子山頂まで1100mの登りだ。10時頃には着くつもりである。

気温は13度。ウグイスやシジュウカラなど野鳥の囀り、トチノキ・ブナ・ミズナラ・ハウチワカエデなど瑞々しい新緑のトンネル、爽やかな沢音。タニウツギのピンクの花が出迎えてくれる。正に山笑う季節、春爛漫である。荷も軽いし、自然に足取りも軽くなる。 15分ほどで渡渉点に着いたが、小阿寺沢の水量は少なく飛び石で難なく渡る。足元にはもう大きく葉を広げたヤブレガサやコアジサイがびっしり。立派なブナやミズナラの森の緩やかな斜面を辿る。数分置きに熊避けの笛を吹きながら登って行くと道が左に折れて尾根の急登となった。


烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳
 
「キョッキョッ、キョッキョッ、キョッキョッキョッ」 ホトトギスの特徴ある囀りが新緑の森に響き渡る。尾根の急な登りは延々と続き、6時45分大岩が連なる一番の急斜面に差し掛かった。高度計は900mを指している。この辺りからシロヤシオが現れたがほとんど花が散っていて、道一杯に白い花びらが敷き詰められている。 いきなり背丈ほどの密生した笹薮で道を塞がれた。藪の向こうに赤テープが見えたので構わず突っ込む。たちまち露でびしょ濡れだ。

道隠す笹薮抜けて露に濡れ

熊避けの笛吹きながら独り行く

7時過ぎ1050m付近で1本立て、甘納豆やアメを補給。全身汗と露で濡れているが、風はないので寒くはない。少し青空が見える。リョウブ、マンサク、オオカメノキ、オガラバナ、ナナカマド、マイヅルソウ、エンレイソウなど見慣れた樹や草が現れる。 気の早いサラサドウダンが所々に咲いており、ひっきりなしに色んな野鳥が囀るがほとんど同定出来ない。高度が上がるに連れ、花を付けたシロヤシオが随分多くなった。右手の樹間からスキー場のゴンドラ終点駅がちらりと覗き、胸を付く急登がどこまでも続く。 色褪せたショウジョウバカマがチラホラ。シロヤシオと白さを競うように瑞々しく輝くオオカメノキが目立つ。8時に標高1200mを過ぎるとシロヤシオの花が益々多くなり、1300m付近では満開になった。尾根道の傾斜が一気に落ちて平坦になり賽の磧を通過。大きなシラビソが根元近くから折れて倒れている。裂け目は新しく倒れたばかりのようだ。


烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳
 
8時25分スキー場への分岐を過ぎる。一昨年秋、YACで宴会を開いた場所だ。雨がぽつりぽつりと落ちて来た。タチツボスミレの群落あり、ミネザクラ(別名タカネザクラ)も登場。 9時前、前烏帽子ピークの大岩に到着したが、ガスが濃く全く展望なし。風もなく鳥の声もかすかに聞こえる程度で、細かい雨がぱらつく中、静寂が辺りを支配して幻想的な雰囲気である。疲れも感じないし腹も減らないので、腰も下ろさず後烏帽子を目指す。 シジュウカラが忙しなく静寂を破る。マイヅルソウが道の両側に絨毯のように広がっている。地味な花でも一斉に開花したら迫力あるだろう。シャクナゲも登場したが花芽は小さい。霧雨の中緩やかに下る。ここまで来ると木々の若葉も開いたばかりで、ムラサキヤシオやシロヤシオは3分咲きくらいだ。ミネザクラは満開に近い。 写真を撮りまくるのでペースは上がらないけれど、花が途切れないので心浮き浮き足も軽い。20分程下ると後烏帽子への登りとなる。雨が本格的になったので雨具の上着を取り出す。ブナの巨木が点在。

徐々に斜度が増してオオシラビソの森となる。去年の4月、深い雪の中で腰まで潜って悪戦苦闘、登るのを諦めかけた急斜面だ。 ウグイスが驚くほど近くで啼くが姿は見えない。山頂が近付くに連れガス、雨に加えて風も出て来た。満開のミネザクラが揺れている。10時少し前、えぼしスキー場への分岐を通過。程なく1680mの後烏帽子ピークに立つ。予定通り10時ジャストだ。狭い山頂には背の低いミネザクラが岩にへばりつくように並んでいる。 雨は上がり気温は8度だが、風が強く体感温度は零度近い。ここで休む気にならず、少し下ることにする。写真だけ撮ってピークを辞す。先程の分岐からえぼしスキー場へ向かう。昨年4月は雪の大斜面でガスってルート探しに梃子摺ったが、今はほとんど雪がないので迷うことはない。所々山スキー用の番号標識が木にくくりつけてある。 下りながら休憩場所を探すが、雪解けの泥んこ道が続くので昼飯は後回しにする。急傾斜で大きくえぐれた泥んこ道なので一寸油断すると足を取られる。あちこちに少しずつ雪が残っており、一頻り泥んこ道を下ると丸太と石で固めた歩き易い階段道となった。


烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳
 
10時半過ぎ、笛を吹いた途端人が現れたので驚く。 15名くらいの中高年男女だ。雨模様の今日は誰もいないと思っていたのだが。 「早いですね」 「ええ6時から歩いてますから」 「そんなに早くですか。山頂は遠いですか?」 「まだ1時間以上掛かりますよ。階段道が終わったら泥んこ道で大変ですよ」 小さな沢を横切ると10分ほどでえぼしスキー場最上部である「かもしかリフト」降り場に出た。何百回も滑った見慣れたコースだが、雪がないとまるで印象が違う。40度近いチャレンジコースは危険なので、イワカガミの咲くかもしかコースを下って11時過ぎ石子第2リフト終点に到着。1年前と同様、板敷きの降り場で休ませてもらう。 板の上はほぼ乾いているので助かる。泥だらけのスパッツと靴を脱ぎ、リフト監視小屋の壁にもたれてのんびりとおにぎりを頬張る。目の前には深いコブに何度となくコケまくったチャレンジコースの急斜面が聳えている。人気のないスキー場は‘兵どもが夢の跡’という感じで何となくうら寂しい。

ここの標高は約1200m。気温は12度まで上がっている。結局、7時20分に1050m付近で休んでから3時間40分、水も飲まずノンストップで600m以上登り、500m下ってここまで来てしまった。今日は随分体調が良く、若い頃のようにほとんど疲れを感じなかったが、やはり靴を脱いで足を伸ばすと筋肉が悲鳴を上げてふくらはぎが吊りそうだ。 ほとんど雨にも遭わず乾いた場所で食事も出来て実に運がいい。食後ストレッチをして筋肉をほぐす。再び靴を履き、午後の雨に備えて雨具上下とスパッツ・軍手も付けてザックを担いだ途端雨がパラパラと降り出し、一気にガスも上がって下のゴンドラ駅があっという間に見えなくなった。何とタイミングのいいことか。 ところが、気分良く歩き出した途端、リフト降り場の湿った板敷きスロープで泥靴が滑り、見事にスッテンコロリ。咄嗟に軍手を嵌めた右手で支えたので尻は打たずに済んだが、危ない所だった。短い草に覆われた石子ゲレンデを下り、ガスに霞むゴンドラ駅の脇を通って千年杉コースへ向かう。


烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳
 
ゴンドラを降りた数名の観光客がスイセンの咲くゲレンデを散策している。冬場は「レストランかもしか」になる「森の写真館」の右手に進むと道標があった。きれいに整備された緩やかなハイキング道をのんびり下る。シロヤシオやヤマツツジが霧雨に煙って瑞々しく輝いている。花の写真を撮りながらルンルンで下り、カーブを曲がった途端白っぽいものが目に入った。登山者かと思ったら何とカモシカではないか。お互いに見詰め合って動かず。

数秒後、 「こんちわ。写真撮らせてね」 話し掛けながらデジカメを取り出しシャッターを押した時には、彼は背中を向けて茂みの中へ入ってしまった。その場所まで行くと10m程上の樹間からじっとこちらを見ている。カメラを構えたが、残念ながら木々に邪魔されて顔と背中の一部しか写せなかった。40年以上の山歩きで初めての遭遇に興奮しながら下る。熊ではなくて助かった。


烏帽子岳 烏帽子岳 烏帽子岳
 
2度沢を渉って少し登り返すと大きな看板があり「千年杉」が立っていた。ゴンドラから近いので何度も見て大きな杉だなとは思っていたが、目の前で見ると直径2m近く、林野庁の「森の巨人たち100選」に選ばれただけあって、予想以上に堂々として風格ある姿だ。案内板には樹齢600年以上、高さ26m、樹周5.9mとあった。 ゴンドラケーブルの下をくぐり、歩き易い緩やかな道を延々と下る。足元のマタタビに白い葉が目立つが花はまだ咲いていない。この種は6月の開花期に葉の表面が白くなるのだが、虫にアピールするためだという。確かに薄暗い森の中では良く目立つ。 「森の写真館」から50分ほどでえぼしスキー場への道路に出た。アスファルト道を10分下って登山口に帰着。今回は天気と展望には恵まれなかったが、シロヤシオ始め多くの花々に迎えられ、思いがけずカモシカ君との遭遇もあって感動の連続、忘れられない山旅となった。