絶景の北横岳(2480m)
 
日  時:2009年10月18日(日)〜19日(月)
天  気:【18日】快晴 【19日】快晴

行  程:【18日】520佐倉−三郷南IC−外環道−関越道−圏央道−中央道−談合坂SA−諏訪IC−1200ヒ゜ラタスローフ゜ウェイ山頂駅〜坪庭〜1237,12472280m地点〜1337,1352北横岳ヒュッテ〜1430,1435三ッ岳〜1512,1600北横岳ヒュッテ〜1622,1630北横岳〜1645北横岳ヒュッテ〜七ヶ池散策

【19日】430北横岳ヒュッテ〜450,610北横岳〜620北横岳ヒュッテ〜七ヶ池散策、800頃北横岳ヒュッテ〜坪庭〜930頃ヒ゜ラタスローフ゜ウェイ−明治温泉−南諏訪IC−三郷南IC−佐倉


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北横岳
 
談合坂で集合し、諏訪ICからビーナスラインを経てピラタスロープウェイ駅を目指す。 今回はHさんの喜寿と小生の蔵王からの帰任を機に山小屋で一杯やろうということで計画された。2007年6月末から今年の9月初めまで2年2ヶ月に渡る宮城県白石市での単身生活を振り返ると蔵王連峰の麓に居を構えたメリットを最大限に活用して夏山3シーズン、春・秋は2シーズン、スキーも2シーズンたっぷり楽しめたと思う。

数えてみると山とスキーを合わせて約90回、温泉は100回を越えている。お陰で蔵王のみならず東北の主だった山々を歩くことが出来、高山植物のレパートリーも増え、山歩きの持久力も随分向上したことがうれしい。定年を迎えた実感はないが、十分な体力と山歩きの経験を活かしたセカンドキャリアを考えた末、森林インストラクターの資格取得を目指して勉強を始めた。印旛沼近くの野鳥の森整備のボランティアにも参加している。

さて、3台に分乗した我々は途中の蕎麦屋で早目の昼食を済ませ、11時半ピラタスロープウェイ駅前の大きな駐車場に着いた。周囲の紅葉はちょっと盛りを過ぎた感じだ。昼前に標高2233mのロープウェイ山頂駅に到着。気温は9度、風はほとんどない。 抜けるような青空の下、右手に縞枯山そして左手には目指す北横岳がなだらかな稜線をくっきりと描いている。

三十数年前、ここを出発して硫黄岳付近でツェルトビバークし、全縦走を果たして小淵沢まで2日で歩き通したのだが、この辺りの様子は全く記憶にない。 軽くストレッチをして12時丁度、大勢の観光客が行き交う坪庭をのんびり歩き始める。石畳の遊歩道の所々にドライフラワーのようなヤマハハコの枯れ花が点々と並んでいる。程もなく遊歩道から山道へ入り、シラビソの縞枯れ斜面をジグザグに登って行く。

 
北横岳 北横岳 北横岳 北横岳
 
「縞枯れ」とは亜高山帯(南面に多い)の針葉樹林(シラビソ、オオシラビソに限るらしい)の一部が帯状に枯れ、斜面上に何列も白い縞が出来てその帯が徐々に上昇していく不思議な現象だ。縞枯山での調査に拠れば上昇速度は年平均1.7mだそうである。 高山の南面針葉樹林ならどこでも出来る訳ではなく、岩のゴロゴロした岩塊斜面で土壌に乏しいという条件が必要だ。縞枯山は典型的な縞枯れの帯が見られるのでその名が付いたのだが、ここから見えるのは北面なので残念ながら縞はない。しかし、目の前の北横岳南面にもやや傾いた縞模様が何本も走っている。 学説通り登山道は岩だらけの急登で非常に歩き難い。シラビソやコメツガ、サワラなどの森を抜け、急登が一段落すると三ッ岳からの道を合わせ、間もなく北横岳ヒュッテに辿り着いた。

2階の広い個室に荷を下ろし少し休んだが、山頂の夕日を見る前に三ッ岳まで行ってみようと衆議一決。小さな上り下りが延々と続く大岩ゴロゴロ道を30分程で三ッ岳の岩峰下に到着。 20m位の岩壁に鎖が付けてある。ホールド・スタンスが沢山あり岩もしっかりしているので問題ないが、小屋番から転落事故のことも聞いていたので慎重に登る。依然として晴れ渡った青空の下、大岩が重なり合った山頂からの展望は抜群で、御座山、男山、天狗山から赤岳始め南八ヶ岳連峰がすっきり見えて気分爽快。 約40分でヒュッテに帰還。

「これ食べてみて」 小屋入口のストーブに当たりながらK氏がガンコウランの実を女性陣に渡そうとした時事件が起こった。 「実を採っちゃだめですよ」 小屋番の女性に厳しく指摘されたのだ。 「ここは特別保護地区ですから落葉を拾っても石を動かしてもいけないんですよ」 確かに高山植物の実を採るのはまずいだろうが、「特別保護地区」という表示も気付かなかったし、釈然としないので少し調べてみた。

「自然公園法」に基づく国立公園・国定公園の「特別保護地区」では生態系保護のため「落葉を含め動植物一切採取・損傷・捕獲してはならない」ことになっていて罰則規定もある。当然昆虫採集や渓流釣りも禁止だ。 大きな山はほとんど指定されているようなので、里山以外では何も採らない方がよさそうだ。しかし、全国各地で大規模な林道やダムなどにより散々自然破壊が行われてきており、落葉どころか森がすっかりなくなった山も多い。

我が千葉県では低いとはいえ山がそっくり削り取られて東京湾や関空などの埋立てに使われ、さらに今後も続きそうな現実を見ると自然保護という建前とのギャップの大きさに暗澹たる気持ちになる。(現在、マザー牧場の隣にある「鬼泪山:きなだやま」が今後50年で削られそうな雲行きになっている)

 
北横岳 北横岳 北横岳 北横岳
 
部屋でしばらく休み、16時頃夕日を期待して全員で北横岳山頂を目指す。南峰と北峰の両方に立ってみたが、残念ながら地平線付近は雲に覆われて夕日は拝めず、展望も芳しくない。気温は零度、風も強いので早々に引き上げる。ヒュッテに帰り着いた時には夕闇が迫っていた。 その後の夕食は山小屋とは思えず豪勢で、桜肉のすき焼きやきのこなど質量とも抜群で皆大満足だった。

翌朝はまだ真っ暗な4時半頃、皆防寒のため着膨れてヘッドライトを点け再び山頂を目指す。北峰を越えて少し下った東面の展望が良い場所に塊まって座り夜明けを待つ。気温はマイナス4度、潅木で風を避けているとはいえじっとしているので寒さは尋常ではない。 5時半頃から東の空が白んで来たが一向に太陽は顔を出さない。どこから出るか、いつ出るかとじりじりしながら待つこと久し。結局、雲海の間から日が上がったのは5時55分。1時間以上待機して体は冷え切ってしまったが、刻々と色が変わる明け空に徐々に姿を現した南八ヶ岳のシルエットが実に印象的だった。

朝日待つ風の稜線凍えけり

黎明に黒々浮かぶ八ヶ岳

北峰に戻りすっかり夜が明けた山頂からの展望は忘れ難いものになった。残念ながら富士山は赤岳の陰で見えないが、八ヶ岳連峰の右に鳳凰三山、切れ落ちたバットレスがはっきり判る北岳、甲斐駒、仙丈岳が居並ぶ。 さらに中央アルプスから御岳、乗鞍へと続き、雪でかなり白くなった北アルプスの峰々の中に槍の穂先がすっくと立ち、朝日を浴びて金色に輝く蓼科山の右手には北信五岳、湯の丸山、浅間山、四阿山、榛名山、妙義山、荒船山など信州・西上州の山々、そして東にゴリラの御座山や奥秩父が連なっている。

 
北横岳 北横岳 北横岳 北横岳
 
寒さを忘れさせる360度の大景観を後にヒュッテに戻り、心のこもった朝食を済ませ、七ヶ池をもう一度見て、8時過ぎ小屋を後にする。 ジグザグの急坂で大荷物を担いだボッカの人に出会った。70歳を越えているそうだがとてもそうは見えないにこやかな人だった。 樹間から覗く空は昨日にも増してきれいに晴れ渡り、南八つや北岳など眺めながら気分良く下り、坪庭を半周してロープウェイ駅へ9時半頃帰着。

下りのロープウェイからの展望も絶景で八ヶ岳、南・中央・北アルプスの峰々がくっきり見えて大きな歓声が上がった。紅葉ドライブしながら大きな滝の上にある明治温泉に立ち寄った後、南諏訪ICへ向かう途中雲一つ無い青空の下、原村付近の広々とした田んぼから眺めた八ヶ岳連峰の全貌は迫力満点だった。 空気が澄んでいるせいか全ての峰々が隅々まで迫って見え、若き日にこの山々に魅せられて通い詰めたHさんも感慨深げ。最後まで好天に恵まれ展望も素晴らしく、また一つ印象深い山旅が増えた。