冬晴れの大菩薩嶺(2057m)
 
日 時:2004年12月10〜11日
天 気: 快晴
行 程:710上日川峠駐車場−745,815福ちゃん荘−857,9041880mピーク−945雷岩−952,953大菩薩嶺−957,1015雷岩−1050,1110親不知の頭−1120大菩薩峠−1145熊沢山−1200,1455狼平−石丸峠−1530,1535カラマツ林−1625,1645上日川峠駐車場

ルート断面図とルート図
大菩薩ルート図
 
 
大菩薩断面図
カシミール3Dにて作成しています

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広々とした塩山市営駐車場には我々の他は1台のみでひっそりと静まり返っている。車から外に出ると甲府盆地の見晴らしが良い。快晴、4度。ここの標高は約1600m。7時過ぎ、駐車場を後にミズナラやシラカバの間を縫う舗装路を歩き始める。長兵衛山荘前のトイレに寄ってから山道に入った。 カラマツが多い緩やかな歩き易い道である。入社して初めて登った山がここ大菩薩で、当時は裂石から歩いたはずだが33年振りの道は全く見覚えがない。かなり登った頃、横の方から人の声が聞こえたので振り向くと、すぐ右下に舗装された林道が平行しており、数名の登山者が歩いていた。時折り車も通る。

改めて地図を良く見ると林道は福ちゃん荘まで平行している。右手に富士山が姿を現した。気温は1度。単独の若者が追い着いて来たので道を譲る。大菩薩の峰から上がった朝日がカラマツ林を照らし始めた。福ちゃん荘の屋根が見え、発電機の音が聞こえる辺りで朝食にする。 風呂まである福ちゃん荘は標高1720m。《皇太子ご夫妻ご休憩所》の看板あり。泊り客用の駐車場もあるので先程の車はここに停めたのだろう。ここからカラマツ尾根の登山道となる。マユミと思われる紅い実が裸木の中で目立つ。依然緩やかで幅広い立派な道をカラマツの落葉が埋め尽くしている。
 
福ちゃん荘 雷岩からの富士山 雷岩から南アルプス
 
雷岩から南アルプス 雷岩から南アルプス
 
しばらく直進するとやや傾斜が増して普通の山道らしくなった。さほど急登とは云えない道には霜柱がびっしり。鳥の声も人声もない静寂の中、霜柱を踏む音だけが響く。縮れたススキの穂がわずかに残っている。この尾根はカラマツが葉を落としているので明るくて展望が良く、ずっと富士山と葛野川ダム湖が見えている。しかし12月というのに富士の雪がえらく少ない。立派なダケカンバやコメツガなど登場。

   霜柱 踏む音高し 唐松尾根

   枯れ尾花 朝日を受けて 輝けり

斜度が落ちて尾根道はやや左に折れる。左手眼下には甲府盆地が広がり、その向こうに南アルプスの山並みが延々と続いている。依然として雲一つなく無風。とても12月の2000m級の山とは思えないポカポカ陽気で、少し汗ばんで来た。ダケカンバが多くなる。右上に雷岩方面が見え始めた。1880m付近の小ピークで一本立てる。メジャーな山にしては人の気配がなく思いの外静かだ。ここからわずかに下る。下草はずっと背の低いクマザサが続いている。このポピュラーな笹はこれまで《熊笹》だと思って来たが、実は動物の《熊》ではなく《隈笹》が正解。冬に葉の縁が白くなって歌舞伎の隈取りみたいだからこの名があるそうだ。かなりの急登になった。上から20人くらいの中高年の団体が下りて来た。山男らしい若者が前後を固めているので募集ツアーだろう。

振り返ると富士山から南アルプスの峰峰が一段とよく見える。岩混じりの急斜面の道脇には植生保護ロープが張ってあり、《これに捉まらないように》との注意書きがある。岩角を掴みながらガレの急登をゆっくりジグザグを切っていると、最初に抜いて行った若者が早くも下山して来た。振り返ると登って来る人が遥か下まで点々と連なって、百名山らしくなった。右の斜面は一面クマザサの原なので一段と展望が良い。左はカラマツやダケカンバの森である。少し風が出て来た。ジグザグのガレ道を喘ぎ喘ぎたどると、ようやく《雷岩》に辿り着いた。10時前だ。福ちゃん荘から1時間半も掛かっており、短いが登り応えのある尾根だった。ザックをデポしてピークへ向かう。10分弱で本日の最高点《大菩薩嶺》に到着。コメツガやシラビソなどの深い樹林に囲まれて全く展望はない。

 
富士山と南アルプス

富士山と南アルプスのパノラマ

 
雷岩からの展望は実に雄大である。空気が澄んでいるので遠望が利き、甲斐駒に始まって仙丈、北岳、間ノ岳、農鳥、塩見、荒川、赤石、聖、上河内そして光岳まで南アルプスのオールスターが居並んでいる。しかし、わずかでも雪を被っているのは仙丈、北岳、間ノ岳、塩見くらいで、前衛の鳳凰三山はもちろん甲斐駒他大部分の山々は黒いままだ。 富士の手前には三つ峠や黒岳など御坂山塊そして御正体や丹沢などの山並みが二重、三重に重なっている。左手目の前には小金沢連嶺が黒々と大きく盛り上がっており、葛野川ダム湖の湖面も大きくなった。しかし、東面は樹林に遮られて展望はない。気温は8度もあるがさすがに標高2000Mの風は冷たく、体感温度は3度くらいでシャッターを押す指がかじかんでしまう。    空澄みて ガレ道喘ぐ 大菩薩

   蒼き空 シャッター押す指 凍えけり

 
雷岩から賽の河原方面 八ヶ岳方面 賽の河原方面から雷岩方面
 
もっとも軍手もせず素手のままでいられるし、耳も冷たくないのだから大した寒さではなく、この後も毛糸の帽子も手袋も不要だった。 「雷岩はここですか?」 「そうですよ」 「大菩薩まではどの位ですかね?」 「10分も掛かりませんよ。展望はありませんけどね」 後から登って来た人に尋ねられた。存分に展望を楽しんでから、霜解けでややぬかるんだ道を大菩薩峠へ向けて下り始める。ここから峠までは一面の笹原で、快晴の空の下遮るものは何もなく正に稜線漫歩である。《標高2000m》の大きな標柱を過ぎ、旧青梅街道が通っていたという避難小屋のある《賽の河原》まで下ると少し登り返す。

   霜解けの 稜線辿る 大菩薩

 
賽の河原 雲取山方面 三頭山方面 大菩薩峠
 
《親不知の頭》の岩峰で一本立てる。すぐ下が大菩薩峠で介山荘も指呼の間である。ここからは今まで見えなかった東面の山並みがよく見える。 左から飛竜、雲取、七つ石、六つ石、御前山、三頭山などの山々がスカッと晴れた空にくっきりと浮かんでいる。それにしても、ほんのしばらく休んでいる間に登る人、下る人が引っ切り無しに通過して行く。 いくら百名山でももう12月だから人は少ないと思っていたが大賑わいである。わずかに歩くだけで高山気分を味わえるから人気が高いのだろう。天気も展望もいいから皆満足のはずだ。数分で立派な標柱のある《大菩薩峠1896m》に降り立つと、介山荘には土産物が並び、陽光と登山者が溢れていてすっかり観光地であった。 しかし、そこを抜け石丸峠に向けて一歩暗い森に踏み込むと雰囲気は一変し、静寂が蘇った。先程までの喧騒が嘘のように静かだ。ツガなど針葉樹が密生して昼なお暗しといった森の急登で歩みが遅くなる。日陰はさすがに気温が低く5度。霜柱も全く融けていない。 峠から20分ほどで《熊沢山》の右を巻き気味に通過すると樹林が尽き、再び陽光が戻った。一面のクマザサの原には光が溢れ、眼下には石丸峠、東には三頭山や御前山そして奥多摩湖も見える。《石丸峠》の道標には、《左 牛の寝通りを経て松姫峠まで3時間半》とある。右への道は上日川峠に通じている。
 
大菩薩峠 石丸峠 小金沢連嶺方面
 
ここを直進して樹林の中を少し登るとまた草原が広がった。《狼平》のようだ。道の東側の窪地にテントを設営し、昼食タイムとする。日当たりも良く風も当たらない絶好のサイトである。コンビニ調達の水炊き鍋をコンロに掛け、日本酒で乾杯。明け放ったテントから見える木々と青空のコントラストが何とも清々しく幸せな気分になる。 時折り人が通るけれど、ここから南下すると黒岳、白谷ヶ丸を経て湯ノ沢峠までかなりの距離だが、今からそこまで縦走するのだろうか?

食後の午睡を楽しんで15時前撤収。気温は4度だ。石丸峠まで戻り、左の上日川峠への緩やかな道を下る。クマザサとカラマツの気持ちよい道だ。葛野川ダム湖の湖面が夕陽に光っている。舗装された林道を2度横切る。小さな沢に出た。河原は公園のように整備されており東屋がある。 この辺りまではのんびり歩いていたが、いつまでも山深い下りが続くので上日川峠より南の砥山沢へ入り込んだのではないかと不安になる。二つ目の沢を横切ると道は大きく左へ回りこむ。はっきりした道なので間違いではないだろうと思うが、夕暮れが迫るし何となく不安を感じながら前進する。 余りにも下るので大きな登り返しになったらいやだなと思いながら歩いているとようやく《上日川峠へ》という道標があってほっとする。ダラダラ登りがかなり続いてくたびれた頃長兵衛山荘が見えてきた。やれやれ。  夕暮れ迫る市営駐車場には数台の車が残っていた。年納めの山行も無事終わった。