炎天下の鳥海山(2236m)
 
日  時:2009年8月17日(月)
天  気:快晴のちくもり
行  程: 16日1730白石−酒田みなとIC−国民宿舎太平山荘駐車場(車中泊)
17日大平山荘−507大平登山口〜542,559見晴台〜649,654河原宿〜725,741御浜小屋〜831,840七五三掛〜900千蛇谷雪渓〜958御室〜1017,1026鳥海山〜1046,1112御室〜1304,1309御田が原分岐〜1332,1335鳥海湖〜1400吹浦口分岐〜1412河原宿〜1446,1455見晴台〜1518大平登山口−大平山荘−酒田みなとIC−白石

累積標高差(上り):約1310m
累積標高差(下り):約1310m
歩行距離:約15.1km
コースタイム:9時間50分
実歩行時間:8時間30分


ルート断面図とルート図
鳥海山断面図 鳥海山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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今日は山形県の最北端、秋田県との県境に位置する鳥海山にやって来た。コニーデ型火山であり、出羽富士とも呼ばれるこの山には1976年5月にニコン山の会春合宿でスキー登山をしている。しかし、テントと小屋で3泊したにも拘らず連日の雨のためピークを踏むことが出来なかった。

雪に埋まった鳥海湖付近で雪上訓練とスキー練習をした記憶があるが、33年振りの再訪でどんな顔を見せてくれるだろう。先日の月山では磨り減った靴底のお陰でコケまくったので、急遽新調した靴のデビュー戦でもあるが、1泊2日が一般的な往復15km、標高差1300mのコースを1日で歩き通せるだろうか。

昨日の夕方白石を出て東北道・山形道を経て酒田から鳥海ブルーラインを上り、国民宿舎太平山荘の駐車場で車中泊した。4時半に起きて大平登山口へ移動し、5時過ぎに伝石坂を歩き出した所である。大平登山口にも十分なスペースがあるのでこちらで泊まれば良かった。気温16度、風はなく空は晴れている。

この吹浦口コースは最も古くから開かれたルートでありかつては信仰登山者の列が絶えなかったという。麓の吹浦にある大物忌神社で御祓いを受けた人々は今の鳥海ブルーラインに沿って何日も掛けて登ったのだろう。今では鉾立から入る象潟口ルートがメインであり、ここは静かなものだ。

伝石坂は鳥海山屈指の急坂らしくセメントで舗装された急登が続くが、靴のフリクションが効くので快適である。「二の宿 五合目」の道標があり道は石畳に変わった。海辺の吹浦から歩き出すとこの辺りが五合目になるということか。早くもヨツバヒヨドリやハクサンシャジン、ハクサンボウフウ、クルマユリなど次々に登場して今日も沢山の花達に出会えそうな期待を抱かせる。

 
鳥海山
 
しばらくすると展望が開けて眼下に太平山荘の白い建物、彼方に霞んではいるが日本海も見えた。さらに進むと右手が大きく開けた見晴台に到着。ここで朝食にする。先客が一人休んでいて言葉を交わす。大きな標柱には「標高1260m」とある。地図に拠れば見晴台は1395mのはずだが?

それはともかくここからの景色は素晴らしい。日本海に山裾を伸ばしているこの山は朝日の影が海に落ちる「影鳥海」としても有名だが、今(5時44分)まさに山影が大きく伸びて庄内平野を覆っているのだ。海ではないけれど立派な「影鳥海」と云ってよいだろう。

幸先良いスタートとなったので元気が出る。見晴台を過ぎると高木はなくなりチシマザサなどの草原が広がった。鳥海山にはシラビソなどの亜高山針葉樹林帯が存在せず、代わりに低木林や草原が広がる「偽高山帯」が発達しているそうだ。傾斜は緩やかになったが相変わらず石を敷き詰めた道が続いている。

清水大神の水場は枯れていた。道の両側にはイワオトギリ、オヤマリンドウ、ミヤマアキノキリンソウ、オオバギボウシ、ヨツバシオガマ、ヤマハハコなどの花々が入れ替わり立ち代り登場する。三脚を立てている人がいたが何の写真を狙っているのか不明だった。

6時4分、朝日が上がった。空は雲もなく晴れ渡っており、小さな池塘の周りにはコバイケイソウやニッコウキスゲが彩りを添えている。気持ちよい道が続き、チシマザサの草原に背の低いナナカマドやオガラバナが混じる。7時前、河原宿で小憩。愛宕坂への登りとなり、鳥海湖への分岐を過ぎると傾斜が急になる。

やがて左に稲倉岳が姿を現すと鉾立からの道と合流し、かつて夏の行者のための宿舎だったという御浜小屋に着いた。これまでの静かな山が一変して大勢の登山者で賑わっており、この後山頂まで人の流れが途絶えることはなかった。裏手の稜線に出ると、思わず歓声を上げたくなるような雄大な景観が待っていた。

鳥海山
 
眼下には鳥海湖が青々と広がり、なだらかな扇子森の向こうにはゴツゴツした新山が頭を出している。鳥海湖の向こうには月山森が聳え、右手には丸い鍋森が鍋を伏せたようだ。これら二つのピークの間、遥か彼方に雲海に浮かぶ月山がはっきり指呼出来る。

快晴の空は青さを増しており、足元にはハクサンシャジンやウゴアザミ、ハクサンフウロなどが咲乱れ、夢中でシャッターを切る。ここからは正面に新山を、鳥海湖を右下に見ながらの緩やかな稜線漫歩となる。扇子森を越えて鞍部の御田ヶ原分岐を過ぎると八丁坂の急登となる。

ハクサンシャジンの見事な群落あり。左手に崩壊地が見え出すと千蛇谷コースと外輪コースの分れ目になっている七五三掛(しめかけ)に着く。鞍部から少し登った分岐点を左に降りて千蛇谷コースへ向かう。復路は外輪を下るつもりだ。梯子や鎖のある急な下りを進むと雪渓の上に出た。

鳥海山 鳥海山 鳥海山 鳥海山
 
ウグイスが囀る中、目印のロープに従って対岸へ渡る。残雪が多く見た目は涼しげだが、谷間に風はなく強烈な日差しに汗が滴る。ここまで800m程登って来たのだが、正面に高々と聳える山頂まではまだ500m近く登らねばならない。木陰のない炎天下の急登は過酷だ。

鳥海山
 
前を行く登山者が次々に道を譲ってくれるので先へ進まざるを得ない。千蛇谷を右下に見ながら豪快な景色の中、岩の間を縫って着実に歩を進めると徐々に右手の外輪山が低くなり、新山が近付いて来た。トンボが励ますように周りを飛び交っている。結局、雪渓からほぼ1時間で大物忌神社がある御室に到着。

鳥海山 鳥海山 鳥海山 鳥海山
 
ここで1泊する人も多いようだ。膨大な数の岩を積み上げたような新山(鳥海山)山頂まではもう一がんばりだ。ザックを小屋脇にデポして大岩に取り付く。ペンキ印に従って一方通行のルートを行くのだが、結構高度感も出る刺激的な岩登りだ。フリクションが効くので慎重に登れば危険ではないが初心者は怖いだろう。

20分弱で狭い山頂に立つ。まだ10時を過ぎたばかりなので、この分なら日帰りは大丈夫だろう。「新山」というから明治か大正辺りに出来た山かと思ったが、1801年の噴火に拠るそうだ。

上空は晴れているのだが雲海が広がって遠望は利かない。空気が澄んでいれば、東北随一の標高を誇るこの山からは岩手山、秋田駒、栗駒、朝日、蔵王、飯豊など東北の名だたる山々が望めるはずなのだが。

後から後から登ってくる人々に押し出されるように反対側から下るが、中高年団体が渋滞して随分待たされた。登りよりも時間を掛けて御室へ下り早めの昼食を摂る。気温は随分上がって25度だ。

ここから七高山へは寄らず行者岳方面へ向かう。大小の岩が堆積した上を少し下り、岩稜をトラバース気味に登って外輪の稜線に出、新山の荒々しい光景を振り返りながら緩やかに下って行く。稜線上もハクサンシャジンやウゴアザミ、ミヤマアキノキリンソウ、ヤマハハコなど花が途切れず。

鳥海山 鳥海山 鳥海山
 
右側は先程辿った千蛇谷まで数百米鋭く切れ落ちていて迫力満点だ。谷を登る人が豆粒のよう。間もなく伏拝岳の分岐で湯の台コースを左に分ける。ハイマツやダケカンバの間を縫って急なガレ場を下ると七五三掛に降り立った。谷から吹き上げる風が爽やかだ。

石畳の道を下って行くとややガスって来た。八丁坂を下り切った御田ヶ原分岐で左に折れ、鳥海湖へ向かう。この万助道は雨による侵食で荒れており人が歩いた形跡がない。赤茶けた道の両側にはニッコウキスゲなどの花々が咲き誇っている。振り返ると新山はもう遥か彼方だ。

万助道を左に分け、荒れた道を右へ回り込むように登って行くと鳥海湖の畔に出た。全く人影はないが天気が良いせいで余り神秘的な感じはしない。ガレ場の中に踏み跡を見つけたので20m程下って湖面まで降りてみる。湖畔からは対岸の稜線上に御浜小屋が白く光っており、その右手には扇子森がもっこり盛り上がっている。

鳥海山
 
浅い湖水は透明だが感激するほどでもなかった。登山道へ戻ると三脚を担いだ人が長坂道方面から木道を下って来た。御田ヶ原分岐を過ぎてから初めて遭う人だ。御浜小屋への分岐を左に進むと緩やかに登る木道となった。左手には鍋森が聳え、右手遥かには御浜小屋が小さく見える。

鳥海山 鳥海山
 
長坂道と合流してわずかに下ると吹浦口への分岐に着いたが、青空にくっきり浮かぶ鳥海山の雄姿もここで見納めだ。右に折れて静かな草原の中、石畳を辿ると間もなく河原宿で御浜からの道と合流。涼しい稜線から離れ木陰もなく、カンカン照りで気温は26度。

風がないので猛烈に暑く疲れた体には堪える。石の道が続き膝も悲鳴を上げ出した。少し雲が広がって日差しは弱くなったものの見晴台に着く頃にはすっかりバテてしまった。残りはわずかな下りなのでちんたら歩いて15時18分、大平口に帰着。最後はペースダウンしたが、トータルではコースタイムよりかなり早く、何とか日帰り成功。

暑さには参ったが、好天に恵まれて素晴らしい展望と多くの花々に大感動の山旅であった。撮った写真は200枚を越えてしまい整理が大変そうだ。大平山荘の大風呂で汗を流して長い帰途に着く。