小春日和の水無山(1139m)
 
日 時:2004年11月23日
天 気: 快晴
行 程: 843高尾−923,933猿橋−955上和田−1042,1050760m地点−1200,1350水無山−1420尾越山−1440,1445尾根−1520,1530アンテナ−1540杉林−1610,1615麓山の人家−1630,1650バス停−1700,1710猿橋−1745高尾

ルート断面図とルート図
水無山断面図 水無山ルート図
カシミール3Dにて作成しています

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猿橋駅で下車、タクシーに分乗して国道139号を上和田へ向かう。雲一つない快晴で暖かく、風もない典型的な小春日和だ。空気も澄んで百蔵山、扇山がくっきり青空に浮かび、左手には岩殿山がいかつい姿を見せている。3月の宮路山の時にも通った葛野川沿いのこの道は松姫峠を越えて奥多摩湖へとつながっている。途中には松姫鉱泉というのもあったが、《松姫》とは誰で、何故松姫峠と名付けられたのか?気になったので調べてみた。松姫とは武田信玄の五女で、彼女が22歳の時織田軍に追われて剃髪して尼となり甲府から八王子へ落ち延びたのだが、その時にこの峠を通ったという伝説があり《松姫峠》と名付けられた。その後松姫は八王子に庵を開き56歳まで永らえたそうである。むろん、実際にここを通ったかどうかは定かではない。武田の落武者が多かったこの辺りでは慕う人も多く、あちこちに松姫伝説が語り継がれているようだ。

この周辺の山域なら大岱山、セーメーバン、宮路山、大久保山、奈良倉山など誰も知らない無名の山でもインターネットを検索すれば必ずいくつか山行記録が見つかるのだが、今回の水無山については記録が見当たらなかった。これは余程登る人がいない山のようだと期待が高まって来る。上和田でタクシーを降りた我々は、大月市制作の道標に従って狭い急傾斜の舗装路を歩き始める。のんびりした山村の風景が広がった。 「いい風景だね」「山古志村もこんな谷間の村なんだろうね」「こんな山村日本中にあるな」皆、先日の新潟中越地震で崩壊した山古志村を思い起こしながら歩を進める。あちこちにある柿の木には紅い実がちらほら残っており、農家の軒先に吊るされた干し柿に朝日が当たって晩秋の風情溢れる情景である。

道脇に寒桜が咲いている。一軒の大きな家の黒い板壁に白ペンキで《民宿かみわだ荘》と大書してあった。国道から10分程で集落の外れに到達。右の斜面の小さな道標がそこが登山口であることを示している。山道に入るといきなりの急登だ。気温は14度、ほとんど風はない。ヒノキの植林の中を右へ巻き気味に緩やかに登って行く。クリ、イヌシデ、コナラ、ホオノキなどの枯葉が道を覆っている。Hさんが立ち止まって高度計を調整している。「ここの標高はどれ位かな?」「えーと、620〜630m位ですよ」
 
上和田の登り口 寒桜 760m付近 メグスリノキ コハウチワカエデ
 
25000図ではこの位と読んだが、後で逆算すると実際はもう少し高かったようである。山道を10分程で分岐あり、左へ。続いて2箇所の分岐がありいずれも赤テープに導かれて左へ進路を取ったが、注意していないと見落として直進してしまうだろう。ここから長い長い尾根の直登が始まった。これだけの急斜面で全くジグザグのない1本道は珍しい。エンコウカエデ、株立ちしたウダイカンバ、リョウブ、幹の緑も瑞々しいウリカエデなどが目に付く。760m付近で1本目。周囲の木々がすっかり冬姿になっているので、3出複葉で濃いピンクのメグスリノキとコハウチワカエデの紅葉が際立って鮮やかだ。

   傾斜がやや緩やかになった。日当たりの良い気持ちのいい尾根道である。しかし、楽出来たのも束の間、再び急傾斜となった。コナラが10本くらい株立ち。コアジサイのやや白っぽい黄葉が並んでいる。振り返ると葉を落とした木の間越しに奈良倉山から松姫峠に掛けてのなだらかな稜線が陽に照らされているのが見える。ダンコウバイの黄葉がわずかに残っている。右はヒノキの植林。ドウダンツツジと思われる葉が色付いていたが、ドウダンの仲間は紅くなるはずなのに淡い黄葉だった。別種だろうか?とても12月間近の山とは思えないポカポカ陽気で背中は汗びっしょり。延々と急登が続くが、ようやく山頂が近い雰囲気になって来た。急斜面に落葉がびっしり積もっているので足元が滑る。ブナのツルツルの幹が陽に照り映えている。余程人が入らないらしく全く歩いた形跡がない。斜度が落ちて来た。    冬空に 残れる紅葉 艶やかに

   天高く 奈良倉の峰 たおやかに

   青空に 椈肌光る 冬の尾根

   深々と 落葉の絨毯 踏み締めて

 
山頂にて フランスパンを焼く 権現岳の上に月 麓山集落の人家
 
数本のシラカバの白い幹が目立つ。道がすっかり平らになった頃《大峰上和田》の道標あり、左に折れるとすぐ平坦な山頂だった。12時丁度である。もちろん誰もいない。周囲はすっかり葉を落としてはいるがミズナラやコナラなどの落葉樹にびっしり取り囲まれてほとんど展望が利かない。 三角点はなくコナラの幹に《水無山頂》の表示板がくくり付けてある。ここも日当たり良くポカポカ、宴会場はいくらでもあるが、少し戻って落葉の絨毯の上にシートを広げる。分厚い落葉がクッションになって快適である。すっかり定番になったビールで乾杯。Hさん手製のレンコンとベーコンの炒め物が抜群に旨い。 K氏がオニオンスライスを切ってくれる。続いてコンロにもち網を載せ、フランスパンを焼く。これも中々いける。さらにコンビーフとタマネギ・野沢菜炒め、海苔餅と続いて大いに満足。今日は運転がないので水割りを少し飲る。依然として雲一つない初冬の空は抜けるように蒼く、頭上の木々の小枝が日に映えて白く輝いている。 全く人気のない別世界。何とも贅沢な時間である。珍しくSさんが寝入ってしまった。

2時間近い宴を切り上げ、落葉の尾根を南へ下り始める。 左ミズナラ、右ヒノキ。30分で尾越山の三角点を通過。ここから急な下りとなった。長い間人が歩いていないらしく、落葉に隠れて道がよく判らないが構わず下る。危険な崖もないし、下草や藪もないだだっ広い斜面なのでどこでも歩ける。正面には権現山から扇山への稜線が高い。尾根の急斜面で休憩。オレンジ配給。踏み跡はほとんどないが、同じような急斜面をドンドン下る。どうみても本来のコースからは外れたようだが、とにかく適当に下れば国道139号に出ることは間違いないので慌てることもない。「今日はLEDの明るいヘッドランプもあるし暗くなっても大丈夫だよ」 K氏はおニューのライトを使いたくて仕方ないらしい。TV中継アンテナのある所で再び休憩。権現山の上空に白い月が浮かんだ。夕陽が右からイヌブナ、イヌシデ、ミズナラ、リョウブなどの木々を照らしている。

   水楢の 小枝輝く 青き空

   権現の 上に半月 浮かぶなり

   残照に 尾根の小楢も 輝きて

   雲一つ 無き空仰ぎ 下り行く

依然として急降下が続く。杉林で小憩。遥か下に集落が見え始めた。突然、Hさんが転倒して滑り、頭が下になって起き上がれなくなった。 「大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫だけどザックが下になって起き上がれないよ」 すぐ助け起こしたが幸い怪我もなくほっとする。16時過ぎようやく人家のある所に出た。畑の中の鉄パイプで組んだ階段を下りる。

突然の闖入者に驚いている住人に聞くとここは麓山という集落だそうだ。たまに登山者が下りてくるらしい。地図を確認すると、尾越山を少し過ぎた辺りでルートを完全に外れて北斜面を下ってしまったようだ。どこで間違えたか判らないが、本来のコースよりかなり手前を降りたことになる。 まあ、ルートファインディングには失敗したが、道無き道を歩くのも山歩きのうち、楽しい山であった。ここから急な舗装路をしばらく下ると国道に出た。すぐ近くに《井戸地》というバス停があったが、次のバスは1時間後なので携帯でタクシーを呼ぶ。晩秋の日暮れは早く、15分程でタクシーが来た頃には暮色濃くなっていた。