高嶺松虫草咲乱れる飯豊山(2105m)
 
日  時:2009年8月19日(水)〜20日(木)
天  気:【19日】くもりのち晴れ
      【20日】晴れのちくもり

行  程:【18日】1535白石−113号−高畠−川西−2030大日杉小屋駐車場(車中泊)

      【19日】455駐車場600m〜500大日杉小屋〜524ざんげ坂下〜535駐車場〜552,607ざんげ坂下〜727,7342本目1260m地点〜820地蔵岳〜906,911目洗清水〜1003御沢分岐〜1030,10414本目1660m地点〜1050,1100種蒔山水場〜1125切合小屋〜1200,1240草履塚〜1343,1353本山小屋〜1407,1420飯豊山〜1435本山小屋(泊)1800就寝

      【20日】 415起床〜521本山小屋〜530,534飯豊山〜630,635御西小屋〜750,753本山小屋〜853,857草履塚〜916切合小屋〜930,950種蒔山水場〜1100,1110目洗清水手前の見晴台〜1210,1219地蔵岳〜1310,13201000m地点〜1400大日杉小屋〜登山口駐車場−南陽市赤湯温泉−白石

累積標高差(上り):約2820m
累積標高差(下り):約2820m
歩行距離:約29.9km
コースタイム:約20時間30分
実歩行時間:15時間23分(一部は空身で歩行)


ルート断面図とルート図
飯豊山断面図 飯豊山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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「飯豊山」というととてつもなく大きな山でアプローチも長く、1〜2日ではとても登れないという印象(実際そうなのだが)が強く、登りたいけれどこれまで敬遠して来た。しかし、東北名山巡りの締めくくりとしてこの山は外せない。山形・新潟・福島3県に跨る広大な山域の地図を何度も眺めてはどの山に登るか・どこからアプローチするか色々検討した。

出来れば最高峰の大日岳と飯豊本山両方に登りたかったが1泊2日でも難しそうなので、飯豊本山に絞って小屋泊まりで登ることに決定。本山ピストンのコースタイムは約17時間、距離は21km、累積標高差は2200mだ。素泊まりのため食糧、水、寝袋、炊事道具持参となる。

荷が重く(12kg)2日間でも相当厳しい。昨日17日に鳥海山で15km歩いたばかりだが、明日は天気が良さそうなので18日午後アパートを後にする。高速道路は使わず蔵王連峰の南を西進する国道113号で山形県に入り、高畠を抜けて更に西へ向かう。 いくつも峠を越えて真っ暗な狭い山道を進み、何度か迷いながら5時間掛かって大日杉小屋手前の駐車場に到着。他に2台停まっていた。

翌19日朝、5時前に出発。大日沢を渡り三角屋根の洒落た小屋の前を右に折れて山道に入る。登山口の標高は600m、山頂まで1500mの標高差だが、起伏が激しいこのコースでは2000m以上登ることになる。断面図でも判るがまず地蔵岳まで一気に950m登るのがポイントである。

気温は15度。空は晴れているようだが夜は明け切っておらず、ブナやミズナラが鬱蒼と繁る森の中は暗い。朝露に湿った道は木の根が露出して段差は大きくかなりの急斜面である。背中のザックがずっしりと重いが足は軽い。歩き始めて30分程でざんげ坂の下に着き、おにぎりを頬張ろうとしてとんでもないことに気付いた。

飯豊山 飯豊山 飯豊山
 
財布を車に忘れたのだ。金がなくては泊まれないので、折角200m登ったが引き返すしかない。ザックを置き空身で駆け出すとすぐ夫婦らしい登山者とすれ違う。10分で下り、17分で登り返す。30分のロスだが、時間のことよりこれから長丁場なのに随分体力を消耗してしまったことが痛い。

まあ、あわてずじっくり歩くしかない。ゆっくり朝食を済ませて立ち上がる。急な溝状のざんげ坂には鎖も付けてあるが無くても登れる。その上はやや緩やかな痩せ尾根が続く。後ろから朝日が当たり出す。雲が多いが風はなく急登の連続で大汗。6時46分、1000m地点の御田を通過。 ロスタイムを除けばまあまあのペースだ。ミズナラ、ブナ、マンサク、オガラバナなどの木々を縫って相変わらずの急登が続く。ざんげ坂ですれ違った二人連れに追い着いた。奥さんが

「もう行って来たんですか。随分速いですね」

と驚いている。1260m地点で2本目、依然として風はなく気温16度。8時前、地蔵が見えた。オオカメノキの赤い実が目立つ。8時過ぎに雨が降り出したがすぐに止む。8時20分、ようやく地蔵岳に到着。ここは標高1539mだが距離的には3分の一しか来ておらず、まだ先は長いので休まず進む。

オヤマリンドウやイワオトギリ、ハクサンシャジン、ウメバチソウ、タカネマツムシソウなどの咲く稜線は細かい登降が多くて疲れる。9時過ぎ、目洗清水で3本目。ここの水場は枯れていた。10時前、小さな石の祠あり。ここがお坪だろうか?この辺り曲がりくねったダケカンバが多く、平坦なので庭園のような雰囲気だ。

右手彼方に草履塚から飯豊本山への稜線が姿を現した。ウグイスが啼き、薄日が差す。気温は21度と低めなので助かる。10時過ぎ、通行止めになっている御沢分れを通過。残雪期はここから御沢へ下って雪渓を詰めるらしい。ツバメオモトの青い実がきれいだ。稜線上には切合小屋が見え出す。

飯豊山 飯豊山 飯豊山 飯豊山
 
10時半、1660m地点で1本立てたが、すぐ先の種蒔山下に水場があったのでもう一度休む。豪雪の山らしくここの水は冷たくてうまいし水量も多く素晴らしい。持参したペットボトルの水2Lを全て詰め替える。道は種蒔山を巻くようにトラバース気味に登って行く。

森林限界を抜けたらしく高木はなくなった。この山も鳥海山同様に針葉樹林帯がなく草原状の「偽高山帯」を持つそうだが、そう謂われてみるとシラビソなどの森はなかった。この斜面にはニッコウキスゲ、ハクサンボウフウ、ウサギギク、ヨツバシオガマ、コバイケイソウ、タカネニガナなどのお花畑が広がっている。

間もなく種蒔分れに着き馬の背状の広い稜線歩きとなって、この辺りから色鮮やかなタカネマツムシソウが途切れなくなる。11時25分切合小屋に到着。予定より2時間近く早い。小屋の西側で幕営可、テント場代は500円。小屋を過ぎると枯れ沢沿いに岩混じりの急登が延々と続く。

12時丁度、草履塚に着いた。早速裸足になって岩の上で昼食とする。大休憩を終え、本山小屋泊まりだという年輩の人と一緒に歩く。しかし新潟から来たというこの人は大荷物なのにペースが速く、着いていくのが大変だ。草履塚から100m近く下って最後の急坂となるのだが、さっさと登って行く。

鎖場がある御秘所の岩稜もすいすい越えて行くし、ジグザグの御前坂でもピッチが落ちない。しかし、石を積み上げた一の王子手前で急に足が止まったので先に行かせてもらう。13時43分、石垣に囲まれた本山小屋に到着。すぐ横には飯豊山神社がある。こんなに早く着くとは予想外だ。

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財布忘れがなければ13時頃着いていたことになる。宿泊申込をして誰もいない板の間にザックを置く。素泊まり3000円。時間はたっぷりあるので緩やかな稜線を辿って飯豊本山へ向かう。少しガスって来たが飯豊連峰の山々の雄大な景観を眺めながら15分程で山頂に着いた。

狭くて賑やかだった一昨日の鳥海山とは全く対照的に、広くて静かな山頂からは御西岳までの牧歌的な稜線が伸び、その奥の大日岳は雲の中だったが、北に向けて烏帽子岳や北股岳など主稜の山並みが長々と続いている。やはり飯豊は一つ一つの山が大きく堂々としていて圧倒されてしまう。

小屋へ戻ると草履塚から一緒に歩いた新潟の人も今朝の夫婦も到着していた。色々話をするうちこのご夫婦は何と佐倉市の住人だと判明。奇遇に驚く。しばらくして石転び沢から梅花皮(かいらぎ)岳を縦走して来た人も加わって今日のお客は総勢5人だ。皆、小屋前の石垣を背に陣取ってそれぞれ夕食の支度を始める。

久し振りの小屋泊まりだがこんなにゆったり出来るのは初めてだ。早い夕食を済ませて夕暮れの山並みを眺める。大日岳に掛かっていた雲が切れて来たが、水平線辺りには雲が多くて夕日は見えず。地図で明日のコースを検討し、御西岳まで足を伸ばすことにする。好天を期待して18時寝袋へ。



翌20日、4時15分起床。気温は12度。さすがに山頂は冷える。ヘッドランプを点けてラーメンを作っていると夜が明けて来た。食べ始めたら

「日の出ですよ」

声が掛かったので食器を持ったまま外へ飛び出す。雲が多くていい写真は撮れなかったが、ご来光を見ながらの朝食となった。手早くパッキングを済ませてザックを預け、5時21分、カメラだけ持って小屋を出る。コースタイムは御西小屋まで往復3時間50分だが、なるべく早く戻りたいので思い切り飛ばす。

飯豊山 飯豊山
 
あっという間に本山に着いたが、今朝は大日岳がばっちり見える。見渡す限り誰もいない稜線はとても真夏の百名山とは思えない。この広々とした山頂の雰囲気は何となく大朝日岳に似ている。気分最高で山頂から御西岳へ向けて駆け下り、タカネマツムシソウが今を盛りと咲乱れる広い牧場のような稜線を行く。

駒形山、玄山道分岐を過ぎて御西岳が近付き、単独の登山者とすれ違った。気温は13度。薄日が差し、風はないが爽やかな朝だ。大日岳が段々大きくなる。平坦な御西岳を過ぎて少し下ると御西岳避難小屋に着いたが予想外に新しくて立派な小屋だ。ここまで来て気が付いた。

昨日ここに泊まれば最高峰の大日岳に登れたはずだと。あのまま歩いていれば15時頃には着いただろうから、今朝空身でピストンすれば明るいうちに下山出来たはずだ。惜しいことをした。しかし、牛首山を従えた大日岳は実に立派だった。少し写真を撮ってすぐに引き返す。

飯豊山
 
ここから北へ伸びる主稜は霞んで良く見えない。結局、2日とも朝日や吾妻、蔵王連峰などの遠望は得られなかった。帰路は緩やかな登りなのでペースを落とす。30分程戻ったところで佐倉のご夫妻と新潟の人が一緒にやって来た。

「いつの間にか姿が見えないと思ったらこっちに来ていたんですか」

「もう御西小屋まで行ったのですか。健脚ですね」

「今日下山するので急ぐんですよ」

彼らはこれから大日に登ってもう1泊するそうだ。住所と名前を交換して別れる。7時50分、本山小屋へ戻り小屋番に挨拶してすぐ出発。空身で飛ばしたので御西小屋ピストンは2時間半で完了した。気温はもう18度、今日も暑くなりそうだ。登りでは気付かなかったが、御秘所付近にはトリカブトが群落を作っていた。

飯豊山 飯豊山
 
草履塚で少し休み、切合小屋まで下ると飯豊本山にはガスが掛かり始めた。種蒔山水場で顔を洗い、水を汲む。御坪からは本山が良く見える。この辺りまでは調子良かったが、ここから地蔵岳までの果てしない上り下りはつらかった。さっきの水場で水筒を含めて3Lの水を詰めたのがずっしり堪える。

地蔵がちらっと見えたが随分先だ。気温は22度、日が差すと強烈に暑い。赤とんぼが纏わり着いて来る。11時、見晴台で一息入れる。ここからも草履塚から本山まで良く見える。やっと地蔵に登り着いたと思ったらまだ先だ。今度こそ地蔵だと着いてみるとまだ先。10回位繰り返してくたびれ果ててしまう。

次々に登山者とすれ違うが挨拶する元気もなくなった。汗が滴り落ちる。こんなにバテるのは久し振りだ。やはり重荷が効いているのだろう。12時10分、今度こそ間違いなく地蔵に着いた。しかし、ツアー客で満杯で座る場所もない。種蒔山の水をガブ飲みして体を冷やす。

ここから急斜面を950m一気に下るのだが、もう登り返しはほとんどないので大丈夫だろう。木の根が露出して段差の大きな道が延々と続き、膝に響く。突然左の茂みで何かが動いた。一瞬まむしかと身構えたが、黒くて大きいのでヤマカガシだろう。しばらく下ると今度は右の潅木の陰でガサガサ音がする。

よく見るとカモシカが立ち止まってこちらをじっと見ていた。13時過ぎ、御田で休憩。ここには杉の巨木があった。残り400mの下りだ。気温は23度だが、日差しがきつくてボーっとなる。やがてざんげ坂の上に出た。ここまで来れば大日杉は近い。14時ジャストに大日杉小屋に帰着。

目の前の河原に下りて沢水で顔と手足を洗う。さっぱりしたが、アブにたかられて刺されまくった。駐車場まで着いて来てドアを開けたら何匹か入ってしまい、運転出来ず困ってしまう。何とか1匹ずつ窓から出てもらって出発。後で数えたら手足と顔を10箇所以上刺されて10日位腫れが引かなかった。

こうして東北最大の山への訪問は終わった。暑い中の長い登りも下りも厳しく、とにかくでかい山という強烈な印象が残った。そして全山タカネマツムシソウが花盛りで山旅を素敵に彩ってくれたことに感謝したい。帰路、南陽市の赤湯温泉に立寄る。